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魔王国軍総進撃〜進撃するとは言ってない〜  作者: 甲斐たけさぶろう
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【駆除】

 「「あーっ!!」」


 実験に参加していた全員が目を見開いて叫んだ。口をあんぐりと開けたままの者もいる。

 

 強いモンスターを造り出すための試験の最中、最後の最後で不測の事態が起こった。物と事象と生物を合成し、これまでにない新しい種の魔物が出来る試みの最終局面――




 胸が踊っていたのだ、皆で。期待していたのだ、歴史の目撃者になれる瞬間を……

 当然ながら私も興奮していた。モンスター工場の者達と気持ちを共有していたであろう。

 古くからそびえ立つ巨大な施設の最奥にて、魔王軍の増強を謀らんと、試行錯誤を重ねていた。 



 しかし……


 強い魔物になるだろう孤高の狼を一匹、素材を入れる手筈のその瞬間に――

 

 “茶色く脂ぎった見苦しいあの害虫”が、自らカサカサと浸入していってしまった……


 緊急事態である。

 最悪でなことに、合成に必要な魔力を極限に設定してしまった。


 これまでうまく行き過ぎていた。試したことがことごとく当たったのだ。だから、装置にある『最大』の釦を押すことに何の躊躇もしなかったのである。


 極限魔力設定は、如何に虫けらといえども“強大で凶悪な化け物”になる。


 「調子に乗り過ぎましたよね?」検証実験に参加していた者達が私の方を見ている。その目はまるで容疑者を見るかのように猜疑的だ。しかし、明らかに連帯責任で、人為的過失である。



 誰もが見たことがあり、疎み、忌み嫌うあの不潔極まりない虫。

 発見した時、黒い異物にハッとさせられたことがない者はいないのではなかろうか。ちなみに私は即時殺さなければならないと思う派だ。

 

 しかしながら、其奴の抜群の危険察知と回避能力によって皆が悪戦苦闘を強いられるはず。とにかく素早い。

 仮に殺害に成功したとしても、潰して体液をぶちまけようものなら更に嫌悪を催す。処理に困る。

 「うっぷ」口を手で塞ぐ。それを想像すると吐き気がした。

 

 ああ、そうだ。私が万全の状態でなかったことを忘れていた……

 さっきまで倒れかけの状態だったのだ。

 


 悪い事はいつも重なって訪れる。タイミングを図って最悪を狙っているかのようだ。って、そんな哲学的なことを考えている場合ではない。



 その害虫、瞬発性や最大速度に関して言えば、節足動物の中でも群を抜いている。数多の動物の中でも指折りのスピードではないだろうか。家の中に現れた時は酷く手を煩わせるものだ。


 駆除する際、どのような魔法で殺すか迷う暇はない。絶対に殺さないといけないわけで、一瞬の猶予も許されないわけなのだが。


 いっそのこと虫を殺す専用の魔法でも開発されないものか。

 攻撃系の魔法だと、小さく素早いから照準を合わせることが難しい。炎魔法を使って何度か小火を起こしてしまったこともある。

 そういう時に限って目的を果たせず逃がしてしまう。逃がしてしまった時の後悔といったら例えようがない。

 家具などの隙間に入り込まれたら為す術がないのだ。



 私は結局、物理攻撃で仕留めるのだが、もちろん直接触りたくない。武器などで攻撃して汚したくない。


 だから、要らなくなった布や紙で撲殺するに限る。しかしながら、威力の調整には難儀せざるを得ない。潰してしまえば嫌悪感に嘖まれるからである。


 攻略にはいつも葛藤が付きまとう。


 そうだ。お次は魔法開発センターを訪問して害虫駆除専用の魔法を創らせよう。国民に絶対受けるはず。



 そんな風に私や我が国民を悩ませる虫がベースとなるこのモンスターだが、偶然生み出されたにしても、これまでの検証結果と照らし合わせれば新たな性質と新たな属性を有することになる。


 先に装置に投入した“剣”と“炎"の攻撃性。


 剣との合成では鋭利で硬く主に金属の特性を持つことになり、更に炎との合成では火を纏うことになるだろう。


 工場の者達、非戦闘員は恐怖に奮えている。それもそのはずだ。魔王のこの私ですら、雑魚モンスターを製造するつもりだったことを忘れているのである。


 ただでさえ嫌というほど手を煩わせる物が猛烈に厄介な存在になる。




 ビービービー!!! 

 警報音がけたたましく鳴る。



 ――次の瞬間、破裂音とともに、魔物の生成装置が爆発。


 

 「「あーー!」」

 私を除く非戦闘員一同が爆風によって吹き飛ばされた。


 発生した爆煙で視界が悪くなってはいるが、激しい魔力だけは痛いほどに感じ取れる。

 明らかに雑魚ではない。


 ボス級、いやそれ以上かもしれない。


 少しずつ視界が晴れ、シルエットが顕わになってくる。

 デカい……


 そして、気持ち悪い……


 優に三メートルはあろう高さ、頭部から尻まで全長十五メートルほどの化け物がそこにいた。夢にも出そうだ。このまま殺したら、延々と追いかけられる夢を見そうで心底怖い。


 「あ、あぁぁ……」

 いつもモンスターを製造している作業員ですら言葉になっていない。


 装置に浸入していった害虫は焦げ茶色をしていたはずだが、鈍い銀色をしており、金属の性質が顕れているようだ。

 触覚や手足は更に鋭利になっており、高い攻撃力を示している。


 動くと金属と金属がすり合うような嫌な高音が響く。カサカサと動いていた虫けらがガシャガシャと動いている。

 気持ち悪い中にも少し格好良さがあるかもしれない。これは個人差あると思う。



 どこにでもいる害虫がそのまま巨大化しているわけではない。まして、凶暴化しているのだ。


 「殺すしかないよな?」

 「お、お願いします」

 私は、一応確認を取った。

 そして非戦闘員を即座に避難させ、殺意を高めた。


 「ご無事で……」工場長や研究員達は祈りながら退避していく。中には逃げさせてもらえることに安堵の表情を浮かべる者もいた。無理もない。


 「魔雀の件もよろしくお願い致します!」工場長が去り際に叫ぶ。

 「!?」私は虚を突かれた。


 と、同時に浴びるほど飲んだ忌々しい酒の記憶が蘇る。肝を潰されたような感覚。

 そうだった。何日も寝込まされた原因がこの工場にあった……



 「キシャー!!」虫が雄叫びをあげる。

 思い出したいことが色々あるのに、こいつは待ってくれない。すでに臨戦態勢だ。


 私の殺意に呼応するかのように虫はこちらを向く。目の前の魔族を王と知る由もない……

 弱肉強食の理を身を持って教えてくれよう。


 哀れなモンスターだが、制御が効かないのならその命を絶ってやるしかない。魔物として転生し、あまりにも間もないが死んでもらう。王の手によって殺されるのであれば本望ではないだろうか。


 私が攻撃の動作に入った瞬間――


 ――ドンッ!!


 全速全力での突進。

 速い。予備動作がなく、気づいた時には懐に入っていた。初撃を食らってしまう。


 元は虫と言えども金属の質量となっていることで、凄まじい破壊力である。私もろとも後ろの壁にめり込むほどの攻撃。こんなダメージを受けるのは久しぶりである。



 ――正直、痛気持ち良い――


 魔族王の息子として生まれ、何不自由の無い暮らしをしてきた私にとって、ダメージを負うということは滅多になく、とても新鮮だったのである。それにしても程良い攻撃である。


 も、もう一発食らいたいかも……


 少し欲が出てしまった。はっと我に返るとデカい奴に突進されている。滅茶苦茶気持ち悪い。カチャカチャ咀嚼音がしている。大きいから細部まで良く見える。あまりにも気色悪くて少し吐いてしまった。


 工場の者達を避難させておいて良かった。攻撃によるダメージで吐いたと思われると心外だからである。


 しかしながら、なかなかの驀進。ゲロを吐きながらも感心の一言に尽きる。





 次は触覚の先端が私に向かってきている。鋭く尖っていて長剣のようだ。長い触覚故、しなりが速度を増している。

 その猛烈な突きに、私にゲロを吐き続けている余裕はない――



 昆虫と言えば、触覚が感覚を司る大事な部位であるとされている。その触覚で攻撃してきたのであるから興味深い。手足よりも使いやすいのであろうか。その辺りはモンスターっぽくなっている。


 攻撃の刹那であるとはいえ興味が尽きない。


 触覚攻撃は単純で直線的だったので、首を曲げるだけで避けることができた。知能は虫のままといったところか。触覚はそのまま壁に刺さって抜けなくなっている。


 距離を取ると同時に触覚を一本焼き千切る。


 するとどうだろう。感覚を失い、右にしかアタックしてこなくなっている。


 実に虫けらっぽい。滑稽だ。


 馬鹿にする私に対して怒ったのであろうか。憤って地団駄している。素直に反応するあたり、私の部下より余程気持ちがわかるかもしれない。しかし、足をバタバタするとガチャンガチャンと金属音がうるさい。お互い理解には及ばないようだ。




 次の瞬間――突如、火を噴いてきた!


 突然の遠距離攻撃に正直たまげた。


 私は避けずに炎の魔法で応戦する。炎と炎がぶつかり、凄まじい猛火が生じ、一帯が火の海に包まれた。

 ここはモンスター工場の最重要設備である。


 威力的にこちらに分があったので、害虫の方が火達磨になった。たまらなくなったのであろう。逃げようとあちらこちらの隙間に入ろうとする。転生前の習性といったところか。

 

 しかし、何メートルもある化け物が入る隙間など部屋のどこを探してもない。とにかく間に入ろうと壁に体当たりしまくっているのである。部屋はボコボコになっている。

 二度目になるが、ここはモンスターを生産するための施設であり、魔王国軍にとって大事な場所である。


 破壊され、焼け焦げ、重要機密の見る影はなかった。


 触覚を片方無くした虫は、ぐるぐると円を描きながら火を吹いている。惨憺たる状況と言わずに何と言おうか。




 一方、その頃――

 工場の外では、避難した作業員達が火に包まれる職場を眺めていた。


 「すさまじい戦闘だな……」ある者が恐る恐る口を開く。火柱は天高く舞い上がり轟々と燃えさかっている。


 「明日からどうなるんだろう」自身の働き口を心配する者もいる。

 「休みだな」それを聞いた工場長があっけらかんと答えた。

 「魔雀しようぜ!」工場長の閉館宣言に皆が歓喜していた。どうしようもなく楽観主義がはびこっていた。


 工場は害虫に侵略されようとしている。それをさせんと自国の王が身を挺して戦っている。 労働者達は職場と王が大火災に包まれようとも、彼らにとって魔雀が大事なのであった――





 「流石に被害が甚大だな……半分は私がやったようなものだが……」


 こちらを忘れてのたうち回るモンスターを見て、早々止めを指さねばならないと考えた。少し遊びすぎた……


 作戦として、まず水の魔法で火災を止める。そして、そのまま凍らせ虫を行動不能にする。寒さは苦手なはずである。冬には出てこないのだから。

 どうしてこんな簡単なことを考えつかなかったのだろうか。


 ちなみに魔族は、炎や氷を魔力によって操れるものの、戦闘行為自体に名称はない。技の名前など格好付けがやるものである。





 ――そうして、害虫駆除も本気を出せば瞬時に終わった。あっけないものだった。




 工場長達も安否の確認に戻ってきた。


 「大変な戦いでしたね……」労いの言葉は有り難いが、被害状況が甚大でなんとも言えなかった。私もだいぶ破壊したからである。


 「ゴキブリがモンスターになると大変なことになるな……」私が答えると、氷漬けにされたモンスターを指さした研究員がこう言った。



 「これ、コオロギですよ」


 「え?そうだったの!?」

黒い点を見つけると、ゴキブリじゃないかと被害妄想が捗るようになってしまいました。

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