part6
ちゃーちゃーちゃちゃーちゃらーちゃららちゃーちゃちゃー
大輔が廊下を歩いていると、携帯から呼び出し音がした。
相手を確認すると、沙代子だった。
「もしもし」
「あ、大輔?ちょっと、頼まれてほしいことがあるんだけど」
「なんだよ」
「今すぐ、門司君を図書室に呼んで来てほしいんだけど」
「モンジを?何でだ・・・・・・あ、そっか。あいつケータイ持ってないんだっけ」
「昼休みが終わる前に頼むわよ。じゃあね」
それだけ言うと一方的に通話を切ってしまった。
言われたとおり大輔が一樹をつれて図書室に行くと、沙代子は読書テーブルで分厚い本を開いていた。そして二人に気付くとさりげなく二人を手招きする。
「あの前の席の子、見える?」
二人が席に着くと、沙代子は少し離れた読書テーブルで静かに、というか食い入るように本を読む茶髪の女子がいた。
そしてその女子の肩に、何か黒いものが乗っていた。少し目を凝らすと、それは、羽根を生やした悪魔のような姿の小人だとわかった。
「・・・・・・マジかよ・・・・・・」
それを見て、小声でつぶやいたのは、大輔のほうだった。
「あ、あんたも見えるの?」
「まあ、こいつとよくつるんでるせいか、最近見えるようになってよ」
小声でそんなやり取りをしている二人に、一樹が声をかける。
「・・・・・・あれが、言ってた悪魔か?」
「そうよ、言ったとおりでしょ」
「あの女、確か2年のオカ研だったよな」
資料を見ながら、一樹が小声で問いかける。
「ええ、C組の青木智里ちゃん。クラスメイトの話だと、オカ研との関わりがあるとは思えないほど明るい子だったらしいんだけれど、週明けから急に人付き合いが悪くなったみたいね」
「はー、あいつ、オカ研だったのか。知らなかった」
「あら大輔、あの子のこと知ってるの?」
「ん、ああ、あれ、俺がバイトしてるバイクショップの子なんだわ。たしかに底抜けに明るいやつだけど、オカルトに興味あるとはなぁ」
「ダイスケ、おまえそういう大事なことはすぐ思い出せよ」
一樹が大輔を軽く小突く。
「そういえばお前、D組とE組を探ったよな。結果はどうだったんだよ?」
「ん、あ、D組のやつは午前の体育で貧血おこして保健室で寝てるらしいんだわ。そんでE組のほうに行ってみるかと思ったところで呼び出されたわけ。
モンジのほうこそどうなんだよ」
「A組か?全滅だった。今日は筆頭の赤石をはじめとして5人そろってお休みだと。
委員長のほうはあの子だけか?」
「うん、まだほとんど調べていないんだけど、いきなり当たりだったから、見てもらったほうがいいかなと思ってね」
そして、沙代子は再びちらりとその女子のほうを見る。そして、思い出したようにこう付け加えた。
「あ、それでね。うちの後輩から、ちょっと面白い話を聞いたのよ。あの青木って子、先週、部活で面白いことをやるって言ってたらしいわ」
「そういえば、岸谷先生もそんなこと言っていたな。オカ研のやつら、土曜日の夜、部室に集まってなにかやってたんだと」
「ふーん、なるほど。そういうことか」
その3人の横で、突然声があがった。見ると、いつのまにか、瓶底のような眼鏡をした男子学生がそこに腰掛けていた。
生徒会長、城丸覚治だ。テーブルには、何かの事典か専門技術書のような分厚い本が広げられている。
「か、会長、なんでここに」
「なんでって、図書室にバスケットをしに来ると思うかい?」
「・・・・・・いや、そういう話じゃなくて」
「真面目に答えると、ちょっと調べものに来たんだ。で。ふと見ると面白い取り合わせが目に入ったもんでね。さっきの話もあるし、それに・・・・・・」
そして会長はちらりと茶髪の女学生に視線をやる。
「僕には、生徒会長として、この学園の平和を守る義務がある。それを脅かすようなものは潰しておかないとね」
「・・・・・・会長、あんたまで見えるのか」
眉をひそめ、一樹が問い返す。
「まあね。最初は変なもの乗せているなぁと思っていたんだけれど、そんなのを肩に乗せていたらみんな見そうなはずなのに誰も気付きもしない。
おかしいな、と思っていたら、君らがアレを見て何か話しているのが目に入ったのさ」
そして、会長は3人に向き直る。
「で、あれは何なんだい?」
その一言で、3人の地軸が一瞬傾いた。
「か、会長、何か知ってるのかと思ったぞ」
「知っているわけ無いだろ、あんな進化の過程を無視したようなナマモノなんか」
「私は悪魔かなと思ったのに・・・・・・ナマモノって」
紗代子が深いため息をつく。
「悪魔とはまた非科学的な、君らしくもない」
「でも、あの姿かたちは他に言いようがないんじゃないか?」
「色も黒いし、あれで三叉の槍持っていたら本当に」
「会長、委員長、ダイスケ、騒ぐと図書委員に注意されるぞ」
そして、その悪魔とオカ研の話をしているうちに昼休みが終わる予鈴が鳴り、4人は本を片付けるために席を立った。
そのとき、彼らは気付いていなかった。
彼らを、少し離れたところからじっと見つめている人影があったことを。