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10話 ティーラスでの失敗






 やってきました! ティーラスの首都ティルス!


 今俺達は全力で走っています。

 なぜって?実はここティルス。俺達が訪れた二箇所目の街なんだ。


 ティーラスの最南端にあるサウスティルスっていう街に行ったんだよ。

 見た感じは、ちょっと荒れてるけどヨーロッパ風の素敵な街だったな。


 しかし、全く観光はできなかったんだ。





 ちゃんとさ、人から見られる前にワンコから降りたし、小型化もさせたんだ。

 それが逆にいけなかったのかな……




 まずは街に入る直前、見知らぬおっさんAからのすれ違いざまの先制攻撃。


「よぉよぉ! すっげえ美味そうなの連れてるな! 俺にも食わせろよ!」


 ウチのワンコたちをキラキラした目で見ながら、食欲を露に言い放たれる事案発生。

 俺達は「食べません!」とだけ答えて逃亡。


 ああ、勘違いはしないでくれよ。このティーラスという国に犬を食べる文化はない。

 野犬はともかく、飼い犬は狩猟犬や番犬として活躍してる。しっかり人族と調和しているんだ。


 だからこそ……このおっさんはごくごく一部の頭のおかしな人なんだ。そう思っていた。




 続いて街に入った直後、見知らぬおっさんBからの追撃。


「かわいいワンコたちだな。フワフワじゃねえか! ちょっと舐めさせろよ!」


 可愛いものに目がないおっさんなのか? おっさんAみたいに食欲を刺激されたのか? 

 どっちだ! どっちなんだ!

 どちらにせよ逃亡が正解だ。なりふり構わず全力で逃亡。




 最後は逃げた先。大道りをひたすら駆け抜け、大きな教会の前で休憩していたその時だった。

 神父さん……いやもうおっさんCでいいな。おっさんCからのトドメの必殺技。


「神はおっしゃっている。ワンワンの肉球をクンカクンカする者こそが真のペロペロとなりて、敬虔なる信者こそがワンコの糧にならんと叫ぶ!」


 こんなふうに叫びながら、ウチのワンコたちを捕まえようとしてきた。もはや意味がわからない。





 この街に俺たちの居場所はないと判断。

 急いでワンコを三匹とも抱きかかえ、街から離れる。


 サクラは生ゴミを見るような目で街を見てた。

 コウメイなんて……なんかブツブツ言ってるなー。と思って耳を澄ませば、聞こえてきたのはこれだぜ?


「この撤退も、筋書き通り……」


 なわけあるか!

 どう考えてもここにいるのはマズイ。コウメイご乱心の可能性がある。こんなとこであの不思議連弩ぶっぱなされたら街が滅びる。

 もうあの街には入れない。次の街を目指すしかなかったんだ。





 うん。思い出すと落ち込むわ。仕切りなおそう。サウスティルスなんてなかった!


 やってきました! ティーラスの首都ティルス!


 もうね。同じようなミスはしたくないからさ、そのまま冒険者ギルドまで駆け抜けるつもりだ。

 コウメイとサクラも一言も話さずに無言で走ってた。


 気持ちは痛いほどわかるよ。変態との遭遇って恐ろしいよな。



 とりあえず走りながら冒険者ギルドを探して、そこに入ってさっさと素材を少しだけ売る。

 人里で一文なしは辛い。

 ついでに、そこで魔物討伐で有名なギルドがどこにあるのか聞く。この作戦でいこう。




 お、早速いい感じの冒険者ギルド発見!看板には【冒険者ギルド・ガルサ】と書いてある。

 とても重厚そうな大きなドア。引けをとらないどっしりとした造りの建物。

 そしてガルサという屋号。屈強そうないい名前だ。




「こんにちは!」


 俺は足を止めて大きなドアを開ける。そしてすぐに元気よく挨拶をした。挨拶は基本だよな。

 コウメイとサクラは外で待機するようだ。心の安定が必要なんだろう。


 一瞬で注目が集まる。

 マッチョな肉体派。冷たい目をした魔術師風の男……

 おそらくここにいる全員が、一流の使い手だ。


 なぜかって?明らかに俺を警戒しているのだ。

 けして目を合わさないようにしているのか目線は少し低い。首元くらいだろうか?だが、たしかな注目を感じる。

 俺はパッと見では強そうには見えないだろう。


 ――本物は本物を知る――

 間違いない。大当たりだ。




 そういうことなら、俺も気を引き締めないとな。

 舐められないように真っ直ぐに受付けを見つめ、近づく。


「素材の買い取り。頼めますか?」

「え……あ……はい……。それはもちろん可能ですが……」


 む? 戸惑っている? まさか受け付けのお嬢さんまで……感じ取ったというのか!?


 すると後ろから、冒険者に声をかけられた。


「なぁそこの兄ちゃん。首……大丈夫か?」

「おいやめとけよ! うつったらどうすんだ。アホになりたくないぞ!」

「お前も声がでかい! こっち見られてんぞバカ!」




 ――――!!


 まさか……まさか……。俺は恐る恐る首を見た。

 抱きかかえた3匹のワンコが……必死に首元に噛み付いていた。


 やっちまった。やっちまったよ!

 やばい恥ずかしい。

 なにが――本物は本物を知る――だ。

 どう考えても見られてた理由これだよ!


 ワンコたちもそりゃ怖かったわな。

 次から次に欲望をぶつけられて、その後すぐに俺に抱えられて猛ダッシュで移動だ。


 はぁ。ワンコたちを攻めるわけにはいかん。気付かなかった俺の――

 ――いやふざけんな俺のせいじゃねえよ! どう考えてもサウスティルスの変態どものせいだよチクショウ!



 なんて言えばいいんだこれ? 気付きませんでしたとかおかしいよな。どうする? どうすればいい?



「さえずるなっ……! 貴方たちは優秀な冒険者であろう! このような些事にうろたえてどうするっ!」


 いや俺なに言ってんだ。

 元凶がこんなこと言っても、余計変な奴だと思われるのがオチなんてわかりきって――



「……まさか国の関係者か?」

「事情を知ってるのは間違いなさそうだが……意味がわからんぞ?」

「あんなことが起こってるんだ。俺たちが平常心を保てるか……試したんだろう」

「なるほどな。自分で恥かいてまでテストとは恐れ入るぜ……」



 え? なに? なんかうまくいった?


 よくわからんが確実に空気が変わった。結果よければ全てよしだ。

 後はもう何事もなかったかのように振舞おう。

 どうせ何度も会う相手じゃない。忘れてくれるはずだ。


「すみません。お騒がせしました。これ――買い取りおねがいします」

「はい。ありがとうござ……やはりそうでしたか。少々お待ち下さい。担当の者と替わります」


 え? そのまま買い取りの流れだったよな? やはりってなに?

 これはコウメイを呼んでおいたほうがよさそうだ。


「はい。では外に仲間を待たせているので、呼んできますね」

「かしこまりました。では、またこのカウンターにお願いします」





 コウメイとサクラを呼び、妙な空気感に不思議そうにしている二人と待つ。

 奥から2メートルに届きそうな大男がこちらに向かって歩いてきた。



 え? まさかこの大男が買い取り担当? すっげえ迫力なんですけど……

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