⑥
「こいつがうわさの」
移動している車の中で印刷された資料を一枚だけ持っていた。その人物の資料といってもどちらかといえば結果だった。名前すらもフセキと呼ばせたことから明確ではない、つまり不明なのだ。
顔を見た者はその地域に居ない。体型とどこからかの流れ者ということで、性別も年齢も不明。この資料からわかるのはただのホームレスということだけ。しかしその疑問と興味でつき動かれていた。幸運と呼ばれる男に対して不幸を呼ぶという者だ。それは行雲が最も望んだ人物かもしれないのだ。
いくつかの路地の交差点を通りすぎ該当する人物を探す。布でほぼ全身を覆った人物を。
そして雲行きが怪しく、いつ雨が降ってもおかしくない空はついに崩れ出し雨が降り出した。
「おい止まれ、あれではないか?」
運転手の雄介に声をかけブレーキを踏ませる。すぐに止まれる速度で走っていた車は音も立てず止まり、その場でエンジンを切った。
「汚い布で全身を覆う、まさにあいつだ、思ったよりも小柄だな」
「そうですね、こちらに構わず向かって来てますね」
「それは好都合だ」
服とは呼べない布を身にまとい顔までも隠している。靴のない足はぶれることなく真っ直ぐ車へ向いている。