入学式の朝
そうは言っても日は経つ事で。
いよいよ入学式の日取りとなった。
入学式へは、軽トラで二往復するとのこと。
我が日積家から中学校まではかなりの山を越えて行かなくてはならない。
所謂、少子化による統廃合のツケというやつだ。
市町村合併を期に、村に二つあった中学校を一つに。
本当なら行く筈だった村立中学校は、めでたく廃校になり、晴れて町立中学校が誕生したわけだ。
で、山越えしなきゃいけなくなった、と。
普通に徒歩で行こうとすると平気で二時間掛かる。
チャリでなら40分くらいだが、山道は車がギリギリですれ違えるレベルで、チャリでの登校は崖から落ちる危険性が高いということで、推奨されない。
またこれが凄い崖なんだ。ガードレールの下が靄で見えないんだよ。話によると20メートルくらいあるらしい。街で住んでたマンション入るぜ。
閑話休題
まずは、軽トラでじいさんが俺を中学校まで送る。
山を越え、谷を越えて、、
わーーーぉ。
俺は、絶句した。
すげぇ、校舎の回り、門の回り、校庭の周囲、全部でっかい桜で囲まれててこれが見事に満開だ。
溢れんばかりの桜色。桜色が溢れて桜の霞みが迫って来るようだ。
じいさんは、軽トラを門の手前で停めると、降りるように言った。
この軽トラで坂道を登るのが嫌だという。
門に繋がる坂道は、そんなに長くはない。ただ、急だった。歩いて登っても滑ってしまいそうな急勾配だ。
俺が降りると、えっちらおっちら何回もピストンしながら、じいさんは、家に婆さんを迎えに行った。
さて、もう少し桜を眺めてようかな。
そう思いながら、じいさんの軽トラを眺めていると、一台のバンがやって来た。
俺の近くで停まって、目が合った運転手のおじさんが軽く会釈してくる。
ここは田舎だ。多分、ばあさんの事前工作により、村の中で俺は有名人になっているはずだ。ここで悪い反応をすると巡りめぐって痛い目に会うかもしれん。
そんなことをパッと考え付くと、俺はきちんとお辞儀をした。
そうこうしていると、ガチャン!ガーーー!ゴンッ!!という音がして、バンのスライドドアが開いた。実はスライドドアを見るのは初めてで、内心「かっけぇ!!!」とか思ってたのは秘密だ。
「あ゛ーー!あんたがシュクの子でしょぉ!!」
やたら大きな声で、まさに田舎の子のテンプレのような、少し丸くて小さくて、ほっぺたが少し赤くて、髪型が適当なおかっぱで、女の子っぽくない(眉間にしわを寄せた)表情をした子が俺に向かって指を指しながら寄ってきた。
シュク、ね。うちの屋号だな。
近所ではシュクの本宅と呼ばれている。長期休みなどに預けられていた時に、近所のじいさん婆さんの会話で聞いたことがある。
そこでの俺の呼ばれ方は「シュクの坊っちゃん」、あるいは、「本宅の坊や」だった。
「えー?!引っ越して来るのこっちの子かー。もう一人の細身のイケメンかと思ってたのにー!!」
その後ろから降りてきた、こちらも髪形が適当な感じの若干寝癖までついたセミロングで、お洒落じゃないのになんか高そうな眼鏡をかけた、やや背の高い女の子が大きな声で言ってきた。
てか、声も高くてうるさいんだよ、、、。
だいたい誰だよイケメン。そんな奴に覚えがねぇよ。
「ちょっと!失礼だよ!!やめなよ、よーちゃん、きみちゃん!」
「だってぇーー!」
まだ言うか。声高いんだよ、耳いてぇ。
「そぉだよねぇ!ごめんねごめんねー!いかんないでね!」
ちび丸の方は、訛ったイントネーションであっけらかんと言ってきた。ついでに寄ってきた、ついでに叩いてきた。
だめだ、付いていけん。
体力も精神力もごっそり減った気分で、ふと、ちび丸と声高いのの二人を止めてくれた女の子を眺めてみた。
ポニーテールにまとめた髪は、金に近い茶色で、髪が細いのか薄く透明感があり、長い尻尾はキラキラと風にたなびいていた。
肌も白く、鼻立ちが通っていて、何より大きな瞳の色は碧だった。まるで、瑠璃色の宝石のような。背は俺と同じくらいだから高めで、その余計な肉付きのない中性的な10代特有の体つきは、妖精のような非現実感を俺に与えていた。
「あ!ごめんねー!二人とも騒いじゃって。普段もこうだけど、仲良くしてね!私も日積だから、ユミやんって呼んでね!みんなそう呼ぶから!」
・・・・・・
あ、天使か。