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Forever Local」  作者: こうた
最終章「永遠の地元」

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82/82

最終話「そこにあるもの」

五月。



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桜はもう完全に散っていた。



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代わりに、


若い葉が街を覆い始めている。



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マサルはいつもの時間に職場へ向かっていた。



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義足の音は、


もう特別な意味を持たない。



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ただの足音になっている。



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職場では誰も驚かない。



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誰も気を遣わない。



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それが今の距離だった。



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シンジは病院へ向かうバスに乗っていた。



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窓の外を流れる景色は、


もう恐怖を呼び起こさない。



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ただの移動。



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ただの習慣。



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医師との会話は短い。



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「変わりありません」



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それだけで終わる。



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それでもシンジは頷く。



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それで十分だった。



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アキラはオフィスで静かに資料を見ていた。



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決断は速く、


迷いは少ない。



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それは強さではなく、


積み重ねの結果だった。



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ユウスケはジムで軽く身体を動かしていた。



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追い込むことはしない。



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維持するための動き。



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それが今の意味だった。



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ナオトは喫茶店にいた。



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いつもの席。



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いつもの時間。



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しかし、誰かを待っているわけではない。



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ただそこにいる。



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夕方。



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いつものように、


四人が集まる。



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マサル。



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シンジ。



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アキラ。



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ユウスケ。



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そしてナオト。



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会話は少ない。



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だが気まずさもない。



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ただ時間が流れている。



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マサルが言う。



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「結局、変わらんかったな」



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アキラが笑う。



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「いや、変わったやろ」



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ユウスケが続ける。



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「でも“別のもん”になった感じやな」



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シンジは静かに言う。



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「戻ってないけど、崩れてもない」



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その言葉に沈黙。



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否定はない。



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ナオトがゆっくり言う。



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「人ってな」



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「元に戻るもんやと思いがちやけど」



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「戻らんまま続くもんなんや」



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窓の外では、


風が静かに揺れている。



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マサルは義足の違和感を探さない。



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シンジは薬を確認しないまま鞄に入れる。



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アキラは明日の予定を不安なく受け入れる。



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ユウスケは身体の状態を気にしない。



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ナオトはそれを見て、


少しだけ目を細める。



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壊れたものは元に戻らない。



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それでも生活は続く。



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その“戻らなさ”ごと、


彼らは日常にしてしまった。



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ナオトが最後に言う。



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「ここが地元や」



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誰のものでもない。



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でも確かにそこにある場所。



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失っても、壊れても、


戻れなくても、


人はそこに立ち続ける。



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マサルが立ち上がる。



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シンジが続く。



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アキラが荷物を持つ。



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ユウスケがストレッチをする。



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ナオトが最後に席を立つ。



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誰も見送らない。



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でも誰も離れない。



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扉が開く。



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夜の空気が入る。



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それぞれがそれぞれの場所へ戻っていく。



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同じではない道。



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それでも完全には離れない道。



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そして物語は、


終わるのではなく――



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そこにあるものとして残り続ける。



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(完)

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