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第3話:お玉いっぱいの救世主

王宮の食堂に漂う、芳醇なシチューの香り。それは人間だけでなく、王都の外に潜む「鼻の利く連中」をも呼び寄せてしまった。


「ほ、報告します! 王都の正門に、魔物の大群が押し寄せています!」


伝令兵が転がり込んでくる。


「その数、およそ五千! 普段は深山にこもっているはずの『暴食の巨鳥エピック・コンドル』まで混じっています!」

アルフレッドが即座に立ち上がった。


「くっ、まさかこのシチューの魔力に引き寄せられたのか……。寧々、君は奥へ隠れていろ。我ら騎士団が——」

「……えっ、せっかくのデザート、冷めちゃうじゃないですか」


寧々が不満げに頬を膨らませる。彼女の手には、先ほどまで鍋をかき混ぜていた、銀色に光る大きな「お玉」が握られていた。


「アルフレッドさん、ちょっと待っててください。」

王都の城壁の上。 空を埋め尽くす巨鳥の群れと、地を震わせる魔物の群れを前に、兵士たちは絶望していた。 そこへ、ひょいっと寧々が姿を現す。

「皆様、本日のメインディッシュの材料になりたい方はどなたですかー?」

のんきな声とは裏腹に、寧々が「お玉」を天に掲げた。


彼女がイメージしたのは、料理の仕上げに振る舞う「スパイスの散布」。しかし、その魔力は『全方位殲滅極大魔法:メテオ・ペッパー』へと変換される。


ドドドドドッ!!


空から降り注いだのは、燃え盛る巨大な岩石……ではなく、聖なる魔力でコーティングされた「光の礫」だった。 それは魔物たちを傷つけるのではなく、その邪気だけを完璧に浄化し、ついでに魔物たちの体毛を「最高級の食材(下処理済み)」へと変えていく。


「グルアァッ!?」 「ピギャッ!?」


恐怖の咆哮は、いつの間にか「クゥ〜ン」という甘えた声に変わっていた。

浄化された魔物たちは、あまりの心地よさと寧々から放たれる「お母さんのような温かさ」に毒気を抜かれ、その場に整列してお座りを始めたのだ。


「よしよし、みんな良い子ですね。あ、そこの鳥さん。羽根が美味しそうだから、少しだけ分けてくださいね?」

寧々が空中で指をパチンと鳴らすと、巨鳥の羽根が数枚ハラリと落ち、それが黄金のパイ生地に変化した。


数刻後。 殺気立っていた戦場は、なぜか「青空炊き出し会場」と化していた。


騎士団も、先ほどまで敵だった魔物(浄化済み)も、一緒になって寧々が即興で作った「魔物肉の香草焼き」に舌鼓を打っている。

「……信じられん。剣を抜かずに、食欲だけで五千の敵を無力化するとは」 アルフレッドは、自分の剣を鞘に収め、呆然と隣に座る寧々を見つめた。


寧々は、ふぅふぅとスープを冷ましながら、アルフレッドの口元にスプーンを差し出す。 「戦うより、食べたほうが体力がつきますよ? ほら、あーん」

「……っ。貴様、衆人環視の中で何を……」 耳まで真っ赤にするアルフレッド。しかし、兵士たちや懐いた魔物たちがニヤニヤと見守る中、彼は逃げ場を失い、観念して口を開けた。


鋼の心を持つと言われた騎士団長の心が、寧々の「家庭の味」にじわじわと侵食されていく。


「寧々。……次は、その、城下町の市場へ案内しよう。君の料理には、もっと良い食材が必要だろうからな」


「ありがとうございます!楽しみにしています!」


食欲と平和が混ざり合い、異世界の夜は更けていく。 しかしその頃、遠く離れた魔王領では、魔王が「自分の配下たちが白旗を上げてピクニックをしている」という報告を受け、プルプルと震えていた——。

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