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日輪学園ゴーストハンター部  作者: 剣崎武興
01.そして幽霊退治
10/22

part9

翌日の昼休み、普段は誰もいない生徒会室に、4人の3年生と1人の2年生が集まっていた。放課後に起こす行動について、作戦を立てるためだ。

彼らが集まっている生徒会室は、教室がある棟と別の、いわゆる“旧校舎”の1階、入り口のすぐ近くにある。この旧校舎は築50年を超える木造2階建ての建物で、主要な機能はすでに新校舎に移っているが、解体されるのがまだ先ということもあり、物置やクラブ活動の部室など、直接学業に影響しない用途で使われている。

そしてなにより、この旧校舎の2階にはオカルト研究会の部室があるのだ。

「さて、全員そろったみたいだし、時間もあまりない。さっそくはじめよう」

全員が座ったのを確認した会長が、口を開く。

奈津美の願いを解決するため、彼らは自分で出来ることを考えて準備していた。

「実際に効果があるかは、判らないけどな」

最初に、一樹はそう言いながら、鞄の前から両端が尖った長さ20cmほどの金属の棒のようなものを取り出し、無造作に置いた。それは真鍮のような鈍い金色をしており、中ほどに彫刻がされている。

「これって、独鈷杵じゃないですか?どこから持ってきたんですか?」

覗き込んだ奈津美が、興味深そうに一樹に問いかけた。

「うちは真言宗智山派に属する寺だぜ、仏具のひとつやふたつあったっていいだろ。親父に話したら、持っていけってな」

オカルトじみた話に宗教を持ち込むようであまり気が進まないと、一樹はしめくくった。

「私は、お札と、あとこんなのを持ってきたわ」

沙代子が持ち出したのは、時代劇に出てくる水筒のように加工された、3本の青竹だった。

手に持ってみると、ずっしりと重い。振ってみると、液体が入っているような感触を受ける。

「神主さんにお願いして、もらってきた御神水。映画とかで悪魔払いするときには聖水を使うじゃない。あれの代わりになるかと思ってね」

「確かに、聖別されたものであれば、悪魔にも通じると思います」

「水かぁ」

それを見て、会長は少し困った顔をした。

「どうしたんだ、会長」

「うん、水をまくとなると、僕が持ってきたものは使えないかもしれないなぁと思ってねぇ」

そう言いながら、会長が机の上に置いたのは、先の二人が持ち出したものとまったくベクトルの違うものだった。

「こりゃ、特殊警棒じゃねぇの。会長、これ自前か?」

今までのものには興味を示さなかった江崎だったが、これには興味を持ったらしく手を伸ばそうとする。

「あー、あまり触らないほうがいいよ。改造してあるから」

しかし、会長がのんびりした口調でそう言うと、江崎は手を引っ込めた。彼も、このマッドな生徒会長の行った「改造」でひどい目にあったことがあるひとりだった。

「か、改造って、なにやったんだよ」

そしておびえたような口調で問いただす。すると、待ってましたとばかりに会長はひょいとそれを簡単に持ち上げ、説明を始めた。

「これはここにダイヤルがついていて、このダイヤルの位置で複数のモードを調整できるようになっているんだ。今は、ダイヤルがここになっているだろう。この時は通常モードで、普通の特殊警棒、特殊なのに普通って言うのもなんか変だけど、つまりは普通の警棒と同じように使える。

そしてこのダイヤルの目盛をここに持ってくると、特別モードその1、スタンガンモードになるんだ。この時に握りのここにあるスイッチを押すと、警棒の先端に最大20万ボルトの電流が流れて、接触した相手は昏倒する。

そして、ダイヤルをここまで回すと・・・・・・」

「なあ、会長、その説明、まだあるのか?」

会長の説明が長くなりそうだったので、大輔が声をかけて強引に止める。

「決まってるじゃないか。特殊モードその2こそが、この改造の肝なんだから」

「長々と説明するんだったら聞かないぞ。」

独鈷杵をもてあそびながら一樹がつぶやく。

「じゃあ、さっそく試してみよう。診たほうが判りやすいだろうし」

すると、待ってましたとばかりにその特殊警棒を持った城丸が、4人の前に飛び出し、ポーズをつけた。その様子は、どことなく特撮ヒーローを意識しているように感じられる。

そして、その警棒の根元に左手を添え、それを見つめる4人の前に突き出すと、こう言った。

「レーザー、ブレイドッ!」

その瞬間、信じられないことが起きた。

特殊警棒の、ちょうど打撃用の部分が、青白い光を放ち始めたのだ。正確に言うと、「光を放つ」というより、「光るなにかに包まれる」といった感じだ。

「これが、特殊モードその2、レーザーブレードモードさ。アストラル体に直接影響を及ぼしダメージを与える代物でねぇ」

そしてその特殊警棒を軽く振りながら説明を始める。一度振るごとに、SF映画のようなぶぅんと低く響くような音がする。

「・・・・・・なんつーか、すげぇな」

すでにだれも会長の説明は聞いておらず、目はその光る警棒に注がれている。

「それって、誰にでも使えるの?」

「まあ、使い方を覚えれば使えるとは思うけど、試作段階だし、動作も不安定だから、やめたほうがいいんじゃないかな?」

その言葉を聞いてから、誰もその警棒については聞こうとしなくなった。なにしろ、本人が成功した、と言って触らせるものでも、そのあとで予想だにしない誤作動を起こしてひどい目にあったことが何度もあるからだ。

「・・・・・・会長、なんだその手袋。変なもんついてないか?」

ふと、彼が奇妙な手袋をしているのを、一樹が気づいた。その手袋の甲には小さな基板がいくつか張り付いており、リード線が巻きついたり飛び出したりしている。

「これは秘密兵器さ」

会長が自信満々にそう応えると、同級生の表情がまた不安なものになる。

「・・・・・・なんかはてしなく嫌な予感がするんだけど。爆発とかしないよな」

「それは、試したことがないからねぇ。今回、試してみるいい機会かなと思って」

「その時は、巻き込まないでくれよな」

苦笑しながら、大輔がナップサックから何かを取り出して机の上に置く。

ひとつは、全長30センチほどもあるコマンドナイフ、そしてもうひとつはL字型の黒い塊。

どっちも、今までとはまたベクトルが違い、現代社会においてリアルに危険な代物だ。

「ずいぶんと物騒なものを持ってきたな」

そのL字型の塊を手にとりながら、一樹がつぶやく。それは、かなり大型の拳銃だった。

「エアガンだよ、エアガン。デザートイーグルだから当たったら痛いけどな。本当はM16A1とか持ってきたかったんだがさすがにでかすぎるし」

そう言いつつ、大輔が再び鞄の中身を探り、黒いナイロンでできたベルトを引っ張り出す。

ガンベルトだ。大輔は、制服の上をぬぐとそれを体に巻きつけ、金具でとめると、左胸にあるホルダーにナイフを差して止め、拳銃に弾倉をセットすると右腰にあるホルダーに差し、たすきがけになったベルトにガスとBB弾を詰めた残りの弾倉を差していく。そのさまは、まさにどこかの戦争映画の登場人物のようだ。

最後に再び制服を羽織る。元々少しだぶついた上着を着ているため、それだけでほとんど判らなくなってしまう。

その姿を見ながら、沙代子は「やっぱりダイスケはダイスケねぇ」と思ってしまう。

なにしろ彼は、クラスどころか同級生の中でも知る人ぞ知るミリタリーマニアであり、将来は自衛隊、中でも特殊部隊に入りたいと明言しているほどなのだ。中学まではボーイスカウトに所属していたが、それさえも「軍隊に入るための訓練の一環だった」と言い放つほどだ。

「お前、きつくないのか?これから午後まだ授業あるんだぜ?」

「なあに、こんぐらいのほうが引き締まっていいんだ」

一樹からの問いかけに大輔はこともなげにそう答える。表情もさっきより少し引き締まっているように見える。

「まあどのぐらい役に立つかはともかくとしてだ。俺たちがすべきなのは、あのインプとかいうのをなんとかすることだ」

持ち寄ったものの説明が終ったところで、一樹が仕切りなおす。

「調べてきてくれたか?」

そして、一樹が奈津美に声をかけると、奈津美はこくりとうなずいた。

「使い魔は、その使い魔を支配している人、一般的にマスターとか術者とか言われるんですけど、その人とは、置き電話の親機と子機みたいな関係にあります。だから、たとえば使い魔が見たビジョンは、どんなふうに見えるのかは判らないんですけど、マスターも同じものが見えるそうです。

そしてそのつながりに実際の距離は関係がないらしくて、使い魔とマスターはどんなに離れていてもそういう感覚の共有ができるみたいです」

どうやって調べたのか、奈津美は“使い魔”というものについての説明を始めた。

3年生の4人はそれをじっと聞いている。

「それと、インプについてですけど、悪魔の一種とされていて、非常に悪賢いけれど、体は貧弱そのものみたいです。使い魔なことを考えると、マスターに支配されたインプが智里とかにとりついて、そのインプが何かをやらせているのかも」

「ふーむ・・・・・・」

説明を聞いた一樹が、腕を組んでうめく。

「インプの倒し方だけど、まとめてやっつける方法はないのかしら」

紗代子の質問に、奈津美は首を振った。

「その、“マスター”ってのをぶちのめせば、一掃できるんじゃね?」

そこに、大輔が自身ありげに口を出してくる。

「それは、多分そうだと思いますけど・・・・・・」

「そのマスターがどこの誰なのか、判らないと手を出すこともできないじゃない」

女性2人がそう反論する。すると大輔は待ってましたとばかりに口元に笑みを浮かべ、そしてこう言い放った。

「どこの誰って、そんなの赤石しかいねえだろ」

「赤石って、A組の赤石瑞姫さん?」

「ああそうさ。そりゃ物的証拠はねーけど、状況証拠だったら十分あるだろ。オカ研に魔道書を持ち込んだのも、儀式をやろうって言い出したのも、ぜんぶ赤石が言い出したことなんだろ?な?」

大輔はそうまくし立てる。そして、最後にその情報源である奈津美に同意を求める。

「でもダイスケ、赤石さんがそんなことできると思う?そもそも、部員に翻訳させるまでは、読むことすらできなかったんでしょ?」

「確かに、そこが引っかかるところなんだよな~。案外、読めればすぐできるのかも」

「そんな簡単なわけないでしょ。だいたい、魔法ってたいていチチンノプイとかチンカラホイとかよくわからない呪文を唱えるのがセオリーじゃない。人間の脳はそんな意味の判らない言葉を覚えてすらすらと話すのは不得意なのよ?」

そして口論が始まってしまう。

そんな二人を尻目に、一樹と会長はまた別の話をしていた。

「それにしても、悪魔って生物学上は何に分類されるんだろうな。それともやっぱり、“憑く”から、霊体、つまりはアストラル体なのかな」

「知らねえよそんなの、捕まえて調べたなんて聞いたこともないし」

「なるほど、捕まえるか。やってみる価値はあるかも知れないな」

やる気のない一樹に対し、会長はとても楽しそうに見える。

「生きたまま捕獲して、色々調べてみたいなあ。実験とかもしてみたいね、あんなこととかこんなこととか、ふっふっふっふっふ」

メガネをきらーんと輝かせながら不気味に笑う会長を見て、一樹が軽く頭を押さえる。

「試してみるのは構わないが、やるなら会長一人でやってくれ。その後どうなっても知らんぞ」

「エーテル体やアストラル体がどんな分子構造になっているのか、それとも分子や原子がエーテル体やアストラル体によってできているのか、ふっふっふっふ、こーれは楽しみだぞ。あ、そうなると出力のバランスをもっと考えたほうがいいかも」

一樹の言葉など全く聞こえていないかのようにひとりでぶつぶつつぶやきながら、会長はどこからか手帳を取り出し、何かを書き込みつつちらちらと警棒や手袋を見ている。

「ほらお前ら、戻って来い。昼休みは限られてんだから」

その様子を見て、一樹が半ば呆れつつ声をかける。

「まず、俺らがやることとできることを整理しよう」

そしてそなえつけのホワイトボードの前に全員を集める。

「俺達が集まったそもそもの目的は、あのインプをどうにかすることだ。できれば一掃したい」

その言葉には、集まった全員が頷く。

「で、インプ自体はなんとかなるとして、問題はそれをどうやって秘密裏に行うかだ。おおっぴらにやると確実に騒ぎになるし、俺はともかく委員長や会長は立場ってもんがある」

「そうだねえ、まあ僕のほうは会長の立場に何の執着もないし、副会長の伊坂くんがちゃんとしているから大丈夫だと思うけど」

生徒会長である会長のほうは平然とそう言い放つ。そこには、“自分は変人だと思われている”という自覚が感じられる。

「なんか、秘密裏っていうとスパイみたいでちょっとワクワクしてくるな」

大輔は大輔でそんなことを言いながら拳銃を手にニヤニヤしている。

「ちょっと、そこ脱線しない。今はその話じゃないでしょ」

沙代子が脱線しかけた二人をしかりつけると、二人はすぐ大人しくなる。

「とにかく、なるべく目立たないように進めなきゃならないんだが」

そして作戦について話し出す。

「今日は、赤石をはじめ、A組のオカ研メンバーは全員来ている。ただ、いつもならすぐ騒々しくなる彼女たちが、そろって不気味なぐらい静かにしているんだよね」

「D組とE組の部員も来てたな。教室で顔を確認した」

「智里も来ています。でも、確かに人が変わったみたいに静かで、あと顔色が昨日より悪くなっていました」

「赤石が来ているんだったら、そいつをやっつけりゃ」

大輔が、インプを統べるマスターと思しき瑞姫撃退論を口にするが、他のメンバーは反論する。

「まだ言っているの。赤石さんがそのマスターだって決まったわけじゃないでしょ」

「うん、それに実行に移すのは厳しいと思うよ。江崎君は知らないかもしれないけど、いつも召使がついて回っているし、それでなくても彼女は目立つ」

「なによりあいつは、理事長の孫娘だ。教師のほうも気にかけるし、それに手を下したとなると、退学モノだぜ?」

さすがに“退学”がかかるとなると大輔も強くは言えないようだ。

そして、今回は他のオカ研メンバーを一人一人当たって、各個撃破していくことになった。

「使い魔は、マスターと感覚を共有しています。だから、使い魔に何かをすれば、マスターにもそれは判るはずですし、そうなればマスターも何らかの動きを見せるはずです」

つまり、末端から“マスター”をいぶりだそうというのだ。

「めんどくせえなぁ」

大輔が最後にそうつぶやいた。

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