031 石ころ に ついて
昨日、連休最終日の夜、私はベッドに寝転がりながらテレビを視聴していた。特に理由もなくチャンネルを変えていくその指さばきは、我儘な子どものようにもみえたことだろう。……まぁいい、比喩はどうでもいいんだ。重要なのはそこで何を見たのか、である。
潤いの少ない眼で画面を見ていると、そこに映ったのは「石ころ」であった。
石、石、石。
石ころ尽くしである。番組はすでに始まっていたようで、途中からの視聴だったが、そこに映ったのは、(言い方は悪いが)おっさんと石ころであった。
カメラは砂浜で石ころを集めをしているおっさんを映していた。そのおっさんは二時間で三十個の石を獲得していた。皆、綺麗な石たちだったよ。まあるい石もあれば、少し尖った石もあった。薄ピンクの石もあったように思う。そうそう、煮詰めた蜂蜜のような色をした石もあった。
最初に思ったのは、「このおっさん何しているんだろう。いい年をした大人なのに」ってことではない。「いいなぁ、自分も同じように石拾いをしたいな」という嫉妬の感情だった。羨望の眼差しだった。皆はそんな私をお笑いになるかもしれない。石如きに時間と労力を使っているなんて、と。
しかし、思い出したのだ。子どもだった頃に、偶然見つけた綺麗な石をポケットに大事にしまった、おぼろげな記憶を。一つ出てくると不思議なもので、連鎖的に思い出したことがある。それからの私は、石の魅力に憑りつかれたかのように、自然と地面に落ちている石を視界に捉えるようになったのだ。石がそうさせたのか、自分の漠然とした意思がそうさせたのか。恐らくは後者だろうけれど、前者の可能性も無いとは言い切れなかった。
小学生の頃、体育の時間や運動会の練習中など、手持無沙汰な時間に俯いて石ころを探すような子どもだった。周りを見ても、何人かは同じことをしていたように思う(そして先生に注意されるというね)。小さくて可愛らしいものもいれば、ごつごつと掌を刺激する尖がり坊やもいた。様々な石たちが私の心を癒してくれたあの時間を、私は覚えている。
たまに拾った綺麗な石は、ごく稀にコレクションに加えていた。多すぎても邪魔になってしまうからだ。変な趣味だという感覚は自分でもあったので、多すぎることで誰かに見つかってしまうのを恐れていたのかもしれない。できるなら、飾ってみたかったが、引き出しの奥の方にこっそりと置いておくことしかできなかった。ふと思い出したように取り出し、手に取って眺めるのが好きでねぇ…。一つ一つ見たり、何個か一緒に見たりしたものだよ。
石の収集で思い出したが、『クレヨンしんちゃん』に出てくるぼーちゃんが石を集めていたね。ほら、あの鼻水を垂らして、のんびりした話し方をする男の子だよ。しんちゃんはよく見ていたから、そこから影響された部分もあるかもしれない。あの幼稚園児たちはすごく自由だから。
話を番組に戻すけれど、紹介されていた石の中で、気になるものが一つあった。「桜石」というものだ。正式な名称は「ホルンフェルス」というらしい。「桜石」というのは俗称で、桜の花に似ていることからつけられた名前だそうだ。石の表面は、本当に桜の花弁があるような感じ。最初に見た時はわざと傷をつけただけなんじゃないかと思ったりもしたけれど、そうではなくて自然と形成されたというのだ。自然ってすごいなと素直に思った。
その後番組は、ある一人の男性にスポットを当てる。その人も(言い方は悪いが)おっさんなのだが、もう、凄いのなんのって。低学年男子小学生だったら、必ず騒ぎ出すほどのすんごい技術を持っていた。
おっさんは石を積み重ねていくのである。誰しも一度はやってみたことがあるだろう。崩れないように石を積み重ねていく遊び。あれを極めるとおっさんのようになる。「えぇ~、そこにそんな状態で置けちゃうの? 本当に?」ってレベル。横にした石を積み重ねるのは誰でも出来そうだが、おっさんは立てる。立ててしまう。
立てる男、おっさん。夕日が沈んでいく河原でおっさんは、短い時間の内に三つの塔を作り出した。天を指す立った石は、まるで何千年も前からそこにあったかのような歴史を感じさせた。
ただの鉱物に感情もしがらみも無いのだろうけれど、しかしそこには、何かを積み重ねてきたものが放つ、独特の雰囲気があった。まるで人のように。掌に伝わる石の重みとひんやりとした冷たさが物語る。おっさんは石を見て、「時間のエネルギーがたまっている気がする」と言っていた。石は、時間そのものとみなすことができるかもしれない。
外に出てみれば簡単に見つけることのできる、石。
それは、時間が生み出した、あるいは時間そのものが形をとった存在であるかもしれないし、もしくは、私たちとは別の進化を遂げた、異なる人間の姿なのかもしれない。
別に、貶すつもりで「おっさん」という言葉を使ったわけじゃないんだからね!
ただ名前をメモし忘れただけなんだから……。




