第2話 初めての人外娘(?)、初めてのスキル
空。
ここの世界の空も青いらしい。
(意識レベルははっきりしてるな…手は動くのかな)
試しに手を少し動かしてみる。
手を顔の前に持ってきた。空を手のシルエットが切り抜いている。あまり腕に重さを感じないところから言うと、どうやら地球レベルのGで動いてもいいらしい。
寝返りをうつように転がる。目の前が10cmほどの草に覆われる。どうやらここあたりは草原らしい。草の匂いを肺に満たす。安息体位の状態になるようにもう一度転がり直した。
さっきの文字化けのスキルは一体なんだったのだろう。時間制限でさっさと取らざるを得ない状況だったとは言え、説明がないのも困る。
「スキル、なぁ…これで人外娘に会える、とかならいいんだけど、そんな感じでもなさそうだったしなぁ」
今まで取れたスキルは人外娘を治療する、もしくはそれを補助するスキルばかりで、会えるとかいう直接的なものではない。だからこれからは人外娘に俺が会いにいかないと行けないのか。この世界がどれだけ広いのかよくわからんが、場合によっては会えないまま野垂死にだ。それだけは避けたい。
となれば先ずは起き上がってーー
ん?
耳に何か自分の身体の音以外の音が伝わってくる。地面だ。地震というか、地響きが伝わってくる。規則的なこれは恐らく馬か何かだろう。
そしてその音は大きくなってきた。マズい!
素早く身体を起こす。周りを見渡す。幸いにも近くに大きくはないが岩がある。水から上がったばかりのようなダルい脚を叱咤しながら、岩陰に身を隠そうと近づいたその時。
「危ないっ!!」
鋭い声が耳に刺さってきた。
「自ら動いて的になる奴がいるかぁっ!!」
そう言って俺を引っ張り上げた声の主は、
ピンクブロンズの髪に同色の猫耳を生やした娘だった。
「そこに隠れろ!何かあったらこのダガーと道具を!」
猫耳娘は自分のポーチを俺の足元になげた。
俺は岩から数メートル後ろに突き飛ばされ、猫耳娘は小さな岩によじ登った。
猫耳娘は矢をつがえようとしたが、敵の方を見て目を細めると、
「あちら側からざっと8-10は来るな。ダメだ。ひくぞ!」
と叫けび、ポーチを拾った。
俺も立ち上がり逃げようとしたが、脚に力が入らない。腕を使って脚を立たせようとするが、脚にまるで鉛でも入ったかのような重さだ。
猫耳娘は俺の方をちらと見るや否や
「おまえ…立てないのか?腰抜けが!」
と叱責してきた。
「仕方ない…が、隠れるところがどうにもな。このままだと見つかって2人とも死ぬぞ」
「す…すまない…力になれず」
俺は掠れ声で謝罪した。
「いや。いい。今は静かに」
そう静止され、猫耳娘は自分の耳を動かした。
「敵が近い。私が前に出る。お前は絶対に動くな。いいな」
そう言って、彼女は弓と矢とポーチを身に付け、俺から離れた。
ああ、俺はこんなところで死ぬのか?
猫耳娘に腰抜けと罵られたまま、不甲斐なく。
結局俺は全く何も出来てないじゃないか。
ああくそ、くそ、くそ、くそ…!
草地をわずかに這って、今度こそちゃんと岩陰にかくれようとして、岩を掴んだその時、
《周囲に力線を探知しました。スキル《力線の支配者》により、周囲の地形を変化させることができます。使用しますか?》
!?!?!!?!!!???
時間はない。おそらく試す価値もある。やろう。
が、もう1人の猫耳娘は?周りを見渡すと猫耳娘が40mは先にいて、もうすぐ敵と接敵しようとかけている。
俺が見つかるのも時間の問題だ。
ならば。
「おーい!戻ってこい!早く!!!」
俺は彼女に叫んだ。
「腰抜け!何やってんだ!!!」
「いいから早く!戻ってきてくれ!」
彼女は俺に向かって駆け出し始めた。
敵は、初めて見た敵はゴブリンだった。
下卑た叫び声に石の剣を持って猫耳娘を追いかけている。
馬に騎乗して石の剣を持って突撃してきたそのゴブリンは、猫耳娘に剣を振り下ろす。彼女はかわし、横に逸れた。急な軌道変更ができなかった馬は横転し、ゴブリンも落馬した。
それを見もせず彼女は俺の元に駆け出した。俺の伸ばした手に指先がかかりそうになったその時、
《スキル《力線の支配者》を起動します》
無機質な声が頭に響いた。
猫耳娘の言葉にならない叫び、ゴブリンどもの意味不明な喚き声を聞きながら、俺は再び、
意識を失った。