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少女憑  作者: こえがなう
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朱の魂

慣れない『憑議(びょうぎ)』で疲れ切っていた(れい)が恐る恐る言う。

「ざっ、残業ですか...私、帰ってお風呂に入りたいのですが...」


(あおい)はキッパリと言う。

「ダメだ、(かさね)の言っていた(アカ)の魂が気にかかって仕方がない。それに、(れい)のまだ未熟な『少女憑(しょうじょびょう)』を覚醒に近づけるためには実地訓練が必要不可欠だ。」


一度決めた事は絶対に曲げないという葬の意志を感じとった澪は深い溜息をつき、諦めの言葉を放つ。

「はぁ、分かりましたよぉ〜。まぁ、私も早く(あおい)さんのような憑人(びょうと)になりたいですし、お供させていただきます。」

澪は諦めからか覚悟を決め、夕闇に染まりつつある道を歩く葬に付いて行く。


早足に帰路へと着く人混みに逆らうように、使命を帯びた憑人(びょうと)は朱の魂を探し歩く。

「襲が朱の魂を見たのはきっとこの辺りだろう。襲の(びょう)の残滓が微かにある。」

葬がそう言い放ち、辺りを見回す。


(びょう)に残滓なんて出るんですか?」


「あぁ、憑人(びょうと)となって私は結構長いからな。その場に行くと誰が(びょう)を使ったかぐらいなら分かるようになった。澪も憑を極めれば分かるようになるさ。」


「ふぇ~、何も感じないです。私にはまだまだ遠い道のりですね...」


「お前はまず『少女憑(しょうじょびょう)』を覚醒させるのが先さ。」


「頑張りますぅ。」


「っと、澪、何か感じないか?」


「...はい、少し嫌な感じがします。誰かに見られているような。」

いつの間にか暗い人気の無い森へと足を踏み入れていた葬と澪が揃って違和感を覚える。まるでこの森へと誘われたかのような違和感を。


「なるほど。朱の魂だ。」

違和感の正体を探るかのように辺りを注意深く見ていた葬が、朱の魂を見つける。


「うわぁ、ほんとに血のような朱ですね...でもこの魂からは未練をあまり感じないのですが。あっ!葬さん!危ない!!」


暗闇の中の朱が突如として葬めがけて疾走する。


「クッ!!いきなり攻撃的じゃないか!」

葬の身体の中へと入り込もうとする朱の魂を、懐に忍び込ませていたナイフで寸前の所で受け止め、弾き返す。


「葬さん!!大丈夫ですか!?」

朱の魂と激しい迫り合いをする葬の元へ走る澪。


森の木々を利用し、朱の魂と一定の距離を保ちつつ、葬は叫ぶ

「来るなよ澪!!このままだと埒が明かん!!これからこの魂を私に憑かす!!お前は少し遠くへ隠れていろ!!」


「そんな!こんな危ない魂を憑かせるなんて無茶ですよ!」


心配する澪を安心させるために、微笑みながら葬は言う。

「大丈夫だ、澪。無茶でもやり通すのが この朔羅 葬なんだよ。」

その瞬間、葬の中に朱の魂が入り込む。


「アァアアぁアぁぁ!!ッガァあ、、あ!!!」


もがき苦しむ葬の元へ澪が駆け寄る。

「葬さん!!葬さんっっ!!!しっかりしてください!!」


「れ、、、い、、、。」

苦しむ葬の身体が、小さな少女の姿へと変わっていく。


「あおい、、、さん?あなたは、だれ...?」

少し前まで葬であったその少女の元で泣きじゃくりながら問いかける。


「...大丈夫、大丈夫だよ。澪。私だ。」

綺麗に切りそろえられた純黒の髪、金木犀(きんもくせい)色の眼をした、着物姿の少女が、幼さの残る声で喋る。


「あっ、葬さん!!よかったぁ!!!ほんとに、、、よかった、、、」

安堵の声と顔で少女を見る澪。


『まったく、妾が他の魂と違うからと警戒しおって。ちょっと、他の者より殺したい人間が多いだけじゃと言うのに。』


「っ!!誰!?」

どこかしらから聞こえてくる声に澪は身構える。


「澪、この声は『魂の声』だよ。未練の魂は憑人(びょうと)にだけ聞こえる声で喋ることが出来るんだ。」


『なんじゃ、未練の魂とは。妾には『高咲(たかさき) 華純(かすみ)』という名がある。』


「これは失礼したな、華純。私は朔羅(さくら) (あおい)、今は貴女の魂の依り代だ。」


「は、初めまして。朔羅(さくら) (れい)と申します。」

初めての経験に警戒をしつつ澪が答える。


『ほう、葬に澪か。良い名じゃな。特に葬、歳上に対しても物怖じをしないその態度。妾はお前の事が気に入ったぞ。』


「これはありがたい。貴女のような高貴な女性に気に入って貰えて嬉しいよ。」


「あーおーいーさーん?ちょっと鼻の下伸びてません?」

少し頬を膨らませながら澪が葬を戒める。


「あぁ、すまない。少し我を忘れかけた。」


『なんじゃ、葬はおなごが好きなのか!良い良い!仲良くやっていけそうじゃのぉ。』


「あっ、葬さんは私の師匠でありご主人様なんだから!へんな誘惑しないでよね!!」


『嫌じゃ。これから葬にはたくさん殺してもらわねばならんからな。』


「え、殺すって......」

淡々と言い放つ華純に、澪は戸惑いを隠せない様子で聞き返す。


「華純の記憶を全て見た。彼女は明治時代の人間だ。」


葬の後に華純は続く。

『そうじゃ。妾はお前達より遥かに昔の人間じゃ。そして、今日まであの時の恨みを忘れたことがない。』


「な、何があったんですか...?」

人を殺したいという欲求を持ったまま死んでいった人間へ恐る恐ると言うような様子で澪は聞く。


『信じていた者に裏切られ、嬲られ、引き裂かれ、生き埋められた苦しみ、奴らに死の復讐を。』

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