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第1話:聖女の目覚めは空腹と共に

「.......あ...私、死んだんだっけ。」


寧々が最後に覚えているのは、電車に乗るために待ってた時に倒れそうになったおばあちゃんを助け、自分はそのまま体制を崩して頭を強打してそのまま力尽きたこと。

最後まで、「あのお弁当、食べたかったな……」

なんて考えていた自分に、少しだけ苦笑いする。


目を開けたとき、そこはアスファルトの上ではなく、柔らかな苔と巨大な樹木が立ち並ぶ、見たこともない森の中だった。


「……えっと、ここ、どこ?」


寧々は首を傾げた。混乱するよりも先に、体の中から溢れ出す「何か」の違和感に気づく。

まるでお風呂上がりのように体が軽く、指先からパチパチと小さな火花や水滴がこぼれ落ちている。


彼女が不思議になる暇もなく、目の前には、巨大な牙を持つランクAの魔獣(キラー・ベアー)が、地響きを立てて迫ってきた。


「グルゥ……ッ!」


普通なら絶体絶命。しかし、寧々の胃袋は限界だった。


「……あ、あの。クマさん。そんなに怒鳴らなくても……」


寧々がそっと手をかざすと、手のひらから太陽のような巨大な魔力溜まりが出現する。魔法陣の展開も詠唱すらもすっ飛ばした驚異的な魔法である。本人は「威嚇」のつもりだったが、その余波だけで周囲の木々が浄化され、一瞬で花が咲き乱れた。


「私、今すっごくお腹が空いてて。……それ、美味しそうな霜降りですね?」


!?(熊の驚愕)

数分後。

森には美味しそうな肉の焼ける匂いが漂っていた。寧々は、指先から出した極小の(と言いつつ山を焼き払えるレベルの)火魔法で、手際よく肉を炙っていく。


「いただきまーす!」


パクッ、と一口。

その瞬間、寧々の体から、黄金の光柱が空高く立ち上った。

あまりのおいしさに魔力が暴走…ともいうが、活性化したのだ。

その光は、数キロ先の大都からもはっきりと観測できるほどだった。


「ふふ、聖魔法で毒抜きしたら、こんなに柔らかくなるなんて。異世界、最高です!」


「……おい、貴様。そこで何をしている」

至福のモグモグタイムを楽しんでいた寧々の背後から、低く、冷徹な声が響いた。

振り返ると、そこには白銀の甲冑を纏った一人の騎士が立っていた。 鋭い眼光、整いすぎた顔立ち。王国の若き騎士団長、アルフレッドである。

彼は「空を貫く異常な魔力の反応」を調査しに、決死の覚悟で部下を置いて単身乗り込んできたのだ。

しかし、彼が目にしたのは——。

伝説の魔獣だったものを美味しそうに頬張り、口の端にソースをつけた、おっとりとした少女だった。

「ふぁい? ふぉの、あんぁふぁも、ひべまふか?(はい? あの、貴方も食べますか?)」

「……は?」

アルフレッドは絶句した。 目の前の少女からは、かつて見たこともないほど清らかで、かつ底知れない魔力が溢れ出している。それなのに、彼女の関心は目の前の肉料理に100%注がれている。

「これ、聖魔法で筋切りしたから、すっごく柔らかいですよ。」

「なっ……! 私は王国の騎士だぞ、そんな出所不明の——」

ぐぅ〜〜〜。

静かな森に、アルフレッドの腹の虫が盛大に鳴り響いた。彼はここ数日、魔物暴走の調査でまともな食事を摂っていなかったのだ。

寧々はふんわりと微笑み、彼の手を取って切り分けた肉を握らせる。

「美味しいものは、みんなで食べたほうがもっと美味しいですよ?」

その瞬間、アルフレッドの心臓が、空腹とは別の理由でドクンと跳ねた。 彼女の指先が触れた場所から、温かな魔力が流れ込み、彼の長年の戦傷と疲れを一瞬で癒やしていく。


(……この温かさは何だ。それに、この香り……)

これが、後に「食卓の聖女」と呼ばれる寧々と、彼女に胃袋と忠誠を捧げることになる騎士団長の、あまりにマイペースすぎる出会いだった。

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