転校生扱いと静かなあの子
潤先輩に、主に女子の先輩たちに紹介されながら学校に着くと、天使は少し大人しくなった様子だった。
バスから出たあとは、こちらを見ようとはせず、声高い子とちび丸との3人だけで教室まで向かって行っていた。
まぁ、行きなり来た男子と変な噂たてられたくないか、、
ちょっとガッカリしながら、教室へと向かって行く。
この町立学校は、木造校舎だった。
あっちこっちギシギシ言うけども、よく掃除されており、手すりの柔らかさが気に入っていた。
一年生の教室は三階。そして三階は、一年生の教室以外の教室は、一つが男子更衣室、一つが女子更衣室、そして、三つが空き教室だ。
部屋が余っているからとはいえ、広い更衣室だ。一人ひとつの縦長の大きなロッカーがある。さらには自分の教室の後ろにも広い鞄入れの棚があり、もっといえば廊下にもボックス型のロッカーがある。
収納広すぎだった。
その更衣室で、皆は着替えている。
なんと、自分と潤くん以外の男子は、ほとんどジャージで登校していた。そして、登校後にここで制服に着替えて朝礼に出ると言うのだ。
意味がわからん。
結果として、クラスには自分以外の男子は居ない状態であり、今は女子に囲まれているのであった。
「義幸くんってさ、都会から来たんでしょ?大変じゃない??」
大江侑香里という子がかなり積極的に話し掛けてくる。
この子は、物凄く可愛い。なんというかアイドル的な感じで。
だが、よく手の指をならしていたり、髪が多くてもっさりしていたり、制服がもったりしているとかで、かなり残念なかわいこちゃんと言ったかんじだ。表情もやや眉間にシワがよっているような感じだし。あんまり表情筋とか無さそうだ。
今思うと、都会の子達って表情豊かだったな、、こっちの子はなんというかしかめっ面が多い。あんまり笑わないしね。
だが、ハキハキとしゃべり、NHKかと思うほどイントネーションがはっきりしている。正直、自分よりも標準語だし、結果として言葉が強い。でも、多分、色々努力してたり苦労してたりするんだろうなと思った。隔絶した可愛さを常識人が持っちゃうと苦労するというのが、自分の中の常識だった。
だから、自分は特別扱いしないように気を付けよう。こんな可愛い子が、自分と恋愛関係になるわけないし。
逆にクラス1微妙な子が、大江さんの横から話し掛けてくる。
「ちょー珍しいよね。でも、鈴木新もそうじゃん?二人も転校生くるなんてさー。うちの小学校なんて、そもそも二人しかいねーってのに!」
こっちの子は、河郷紫。同じ”ゆかり”でも凄い差だ。しかめっ面は一緒だけど。
それにしても、この遠慮のなさとでかい声は苦手だ。見た目も近所にいた苦手なオバサンと系統が似ていて、自分はかなり腰が引けている。
他にも何人か近くで話を聞いているが、積極的に話しかけては来ない。この二人がクラスのキーマンになるのかなぁと漠然と思いながら、愛想良く返事を返す。
これでも苦労してきている。
大人の助けがないとヤバいレベルで。
自分から助けは求めなかったが、愛想良くして損したことはない。それに、本宅の息子として小さい頃から、あっちこっちの集会やご挨拶にも行っていた。意識して明るく人見知りをしないように振る舞うのは難しくない。
そうやって、笑顔を向けて答えながら、ふと天使の方を見てみると、静かに席に座っていた。黒髪の中、彼女の明るく光る髪は目立つ。静かに教科書をパラパラとめくる姿は、なんか違和感を感じるものだった。
目線を切って、目の前の子達に話し掛ける。
「大江さんと河郷は、どこの小学校出身なの?みんな一緒?」
「侑香里でいーよー!」「なんであたしだけいきなり呼び捨てだよ?!あと、うちは山上小で」「私は川中小だよ!紫ちゃん以外、みんな一緒!」
反応がいい二人だ。でも、やっぱなんかしかめっ面だ。手を上下に振りながら顔を引いて言う大江さんは、凄い違和感だ、、可愛いのに、、
「キャラだよ、キャラ。河郷って、さんって感じじゃないよね」
「どゆことそれー?」「親しみやすいってことなんじゃない?」
わいわいと盛り上がり始めると、男子がバタバタと走って入ってきた。それに合わせて、女子も席に戻り始める。
「じゃね」
軽く手を挙げて席に戻る大江さん。まぁ、可愛いよね。とは思う。多分、彼女的な意味では好きにはなんないだろなーと思った。
ふと天使を見ると、はた、と、目があった。
ちょっと、そのまま見ていると先生が入ってくる。
「おぅ、おめぇらそろってーかー!?んじゃ、始めるぞ、日直、だれだぁ?!おう、近衛少年か!始めろぅい!」
「起立!」
朝から声でかい先生だな。
でも、ニコニコしていて腹から声出ていて、なんか気持ちのいいおっさんで、あんまり声でかい人は得意じゃないけど、この人は好きだった。
そして、朝礼が始まる。