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日輪学園ゴーストハンター部  作者: 剣崎武興
01.そして幽霊退治
12/22

part11

「ん?おまえたちこんな時間に何やってるんだ」

「せ、先生!?」

そこには、くたびれたスーツを着てぼさぼさの頭をした、一樹たちのクラス担任、岸谷教諭が間の抜けた表情で立っていたのだ。

「ん?お、おい、どうしたんだ!?」

岸谷教諭は、頭を抱えてうずくまる智里の様子を見て、部屋に入ると心配そうに覗き込む。

一瞬、オカ研の次の刺客かと思ったが、インプの姿はどこにも見られず、妙な気配もない。

「ちょっと、霊障があったんです。しばらくすれば落ち着くと思います」

「あ、そ、そうか」

一樹がそう説明すると、先生はあっさりと納得した。

「それより、先生こそどうしてここに」

「ん、残った仕事を片付けようと職員室に戻るところだったんだ。そしたら悲鳴が聞こえたから、何事かと思ってな」

そして、そこにいる生徒たちに向き直ると、こう聞いてきた。

「そういうお前たちこそ、なんでこんな所に集まっているんだ?もう下校時間だろう、何かあるのか?」

生徒が学校にいる間は管理義務を負わねばならない、教師として極めてまっとうな質問だ。しかし、それは一樹たちにとっては最も回答に窮する質問でもある。

「オカ研が何をやっているのか、探りを入れていたんです」

とりあえず、一樹が言葉を選びながら当り障りの無い答えを口にする。

「彼女らは2年生のオカ研部員なんですが、霊障があったんで、他に出ないだろうなと思って、みんなに手伝ってもらって調べてたところなんです」

そして、やっと震えが止まり顔を上げた智里と、それを支える奈津美に目を向ける。

「ふむ、霊障ねえ」

岸谷教諭が腕組みをして考え込む。普通であればインチキくさいことこの上ない話だが、彼の場合はなまじ経験があるため簡単には笑い飛ばせない。

しばらく、その場を沈黙が包んだ。そのときだ。

廊下から、何人かの足音が聞こえてきた。

「あ、そうだった。お前らももう帰れ、下校時間は過ぎてるぞ」

思い出したように、岸谷教諭が皆に声をかけると、自分も戻ろうと立ち上がった。

「まあ、なんかあったら職員室に来い、先生は今日当直だから」

そして、生徒たちを後に残し、生徒会室のドアの前に立った。

そのときだ。

「ん?なんだ、まだ帰っていないのがいたのか?」

開けっ放しだったドアの向こうに岸谷教諭が声をかける。

そこには、いつのまにか何人かの女生徒が立っていた。

「ほら、親御さんが心配するから、早く帰ったほうが・・・・・・」

そこで、不自然に言葉が途切れる。

そして、その集団の先頭にいた生徒に横に押しのけられると、体格差があるにも関わらず、岸谷教諭は体をふらつかせながらそちらへと倒れてしまったのだ。

「せ、先生!?」

全員の視線がそちらへ向く。そして、大変なものを見てしまった。

仰向けに倒れた岸谷教諭の腹に、ナイフが突き立てられていたのだ。

それには目もくれず、やってきた女生徒たちは、一言も発せずに生徒会室にぞろぞろと入ってくる。その先頭に立っていた女を見て、会長が声をあげた。

「あれっ、北沢、何をやって・・・・・・」

だが、そこで言葉が止まってしまう。

部屋に入ってきたのは全員がオカ研の部員だったが、それだけではない。先頭に立っていた北沢だけではなく、部屋に入ってきた女子全員の手に、ナイフや包丁、折れたモップの柄、金属バットなど、明らかに凶器になるものを持っているのを見てしまったからだ。

そして何より、全員がそろって死んだ魚のようにうつろな目をしており、肩や頭に黒い小人を乗せている。

「な、なんだこいつら」

思わず、大輔がそう口走る。

と、突然、北沢と呼ばれた女の横にいたショートカットの女が、無表情のまま大輔めがけて飛び掛ってきたのだ。その手にはサバイバルナイフが握られている。

「うわっ!?」

とっさに飛びのき、体勢を整え、そしてジャケットの下から自前のコマンドナイフを抜き払う。

「てめえ!何しやがる!」

そして、女に向かって叫ぶ。だが、女は相変わらずのうつろな目で大輔を見ると、不自然な動きで再びナイフをふりかざす。

そして、それが合図だったかのように、女生徒たちは凶器を掲げて、一斉に襲い掛かってきた。

「きゃあああああっ!」

その中の一人が、折れたモップの柄を、尖ったほうを向けて振りかざしながら、奈津美たちに飛びかかってくる。

奈津美は、悲鳴を上げながら、智里をかばうように抱え、そして目を閉じる。

だが、痛みはこなかった。かわりに、自分たちのすぐ近くにどすんと何かが落ちたような音がした。

おそるおそる目をあけると、襲い掛かってきた女が床に仰向けに倒れていた。叩きつけられて背中を打ったのだろう、口を開けて苦しそうにあえいでいる。

「破ぁっ!」

その女子の頭の横に、独鈷杵が打ち下ろされる。すると、コウモリの声のような甲高い声がして、同時に倒された女子の体がびくんっと跳ね上がり、そして気を失ったように動かなくなる。

「大丈夫か!」

「あ、も、門司先輩、は、はい、大丈夫です」

「そうか」

二人の無事を知って、一樹が少しほっとした表情を浮かべる。そして、倒れた女の手からモップの柄をもぎ取ると、尖っていないほうを振り向きつつ突き出す。

そこには、包丁を振りかざした女子が迫っていたが、柄の先はその腹部に見事に命中しており、女は一瞬動きを止めるとそのまま後ろに突き飛ばされる。

「インプだけ狙え!それで正気になるはずだ!」

そしてそう叫ぶと、独鈷杵を構えて飛び出していった。

「そうは言ってもねえ」

そのころ、会長は壁を背にして、改造した特殊警棒を片手に、襲ってくる女子たちと対峙していた。

カチューシャをつけ、金属バットを構えた女が、会長めがけてバットを振り下ろしてくる。ぎりぎりのところでそれをかわして、警棒の先を無防備な腹部に突きつける。

すると、バシィッという音とともに、カチューシャ女の体がショックを受けたように硬直し、机や椅子をいくつもひっくり返しながら転倒した。

スタンガンだ。衣服の上からなので威力は半減しているが、それでも人ひとりを昏倒させるだけの威力がある。もっとも人に向けて使うのはこれが初めてであり、その想像以上の威力には城丸本人も驚かされていた。

続けてその横から襲い掛かる、竹箒を持った女にもスタンガンを突きつける。鋭い音と共にその女ももんどりうって倒れる。

しかし、カチューシャの女と違い、その女は箒を支えにして立ち上がってきた。

電圧が下がってきているのだ。この警棒は乾電池で動いているので、電池が切れると特別モードが使えなくなってしまうのだ。

「うわっ!」

交換用の乾電池を内ポケットから出そうとしたとき、スタンガンを喰らった女が箒を振り下ろして来た。それを、会長は警棒で打ち返すと、なんとか体制を立て直して警棒を構えた。

そのころ大輔は、左手に拳銃を持ち、腕を伸ばして構えて、向かってくる女子を威嚇していた。

現代日本に住まう者であれば、銃口を向けられればたとえエアガンであったとしてもためらうはず。しかし目の前にいる女たちのうつろな目には見えていないのか全くそんな様子がない。

そして、大輔のほうを向いていた2人の部員の一人が、ナイフを片手に飛び掛ってきた。

「ちっ」

それを目にした大輔は、ひとつ舌打ちをする。

そして、引き金を引いた。

「キイイイイっ!」

パンッという軽い音と共に撃ちだされた弾丸は、その女子の肩に乗っていた黒い小人の肥大した頭に命中していた。その弾丸に打ち落とされ、インプが離れると、女子のほうもバランスを崩して前のめりに転倒する。

すかさず、床に落ちたインプを靴のかかとで踏み潰す。ぐしゃりという嫌な感覚とともに、インプはしゅうしゅうという音を立てて消えていった。

動いているターゲットに、しかも手の平ほどしかない的に一発で当てるとは、ガンマニアの面目躍如といったところか。だがそれに酔う時間はなかった。

両手に包丁を持ったツインテールの女が、それを振り上げて襲い掛かってきたからだ。

「つっ!」

包丁の片方が大輔の頬をかすめて頬を切り裂く。だがその痛みに構う間もなく、その女は再び包丁をふりかざし迫ってくる。

とっさにそれぞれをコマンドナイフと銃身で受けるが、そいつの力は女とは思えないぐらい強く、また少しのけぞるような体勢になってしまっているため、押し返すのが難しい。

その時、ぱんっ、という何かを叩いたような音がした。

そこには、紗代子が両手を合わせて立っていた。

拍手かしわでを打ったのだ。神道では、音のする拍手は邪気を祓い神を呼ぶという意味があり、紗代子は神社でのアルバイトでそのことを知っていた。

実際は、一拍では祓う効果は見られなかったが、彼女に襲い掛かろうとした部員の動きを一瞬止めることができた。

「祓いたまえ!」

そこに、紗代子からの平手打ちが入る。弓道で鍛えた腕から放たれたそれは彼女の前にいた部員の頬にクリーンヒットし、その部員の体をぐらつかせる。

同時に、その手は彼女の肩に乗っていたインプをも叩きつぶしていた。

そして、インプは甲高い声とともに消滅し、頬を張られた部員は、そのままひっくり返った。

「うぅっ・・・・・・」

紗代子が、何か汚らしいものを潰したかのように手を振る。すると、そこから水のように小さな飛沫があたりに飛んだ。

神水だ。彼女は自分の手を自分で持ってきた御神水で濡らしていた。

そして、紗代子の拍手に一瞬気を取られたすきに、会長と大輔は相手を突き飛ばした。そして大輔は銃でインプを打ち抜き、会長は警棒の電池交換にとりかかる。

「うわっ!?」

だが、急いだためか手元が狂い、会長は換えの電池を落としてしまった。

そこに、バットを持ったオカ研が襲い掛かる。

とっさに警棒を構えて受け止める。しかし、真正面から受けてしまったため、手に衝撃が走り、そして警棒を取り落としてしまった。

そこに、別の部員が箒を振りかざして来る。拾っている余裕は無い。

「仕方ない!」

そう叫ぶや、会長は右の拳を握りしめ、襲い掛かる部員に向けて突き出すと、左手を右腕に添えてこう叫んだ。

「Zビィィィィィィィィィム!」

すると。

一瞬、その拳のまわりに青白い光が灯り、そして光が細長い帯となって、オカ研部員に向かってまるでレーザー光線のように延びていったのだ。

それは、部員の肩に乗ったインプを見事に捉えていた、インプは、その光に包まれると、悲鳴をあげる間もなく消えてしまっていた。

「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ!」

そこから少し離れたところで、一樹が手を奇妙な形に曲げ、呪文のような言葉、“真言”を唱える。彼の目の前には、2人のオカ研部員がそれぞれ武器を持って今にも切りかかろうとしている。

そして、彼女らが一斉に攻撃をしかけた、その瞬間。

ふっと、一樹の姿が消えた。

次の瞬間、コウモリの鳴き声みたいな声が2つ立て続けに生徒会室に響き、2人のオカ研部員がその場にばったりと倒れた。そしてその後ろに、独鈷杵を構えて立つ一樹の姿があった。

その2人が倒れたことで、一樹たちに攻撃をしようとする者はいなくなった。

とたんに、4人の緊張が解け、彼らはその場に座り込んだ。

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