part5
「へぇ、これがオカ研の」
昼休み、一樹が差し出した資料を眺めながら、大輔がつぶやく。担任の岸谷が作ってくれた、オカ研メンバーの名前とクラス、顔写真の一覧だ。
「もったいないねぇ、結構かわいい子が多いじゃん」
「ふぅん、ダイスケ、こういうのが好みなんだ」
横からのぞきこんだ沙代子がさりげなくそう問いかけた。
「ばっ、バカ、そんなの関係ねぇだろ」
あわててそう答える大輔の手から、一樹がひょいと資料を取り上げた。
「A組に5人いるそうだが、誰が探りに行く?」
すると、大輔も沙代子も一瞬黙ってしまった。
「うーん、ちょっと、なあ」
「A組は私も苦手だわ」
そして、その沈黙のあと、二人はいかにも言いにくそうに答えた。
「私、うちの部の後輩をあたってみるわ。2年のB組とC組だったら同じクラスの子がいるから」
「そんじゃ俺は3年のD組とE組を探ってみるわ」
「・・・・・・おい、お前ら、俺にA組を押し付けるのか?」
「いや、そんなつもりは、なあ」
「そ、そうよ、あはは」
そして、ふたりは申し合わせたように同時に立ち上がり、別方向に教室を出て行ってしまった。
「ったく、ひでぇ奴らだな。こんな時ばっかり息合わせやがって」
手元に残された資料を折りたたんでポケットに突っ込むと、一樹も気だるげに席を立った。
あの二人が、2年生とA組以外の3年生に探りを入れているとすると、彼としては3年A組、オカ研の会長である赤石瑞姫がいるクラスを探るしかない。
俺は探偵じゃないのになんでこんな事をしているんだろう。自問しながら、彼は隣であるA組の教室へ向かった。
そして、出てきた男子生徒に声をかける。
「なんだ、門司か?」
「あ、あれ、会長?」
しかし、二人は互いの顔を見て、ちょっと驚いた。
その男子生徒は、瓶底のように分厚いメガネをかけ、詰襟の制服をきっちり着込んでいた。
そしてその人物は、誰あろう生徒会長であり、一樹の後輩である狩尾満のカメラを勝手に改造しまくっているマッドサイエンティスト、城丸覚治その人だった。
「そういえば会長、うちの後輩のカメラまた変に改造しただろ。フラッシュが強力すぎてこっちまで目がおかしくなったぞ」
「ありゃりゃ、そりゃ悪かったね。そんな強力だったか?」
「まだ失明したくはないんでね。もうちょっとまともな改造はできないのか?」
そう言ってから、一樹は地雷を踏んでしまったことに気付いた。
「よくぞ聞いてくれた、今設計中のものはだな・・・・・・」
案の定、まるでスイッチが入ったように会長の目が輝き、その改造についてしゃべりはじめてしまった。
突然止めると機嫌をそこねてしまうので、適当なところで一樹はさりげなくその話を止めさせると、こちらの質問をぶつけてみた。
「ひとつ聞きたいんだが、赤石瑞姫って今いるか?」
「ん?なんだ、君は赤石に用があったのか?そうならそうと早く言ってくれよ」
「そっちが話を始めたせいで言えなかったんだ。で、居るのか?」
「んー、いや、昨日から休んでいる」
「じゃあ、えーと、北沢香苗、鈴木ひとみ、仲村啓子、原田薫、この中で誰かいるか?」
懐からさっき折りたたんだ紙を取り出し、3年A組に在籍する赤石以外のオカ研の名前を出してみる。ちなみに、この4人は大抵瑞姫について回っているので「赤石の召使」とか影口を叩かれている。
「あ、残念、4人とも今日は休んでいる」
「うーん、そうか」
ほっとしたような、残念なような気持ちで、一樹がそう答える。
「門司よ、君はオカ研に入ろうと思っているのか?」
すると今度は会長が聞き返してきた。
「は?」
「今あげた5人、オカ研だろう。確かに瑞姫は美人だし召使も可愛い。幽霊話が得意なお前なら接近するのは簡単だろうが、この21世紀にオカルトをネタにするなんて非科学的もいいところだぞ?」
「会長、お前勘違いしてるな。確かに俺はシングルだが、女王様は欲しくないし関わりたくもない」
一樹はそう言いながら苦笑するしかない。
「そういう会長こそ、あの女王様のせいでクラスじゃ肩身がせまいんじゃないのか?」
「ん?心配してくれるのかい?珍しいね、君はオカルト肯定派だと思っていたんだけれど」
「オカルトと宗教は別ものだ。同一視するな」
「でも幽霊話には付き合っているって聞いてるぞ?」
「あれは供養してやれと言っているだけだ。オカルトじゃない」
「ふーん、まあ、別にどっちでもいいけど。この21世紀、オカルトは科学の前に次々と正体を暴かれているからね。最後には人類の英知、科学が勝利するのさ」
そして、奥歯がきらりんと輝きそうな笑顔ではっはっはと笑って見せた。