第4話 初めてのクエスト依頼主
「…で、さ、リィ。何でそんなフードを被ってるんだ?」
村の家々から細い湯気がたなびき、各々の家から夕飯の匂いが漂ってきたのが小さく見えてきたころ。リィは自分のフードを目深に被り、自分の尻尾をズボンにしまった。俺としては非常に不本意なのだが。
「先ほども説明しましたが」
ジロッと蜂蜜色の瞳で俺を睨みつける。
「いや、リィはさっきヒト族に猫人族が行くと信用を得ずらいとは言ったけど、その理由をちゃんと説明してほしい。こっちはご覧のとおり、本当に何もわからないんだ。お願いだからそんな睨まないで」
「ヌルクのことを睨んでるつもりは無いです。…その、私は一族の中でも目つきが悪い方ですので、睨んでる様に見えますが、それは思い違いです」
そう言って彼女は目を少し擦った。目頭をギュッと押さえる。本人的には気にしていたらしい。ごめんな。
「さて、猫人族とヒト族の関係でしたね。ヒト族…ヒトたるヒトの長、ヒューム族、長寿の長耳族、手先が器用な小人族などは、聖なる神をそのまま象った一族とされています。彼らは聖神の体を持ち、眷属として作られた、とされています」
しかし、とリィは続ける。
「私のような猫人族、先ほどみた鬼族など、ヒト族とは違う身体の器官を持つものは邪なる神の眷属として伝えられています。私は耳と尻尾、鬼族は小さな角、というように。ヒト族たちの言い伝えでは私たちのような者たちを邪なる魔神の捨て子として伝えられているのです」
「そうか。神話的な意味で元々相容れないのか」
「はい、できれば私も猫人族だと村にバレたくはないです。それは非常に危険性を高めることになるからです。あと、この村…なんだか良くない匂いがします」
「良くない匂い?」
「はい。申し訳ないですが、念の為今日は村に着いても水や食事には手をつけないで下さい。私が持っている保存食と水筒で今日はなんとか」
「どういうこと?村の人間が僕らを殺そうとしてるってこと?」
「まだそれは見ていないのでわかりません、が用心に越したことはないです」
リィは自分のフードを更に目深に被り、完全に目元を隠した。夕日の逆光も相まって、完全に猫人族とはわからなくなった。
「了解。俺も用心するよ。もしかしたら俺もリィの依頼にも力になれるかもしれない」
「ありがとうございます。外なる世界から何人か来た者を知っていますが、ヌルクは非常に頼りになりそうです」
「ありがとう。で、さ。これってもう村に入ってるのかな?なんだか、こう、さっきの平野と余りこう…違いがなく見えるんだけど」
恐らく会話の雰囲気から何となく村に入ったんだろうとは思うのだが、どうもこう風景に違いがないように見える。何というか【平野に何となく作物植えたら育ちました】と言ったような。
「ああ、それは…恐らく先ほどみたゴブリンの襲撃によって幾度となく壊され、畑そのものが荒らされた結果だと思います」
良く見ると、たしかに元あぜ道のようなものや、元柵のようなものがある。しかしそれはボロボロに壊され、そして修復しようとした形跡もあまりない。
「…村の人、色々諦めてしまっているように見えるね」
「はい、ですが全ての人が諦めたわけではなさそうです。私に依頼を出した方は、諦めているわけでは無いようです。もうすぐその方の家に着きますよ」
リィは1つの家を指差した。あの家の主がクエスト依頼主なんだろう。家の前に着くその時、タイミングよく薪を抱えた青年が家に入るところだった。
「失礼します。こちらは依頼を出した、アムス様のご自宅でしょうか」
薪を抱えた青年がこちらを向き、
「あ、ありがとうございます。私がアムスです。今回は遠いところからありがとうございました。お一人、とお伺いしたのですが、そちらの方は?」
「この方は旅の道中でゴブリンの一団から私を助けて下さった方だ。この依頼の助けになるとのことで、今回は共に来て貰った」
「そうですか。こんなところでなんですから、一旦家の中に入りましょうか」
そうして俺、リィ、そして依頼者のアムスは家の中に入っていった。
次の投稿予定日は1/4です。