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俺の王妃は侵略者  作者: 夢想花
13/18

辞表

 会社があるビルの上空に宇宙船は浮かんでいた。健二の会社があるビルは貧弱なビルで周囲にもっと高いビルがあるので、健二のアパートの時のようにビルに横付けするわけにいかない。

「飛行艇で行きましょ」

 セリーヌが振り向きもせずに歩いていく。健二は引継書を持ってその後に続いた。

「護衛をつけますか?」

 ナランダがセリーヌに聞く。

「十台くらいつけて」

 護衛! 俺の会社に行くのに護衛なんていらないのだが……

 格納庫のような所についた。バスのような乗り物が並んでいる。セリーヌはその中の一台に乗り込んでいく。健二もその後に続いた。中は大型バスくらいの広さで周囲に窓がある。豪華な椅子が窓際に四つくらい置いてあって広々とした部屋になっていた。健二の後からナランダとセシルが乗り込んできて。さらに、その後から屈強な大男といった感じのロボットがぞろぞろ乗り込んできた。

 格納庫の扉が開くと飛行艇はすべるように外へ出ていく。飛行艇はまったく何の音もしない、静に宙に浮いていて、下には健二の会社があるビルが見えている。

 真上から初めてこのビルを見た。屋上には物干し台があって、どこか庶民じみたビルだった。

 飛行艇はそのビルの横を降りていく。

「会社ってどこにあるの?」

 セリーヌが聞く。どこって、ここからは窓が見えているだけだ。

「下に降ろしてくれたらエレベータで上がるよ」

「それはまずいわね。すぐ退避できるように広い場所から入るべきだわ」

「広い場所って、窓の事?」

 セリーヌはうなずく。

「俺が毎日通っていた会社だぞ」

「でも、もう、立場が違うわ。万が一の事を考えておかなきゃね」

 危険な事などあるわけがないのだがセリーヌは健二の言うことなど聞く耳を持たない。彼女は飛行艇を窓にどう寄せようかと考えているらしく、外を見ている。

 仕方なく健二も窓を探してみた。

「あそこだな」

 健二は窓を指さした。

「挺を寄せて」

 セリーヌが命令する。

「扉を開けてスロープを出して」

 さらにセリーヌが細く指示をする。

 扉が開きそこから幅一メートルくらいの板が延びていく、そして窓下にピッタリとついた。

 会社の中でも窓の外の異変に気がついたらしく、人々がこっちを見ている。

 健二は恐る恐る板の上に出た。幅が狭いので結構怖い、板の横から下の道路が見えている。窓の鍵を開けてくれという意味で窓を軽くたたいた。庶務の吉田さんが立ち上がって来て窓を開けてくれた。

「これ、なんですか?」

 吉田さんはビックリしている。

「宇宙人に捕まっているんだ」

 簡潔に説明するにはこれが一番だった。健二は窓の内側に飛び降りた。

 健二が部屋の中に入ったのでセシルがすぐについてきた。その後から護衛のロボットがぞろぞろ入ってくる。さらにセリーヌまで入ってきた。貧乏会社の狭いオフィスの窓際は満員電車みたいになった。

「永井、これは何なんだ」

 係長が驚いている。

「窓からで、すみません……」

 まず、あたりさわりのない所から話を始めたかったが係長がそれを許さない。

「だから、この人たちはどなたなんだ」

 係長は声を潜めながらも厳しい口調で叱る。

「宇宙人と、そのロボットです」

「宇宙人! あの宇宙船の宇宙人か?」

 係長は信じられないといった顔だ。

「そうです」

「じゃあ、それが宇宙船か?」

 窓の外に浮かぶ飛行艇を指差す。

「いえ、宇宙船はあれです」

 健二は窓から顔を出すと上を指差した。係長も恐る恐る窓から顔を出すと上を見る。見上げたビルの真上には巨大な天井が浮かんでいた。大きすぎて窓からは宇宙船の一部しか見えない。健二も改めてその巨大さに圧倒されてしまう。あんなものがよく浮かんでいられるものだ。

 係長はすっかり圧倒されてしまったようで、呆然としている。

「で、この方たちが宇宙人……」

「いえ、宇宙人はセリーヌだけで、あとはロボットです」

「セリーヌ?」

 係長は意味もなく言葉を繰り替えす。それに合わせてセリーヌが少し頭を下げた。

 社員たちも次々と窓から上を見て驚きの声を上げている。

「ところで係長、私、かなりややこしい事情がありまして、もう会社に来れません」

「ややこしい事情?」

 健二はやっと本題を切り出したが係長がキョトンとしている。

「最初はドッキリと思ったんです。でも、それが本当の話で、約束は破れないんです。つまり宇宙人に捕まっているみたいな状態なんです、だから、もう会社にこれません。そういう事情ですから、申し訳ありませんが会社、辞めます」

 なかなかうまく説明でしない、しかし、係長は驚いている。

「辞める? ばか言うんじゃないよ、今のプロジェクトはどうするんだ」

「すみません。どうしても仕事は続けられないんです」

「それは無責任だろう。辞めるにしても今のプロジェクトが終わってからにしてくれ」

「すみません」

 健二は頭を下げた。

「引き継ぎ書を準備しています」

「ふざけるなよ。君がいなきゃこのプロジェクトは無理だってことは分かっているだろう」

 係長は怒鳴るが、それはむしろ係長がすべてを俺にまかせっきりにしていたせいだろう。この人は威張るばかりで自分からは何もしない。

「すみません」

 健二はもう一度頭を下げた。

「理由はなんだよ。宇宙人に捕まっているようには見えないが」

「捕まっているんです」

 健二はセリーヌを見た。セリーヌがイラついているのがわかった。

「逃げたら殺されます」

「あの、かわいい娘にか!」

 係長が怒鳴る。

「引き継ぎ書です」

 健二は引き継ぎ書を差し出した。さっさと決着をつけないとセリーヌが切れる。

「ふざけるな!!」

 係長は引き継ぎ書を叩き落とした。

「ナランダ、あれ」

 いきなりセリーヌが怖い声でナランダになにか指示する。

「承知しました」

 セリーヌとの付き合いが長いせいか、それだけでナランダは意味がわかったらしい。ナランダは例の翻訳機を係長の耳につけた。

「あたしセリーヌ」

 セリーヌは係長に向かっていく。ものすごくドスの効いた声だ。

「彼は地球の王になるの、地球の支配者よ。こんなくだらない会社の仕事なんかする暇はないの」

 係長はポカンとしている。

「人が一人抜けたくらいで仕事が止まるはずないでしょう、あんた、どんな指揮をしているの」

 セリーヌは怖い声で係長に迫っていくが、係長には、なぜこの女性が怒っているのか理解できない。係長は理由を尋ねるように健二を見た。

「彼女は宇宙人です、地球は彼女が支配します。だから彼女には逆らわない方がいいです」

 一瞬、セリーヌは困惑した目で健二を見た。

「そう、私は彼の王妃なの。彼と一緒に地球を支配するわ」

 セリーヌはそう言い直すと、係長の目の前まで来た。

「それを拾いなさい」

 セリーヌはさっき係長が叩き落とした引き継ぎ書にチラッと目をやる。

 係長が迷っていると。

「仕事をするにはそれがいるんでしょ。拾いなさい!!」

 ものすごいドスの効いた声で怒鳴る。その、気迫に押されて係長は書類を拾い上げた。

「よろしい、これで彼の退職は決まりね」

 セリーヌは薄気味悪くにこりと笑うと。

「さあ、帰るわよ」

 健二にきつい声で指示する。

「ねっ、逃げられないんです」

 小さな声で係長にそう言うと健二は窓の方に向かった。

 ともかく引き継ぎ書を渡したからこれで自分の職務は果たした。後は係長の能力しだいだ。やりかけのプロジェクトが破綻するならそれも仕方がない。

 窓から飛行艇に乗り込んだ。ナランダが係長の翻訳機をはずしているのが見えた。


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