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俺の王妃は侵略者  作者: 夢想花
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怖いセリーヌ

 次の日の朝、寝過ごしたと思った。枕元に目覚ましを探したが見つからない。今日は大事な顧客と打ち合わせがある日だ。遅刻したら大変だ。やがて、寝ている場所がやたらと広いことに気がついた。目覚ましを探そうにも布団の端まで手が届かない。

「そうか、宇宙船の中なんだ……」

 だんだん、頭がはっきりしてきた。起きようとして手を伸ばしたら何かに柔らかいものに当たった。横を見ると、なんと、そこにセリーヌが寝ていた。なんでセリーヌがここに?

 セリーヌの顔に見とれてしまった。眠っている彼女の顔はこの世のものとは思えないくらいかわいい、まるで妖精のようだ。

 うっとりと彼女の顔を見つめていた。

 そーっ、と彼女の体に手を伸ばしてみた。指先が彼女の体に触れた瞬間セリーヌが目を開けた。

「きゃあー」

 彼女が悲鳴を上げて飛び起きた。健二も驚いて体を引いた。

 彼女は布団の上に体を起こしているが、薄いネグリジェの下にうっすらと乳房が見える。それに気がついたのか、彼女は慌てて布団を胸元に当てた。

「なぜ、ここにいるの?」

 セリーヌは被害者みたいな顔をして驚いているが、ここは俺のベットのはずだ。

 彼女はしばらく目をぱちくりしていたが、

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」

 セリーヌが何かを言うが、翻訳機を着けていないので意味が分からない。しかし、どうもセリーヌは寝ぼけているらしい。

 セリーヌは健二を警戒するように、しっかりと布団をつかんでいる。

「ともかく何か着たら」

 健二が着るものを取りに行こうとしたら、彼女は悲鳴を上げてベットから飛び降りた。布団をしっかりとつかんだままだ。

「いや、何もしないって……」

 健二はそう言ったが、セリーヌは悲鳴をあげて布団を引きずったまま、部屋から逃げ出して行った。

 健二はそれをぼうぜんと見送っていた。

 たぶん、夜中にトイレか何かで起きて、つい、いつもの習慣で元の自分の部屋に戻ってきて、そのままベットに入って寝てしまったのだろう。目が覚めたら、健二が目の前にいたので驚いたのだ。たぶん、健二が自分のベットに侵入して来たと思ったのだろう。

 それにしても、セリーヌはあそこまで健二が嫌いだったのだ。たぶん、ベットに毛虫がいてもあれほどは驚かなかっただろう。このぶんでは、いつか本当の夫婦になるのは無理かもしれない。



 朝の準備をすませ、きのう昼食を食べた食堂に向かった。

 セリーヌはまだ来ていなかったが朝食の準備は出来ていた。

「セリーヌは?」

 ロボットに聞いてみた。

「お部屋においでです、じきにおいでになると思います」

 健二はテーブルにすわったがセリーヌが来るのを待つことにした。

 時計を見ると九時だった。今日は大事な顧客との打ち合わせがある。健二がいないと打ち合わせにならないのだが、もちろん会社に行けるはずはない。だから会社に今日は欠勤する事を早めに伝えておいた方がいい。早いタイミングで健二が行かない事がわかれば対応のしようもあるだろう。

 携帯を取り出したが、ここが宇宙だと言うことを思い出した。窓の外を見ると地球が見えている。眠っている間に土星から戻ってきたらしい。


 セリーヌが食堂に入ってきた。

 ブスッとして健二の向かいの席にすわった。

「おはようございます」

 健二が声をかけるとセリーヌは機嫌の悪そうな顔で健二を見る。

「おはよう」

 ぶっきらぼうにそう言うと食事を始めた。

 さっきの事がよほどこたえているらしい。健二も黙って食事を始めたが、会社に電話を入れたい。

「あのう……」

「あの事は言わないで!!」

 いきなりセリーヌが怒鳴る。

 健二は凍りついてしまった。セリーヌの機嫌がなおるまで何も言わない方がいいみたいだ。

「なに?」

 言い過ぎたと思ったのかセリーヌが聞く。

「電話がしたいんだが……」

 健二は携帯を取り出してセリーヌに見せた。宇宙船を健二のアパートに戻してもらえれば助かるのだが。

「ナランダ。電話をつないであげて」

 セリーヌが指示すると、ナランダは頭を下げた。

「接続しました。どうぞお使いください」

 接続した? ここから地球の日本に電話ができるのか。

 半信半疑で電話をかけてみた。なんと電話はちゃんと通じて係長が出た。

 健二は今日は休むと伝えた。

「おい、バカ言うんじゃないよ。今日は太田工業さんと打ち合わせだろう。どうすんだよ」

 係長が怒鳴る。

「すみません、どうしても行けないんです」

「何が何でも出てこい!! 今、どこにいるんだ」

「今ですか」

 窓の外を見てみた。イタリア半島が雲の合間に見えている。

「今、イタリアの上空です」

「…… どこだって?」

「イタリアです。宇宙人の宇宙船に乗っています」

「ふざけるんじゃない!!」

 係長は怒鳴る。

「本当なんです。テレビでやってませんでした」

 きのう、あれだけ、パトカーが来ていたのだからテレビでニュースになっているはずだ。

「あれに乗っていると言うのか」

「そうです」

 しかし、いろいろ説明したが、なかなか、係長は納得しない。

「宇宙人の所にいるなら宇宙人を電話に出せ。宇宙人を出してみろ!!」

 係長はますます怒り出した。

「それは、ちょっと……」

 セリーヌをちらっと見た。セリーヌはムカムカした顔をしている。いま彼女は機嫌が悪いのにこんなこと頼めない。

「宇宙人! 出てこい!!」

 係長が怒鳴る。

 と、ガタンっと椅子を蹴ってセリーヌが立ち上がった。つかつかっと健二の所に来ると携帯をつかみ取った。

「宇宙人よ、あんた、どこにいるの。爆撃してやるから!!」

「……」

 健二はあわててセリーヌから携帯を返してもらった。

「宇宙人を怒らせたらまずいですよ、ともかく一旦切りますね」

 これでいい。ともかく、これで今日は会社に行けない事は伝わったはずだから後は何とかするだろう。担当が一人いないだけで、すべてが止まってしまうような仕事のやり方がもともとまずいのだ。

「あいつ、誰なの?」

 セリーヌが怖い声で聞く。セリーヌがここまで気が強いとは思わなかった。

「私の上司です」

「あんた、地球の支配者なんだから、もっとしっかりしなさいよ」

「はい……」

 これで結婚したら完全に尻にしかれてしまう。



 自分の部屋で運び込んだ荷物の整理をしていた。アパートの部屋に所狭しと入っていた荷物類だが、ここに来ると納戸の隅にポツンと置かれてそれで全部だった。

 会社関係の資料がたくさんある。今日の打ち合わせのための資料もあった。ちゃんと準備しておいたのに……

 しかし、もう、会社に行くこともないのかもしれない。ここから逃げ出せなかったら、セリーヌに捕まったままだったら、もう会社には行けない。しかし、このままほったらかしにするのもどうかと思えた。会社を辞めるならきちんと整理しておかなければならない。そう、引き継ぎの書類を作っておこう。いつか会社に行く事があった時に渡せばいい。

 広間の奥まった一角に机があった。健二はそこに書類とパソコンを持ってきた。パソコンを立ち上げてみたいが電源がない。そもそもコンセントらしきものが見当たらない。セリーヌに聞くしかないが、彼女は機嫌が悪い。健二は頬杖をついて考え込んでしまった。

 セリーヌは最悪の女だ。顔と性格があれほどかけ離れている女性もめずらしい。あんなにかわいい顔しているのにさっきの態度はいったい何なんだ。

 セリーヌは絶対に結婚すべきでない女だ。なのに、そんな女と結婚することになってしまった。まあ、向こうも見かけ上だけの結婚と思っているから、相手にしなければいいだけの話だけど…

 ふと、王妃候補がほかにもいる事を思い出した。セリーヌは、健二が辞退したら別の娘が王妃になると言っていた。つまり、王妃候補は複数名いてセリーヌがそ中で第一順位ということだ。まあ、あのセリーヌらしい、ほかの娘を蹴落として一位になったのだろう。しかし、第二順位の娘はどんな娘なんだろう。顔は普通でいいから性格がいい娘ならそっちの方がよかったのに、なぜセリーヌに決まったのだろう。

 健二がセリーヌの事を思い出してむかむかしていると、ちょうどそこへセリーヌが通りかかった。

「ここでなにしてるの?」

 彼女は健二の所にやってきた。

「仕事をしておこうと思って、コンセントってないの?」

 セリーヌのかわいい顔を目の前にすると、何も言えなくなってしまう。

「地球の電源ね、ナランダ」

 セリーヌはロボットを呼ぶ。

「電源を準備してあげて」

 セリーヌは普通に明るい顔をしている。

「機嫌はなおったの?」

「まあね。これはなに?」

「いまやっている仕事の資料。説明書を作っておこうと思って」

 セリーヌは興味があるらしく資料を手に取った。

「まだ、会社に行く気なの?」

「いや、だから必要なんだ」

 セリーヌはおもしろそうにパソコンをみている。

「これ、地球のコンピュータなの?」

「そう、ただ、電源がないと動かない」

 セリーヌはキーをポンポンと押している。

 さっきはあんなに怒っていたのに、かわいいセリーヌと話をするとやはり楽しくなってしまう。

「なぜ、君が王妃に選ばれたの?」

 第二順位の娘がどんな人なのか知りたい気持ちは隠して、それとなく聞いた。

 セリーヌは考えている。

「そうねえ、地球が発見されたから王妃候補の募集があったのね、下級貴族の娘が殺到したわ。だって、星を一つまるごと領地にできるんだから貧乏貴族の娘にとってはこんないい話はないわ」

 セリーヌはこくんと頷いてみせる。

「それで、まず、容姿審査があるの。国王候補の男に断られたら話にならないでしょ。それに合格すると、各種の能力テストね。新しい国を一つ統治しなきゃいけないから、それなりの能力がいるわ。知性、判断力」

 セリーヌは指を折始めた。

「知恵、洞察力、決断力、リーダの素質、豊富な知識、思考力、推理力、優しさ、優雅さ、気品、……」

 セリーヌは、まだ何かないか考えている。

「まあ、そんなとこね、で、私が一番で合格したわけ」

 なんと王妃候補は試験で決まったのだ。まあ、それが公平だ。セリーヌが一番だったのなら仕方がない。それにセリーヌと一緒にいると楽しい。

「私は地球を絶対に住みやすいいい星にしてみせる。地球の国民が幸せに暮らせる星にね。ねえ、いっしょに頑張りましょ」

 セリーヌは健二の腕をつかんでソファーにすわった。

 彼女は自分の夢を熱く語り始めた。過去に連邦に加盟した星の事情や問題点、自分ならどうするかなど。数々の経済理論や支配哲学を説明する。貧しい人が豊かな暮らしが出来るようになった時の喜びが自分の生きがいだと言う。

 彼女が純真無垢に地球を助けようと思っている事は間違いなかった。しかし、侵略戦争はその国の国民には、よその国を助けるためだと説明して行われるが普通だ。近代に入ってからの戦争はすべてそうだと言ってもいい。『これからよその国の領土をぶん捕りに行くぞ』などと言って戦争になったことはない。ある国を極悪非道な独裁者から解法するためだ、などと言って戦争になるのだ。

 セリーヌは貧しい人々への生活支援の話を熱く語っている。しかし、彼女はしょせん貴族のお嬢様だ。それらの支援物資をどうやって手に入れるのかまったく考えていない。まるで、物資はいくらでもあるかのような言い方だ。

 健二は黙って彼女の話を聞いていたが、徐々にがまんしきれなくなってきた。

「その支援物資はどこから持ってくるのさ?」

 ちょっと皮肉を込めて聞いてみた。

「巨大な工場を作ってそこで作り出すの」

 セリーヌの目は輝いている。

「でも、その巨大な工場で働く人に給料を払わなきゃならないだろう」

「いえ、払う必要はないわ」

 セリーヌはとんでもない事を言い出す。まさか奴隷労働?

「無人のロボット工場よ。ナランダを知っているでしょ、あれは知能を持ったロボットよ。知能を持ったロボットがいると、ロボットだけの無人の工場が作れて、そこで、いくらでも品物を作れることができるわ」

 いくらでもって、そんな事があるわけがない。

「物を作るにはお金がかかるはずだよ。だからいくらでも作れるわけじゃない」

「お金はかからないわ。資源も含めて全部ロボットが生産するんだから、無尽蔵にいくらでも作れる」

「そのロボットや工場にはお金がかかってるだろう」

「かかってないわ、ロボットも工場もロボットが作るんだから、そうやって作られたロボットや工場でまたロボットや工場を作る、そのロボットがまた作る。こうやって宇宙中に巨大工場が星の数ほどあって、そこで品物を作っている。まさに無尽蔵に作っているわ」

「しかし……」

 と、言いかけたが、反論が出てこない。

 もし、ロボットがロボットを作れたら、無尽蔵にいくらでも作ることができる。ちょうど顕微鏡の下で繁殖する細菌と同じだ。細胞分裂を繰り返し栄養がある限りいくらでも増える。お金がないから増えられないなどという事はおきない。

「ロボットの巨大工場を地球にも作るの。月につくりましょう。これをどんどん作って、どんどん品物を生産して地球の人々の生活を良くするの」

 セリーヌはうれしそうに笑う。

 しかし、それはどこかおかしい。

「じゃあ、人間は職を失うじゃないか」

「人間の仕事は質が変わるわ。物を作るための肉体労働はなくなる。計画を立てるとか方針を決めるような仕事になるわ。芸術も人間の仕事ね」

「しかし、失業者がでるよ」

「そこが、施政者の腕の見せ所よ。物は豊富にあるんだから、それが全員の行き届くような仕組みを作らなければならないわ。それが私たちの仕事」

 セリーヌ輝くような笑顔で健二を見つめる。

 宇宙人に侵略されると地球人の生活は豊になるのか? そんなバカな事があるはずない。それでも健二はセリーヌの説明の間違いを見つける事ができなかった。




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