【勇者目覚めの予言】
前回は真面目な話を書きました。ですが、私自身そう真面目でもないのでうまく書けませんでした。自分自身でどうにでも出来るファンタジーなら、と思って再チャレンジしましたが……やっぱり私は真面目だったかもしれません。そういう優柔不断で調子に乗りやすく、思慮や経験の浅い人を主人公にしました。主役である魔王に共感して頂けたら幸いです。今回は連載で頑張ります。
本当にもう、嫌だ……
今回も四天王が全然揃わない。
――私と大臣の二人だけ。
異様に体のでかい奴もいるからわざわざ広い会議室を使おうとするのだが、如何せん虚しい。なにせ二人しかいないのだから怒りを通り越して、悲しくなる。
四天王の欠勤についての詳細は、無断欠勤が二名。もちろん常習犯である。
明らかに虚偽の理由でのサボタージュが二名。こちらも常習犯であるが、一人はいつも内臓にどこかしらの不具合を生じ、もう一人は親戚がいつも死んでいる。
今回は、重要な会議であった――なぜならば、『勇者が目覚める』という予言を大臣が入手したからである。勇者は必ず我が牙城を崩しにやってくる。
私は魔族の王たる責務を果たすべく、日々領土の拡大と戦力の増強とその維持を図っている。とは言っても、その直属たる部下達がこの有様であるから、中々捗っていないのが大きな悩みなのだ。領土は主に4つの国に別れており、火の国、水の国、風の国、地の国。そして、それぞれをやる気の無い馬鹿どもが統治している。
元々は先代魔族王である父が、先代の四天王とともに完全無欠の魔族国家を形成していた。領土、戦力ともに今の比ではない。しかし、その時代の勇者が現れ、瞬く間に滅ぼしていったのである。父は命が燃え尽きつつあった最期の力を振り絞り、王国の転移に成功した。
「後は、頼んだぞ……」
そう言葉を残し、勇者一行と無理心中に成功する。父の最期は儚く、泣いていたように見えた。本当に泣いていたのか今となっては確認のしようもない。けれども、冷酷な虐殺を繰り返していた父であったために、涙腺というものが備わっていないと思っていた。もちろん、父の涙を見たのは最初で最後ではなかろうか。一代で王国を築きあげたその背中はとても強大で、まさに覇道そのもだったと思う。暴虐武人の限りを尽くし、力で圧制していた。やり方としてはいかにも魔族風である。
ただ、ここで大きな壁となるのが、私は初代国王とは全くタイプが違うということ。
――覇道を突き進む強大なメンタリティは私には無い――
自分で言うのも癪だが、至って平々凡々な性格である。王族として生まれ、一人っ子であったので、人生においてさほど苦労したことはこれといって無い。
どこの組織でも初代と二代目の差というのは、良かれ悪かれピックアップされる。不幸にも、悪いケースの方に身を置くことになろうとは……
そんな私は先述の通り、とても悩んでいる。部下の統率然り、王国の統治だけでも苦労していたのに、勇者の出現は本当にまずい。絶対また滅ぼされる。勇者の状況が気になって仕方が無い。
「勇者の状況は?」
「島にいるようです」
島ってどこの島だよ……ヘルクラッシャー大臣、こいつはいつもそうだ。忠実であるのは非常に有り難いのだが、報告連絡相談が下手である。聞くと、あくまで予言であって詳細が分からないと言う。『島で、勇者が目覚めた』と言っても近いか遠いか分からないし、現状どれほどの力を有しているか全く未知数なのだ。
しかし、私もいい加減であるとは思うが、島ならば南のシクヤマ諸島であると推測した。目覚めたばかりならば最優先事項から外しても大丈夫なのではないかと考えたのである。とりあえず向かわせるのは雑魚モンスターで大丈夫ではなかろうか。そうヘルクラッシャーに命じたのである。
数日後。雑魚モンスターが怪我無く帰ってきたらしい。真夜中に大臣から通達を受けた。こいつはやっぱり報連相が下手である。朝で良いのではなかろうか。わざわざ寝込みを狙ってくる。しかし、万一緊急事態だったならば…とそれなりに身支度をして報告を受けなければならない。
寝間着のままでは王たる威厳がともなわないので一々着替えるのだ。私はこういうところは几帳面に徹している。だからこそ、非常識である大臣や四天王にはいつも苛々させられるのであった。
「雑魚モンスターの送り先を間違えておりました!」
こいつ、一度大臣を降格させた方が良いかもしれない。間違っていたことはそもそも問題であると思うのだが、どう考えても真夜中にわざわざ起こす必要はない。何回言っても是正されない。
私は父のように部下の失態に一々封印したりはしないし、殺したりしない。そもそも時代が違うのである。今の五倍はあったであろう昔の国家は魔族も多かったので、すぐに補充することができた。実力こそが権威であって、猛威を如何ほどでも奮えた。古き良き時代だった――
懐古しだしたらキリがない。私は今度こそ地図で確認し、位置情報を共有させてから向かわせるように命じた。馬鹿大臣もその部下を使って伝達をしたらしく、伝言する課程で誤った情報にすり替わってしまったのかもしれない。そう思ったので、地図を複写し印を付けて渡すように助言した。こうすれば間違えることはない。
三日後。憎たらしくもまた雑魚モンスターが戻ってきたらしく、報告を待った。
「シクヤマ諸島ではなかったようです…」
しくじった……あくまで島というヒントしかなかったから外したのである。これは私のミスである。予言に予測――確定的なものが一つも無い。部下に笑われる。私は平然を装い次の指示を出した。シクヤマではないならワオナキしかない。すぐに雑魚を派遣せねば…
一週間後。
「申し訳ございません。雑魚モンスターが勇者を発見できませんでした」
確かに勇者の容姿が全然分からない。迂闊だった……勇者というのは恐らく青年で剣を所持していて、目覚めたばかりは割とみすぼらしい格好をしているのではないだろうか。しかし、これはあくまで世間一般的な勇者像であって、今回もそうと限らない。女勇者という可能性も拭えない。完全に見切り発進だった……
いや、待て。雑魚モンスターがきちんと暴れたのだろうか。暴れると、それが餌になって勇者をおびき寄せられるはずである。確認が必要だ。
「えっ!? 暴れさせる?」
案の定、暴れるプロセスが足りなかった。こちらから指示することを怠ってしまったことが原因で、明らかに私のミスだった。ちゃんとその分の料金も提示していなかったし。倒した後にお金やアイテムを落とさなかったら、戦闘になりにくいだろうし。
他に考えられることはないだろうか……いや、予言が外れている可能性も大いにあり得るわけであって、これは例えるならば釣りのようなものだ。罠のような感覚で、引っかかれば良しとする。勇者の存在が確認できれば、今後の対策を考えることが出来るのではないだろうか。
それくらいの気持ちで望んだ方が作戦としては上出来である。今度は少し範囲も広く暴れ回るように地図で範囲も示した。
そしてまた数日が経過した。
「派遣モンスターが村人に倒されたとのことです!」
えっ……
魔族の最高権力者らしからぬ声を上げてしまった。聞くところによると、モンスターがうろつき始めたという情報が人間どもの警戒を強めたらしく、防衛のための武装が著しく増強されていたらしい。こちらも今回は広範囲で暴れるという目的があったので、多少なりとも戦力は増やしていたが……人間の方が上手である。
私が向かわせたモンスターは普通のゴブリンで、飛ぶこともできないし、魔法も使えない。武器は木槌みたいなもので、動物よりも速くて強いくらいのタイプである。
武装して寄って集られると勝率は落ちるであろう。困ったものだ。というか、まだ勇者と交えてもいない。全然捗っていない。
勇者側からすると、冒険も何も始まっていないのであろう。プロローグや覚醒イベントをこちらから差し出さなくても良いのではなかろうか。
ここはいっそのこと放棄して、内政の安定化を図るべきだ。猛省した。私は勇者の対応の仕方が初めてなのだ。父も最初はこうだったのであろうか。いや、あの人ならば、政策として力の誇示を絶対にしていたであろうし、いかに雑魚といえども、末端まで強く浸透していたに違いない。一つ一つ細かな指示までせずとも上手くいっていたのであろう。
しかし、その父は勇者にやられているのである。父と同じことをしては過ちを繰り返すだけだ。芽は早いうちに摘んでおくの妥当だと思う。いや、やはり国力を上げることが先だろうか。
――その時、我が体に異変が起こる――
ズズズズ……
私の股間が自ら火傷するかのような熱気を放射しながら少しずつ隆起していく。『ビクンビクン』と魔力が血液に乗って熱く滾るのが分かった。その異変に戸惑いつつも異次元の高揚感が脳を襲い、かつてない魔力の高鳴りを感じた。その魔力は特に股間の隆起部分に集中している。我が一族は状況に応じて魔力が爆発的に上昇する性質。今日までそのことを忘れていたのは、私の魔力は微塵も覚醒の気配を示してこなかったからである。
半ば諦めかけていた。目覚めずとも王家の魔力たるや他の魔族の比ではないがために、これ以上強大な力は必要無いと思っていたかもしれない。しかし、勇者の出現によって窮地に至ったがため、己の秘めたる力は自らを助けるかごとく覚醒した。
よくよく考えると、勇者が出現した“だけ”で窮地を感じてしまっているようでは羞恥の極みではなのだろうか……まあ、これで力の強大化に成功したのなら悪くはない。恐れることは何もないのである。
魔力の急上昇は、周囲にも張り詰めんばかりに伝わっていた。
「ゴルゴンゾーラ様、何事ですか?!」
ヘルクラッシャーが慌てて王室に駆け寄る。私の異形を目の当たりにした我が側近は驚愕したとともに狂喜乱舞した。この腹心の驚嘆と喜びには少しばかり嬉しさを感じたが、覚醒の理由は隠さなければならない。
「少しばかり瞑想を、だな。我が潜在能力は極限なる無我の境地にこそ発現する」
適当なことを言って誤魔化した。
『臆して』とか『悩んで』などとは体裁が悪すぎる。格好の良い嘘は、大臣の眼に溢れんばかりの涙を浮かべさせているではないか――かなり悪い気がしたが、こんなに感動してくれているのだ。お茶を濁すわけにはいかないのである。
それと、『ギョンギョン』に隆起した私の恥部を隠すことにも苦心した。前面を見せてはならない。私の顔を覗き込もうとする大臣を遠ざけるように窓辺に自然に動いたり、魔力を見せつけているようにうまく背中を向けたりした。椅子に座ったり、前屈みになるくらいでは隠しようがないのである。
この状態になった時のことを考えておかねばならない。大臣から逃げながら、今後のことを懸念した。
そうだ、突起物の多い鎧を発注しておけば良い。程良く股間も突起物を施してもらっておけば、開放状態になってもバレることはないので、安心である。折角、強大な力を手にしたのだから、新しい鎧を慎重しておいても良いだろう。防具屋に発注をしておいて、今度の週末にでも取りに伺うことにする。大臣に丁寧に指示を出した。
力を試す必要もある。制御できなければ意味がない。暴発気味になって周囲を破壊しすぎては元も子もない。これも週末にやることとして、手帳のカレンダーに書き込んだ。
力を手にすれば覇道を体現できる。やる気の無い部下の尻を叩きまくって四六時中働かせることも可能だ。そうすれば国力は必然と上がってくるわけで、勇者を迎撃できる手助けとなろう。馬鹿な四天王を脅してやるのだ。
とにもかくにも一番欲しかった力と自信を手に入れることができた。週末が楽しみで仕方ない。
鎧と力の試運転が完了したら、モンスター工場にも顔を出しておこう。雑魚から異能力者、異形の者などありとあらゆる魔を生産している我が国の自慢の施設である。ここで生産されたモンスターが各地にばらまかれ、人間とその生活を圧迫しているのだ。最近は滅多に行けていなかったので久しぶりである。パワーアップした私で行けば、きっと士気も上がるに違いない。
力が増すとは本当に素晴らしい……
やりたいこと、やらなければならないことが次々と浮かんでくる。父もいつもこうであったのだろうか。つい初代のことを思い返してしまう。彼の気持ちは今となっては確認しようがないのだが、私は私でこの魔界を統治し魔王軍を強大なものにしていく。そう心に誓ったのである。
しかし、まだ隆起が収まる気配がない。
お読みいただきましてありがとうございます。次も頑張るぞ!