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義眼の杖  作者: 鳥居之イチ
第二章 『呪の杖 編』

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008

 ユースティティアに気づく前に、クラトスは臨戦態勢に入った。

 クラトスに気づかれること無く、アストレア工房に侵入し、背後を取られたのだ。

 王家直属護衛軍中佐としてあってはならないことであった。

 しかし、そんなことお構いなしにユースティティアからの問いかけにアストレアは淡々と答える。



 「カフェあたりから尾行してましたよね?

 フォグの魔法は特徴的ですから、分かる人にはすぐにわかりますよ。」


 「まじー?

 結構慎重に尾行してたつもりなんだけどなー」


 「そんなことはどうでもよくて、なぜクラトスさんにこの依頼の話を持ちかけたんですか?

 あなたのことだから何か考えがあるんですよね?」



 アストレアはユースティティアに問いかける。

 その問いかけに対しユースティティアはどうしようかなといったような表情を浮かべ、腕を組みさも考えている素振りを見せながら、アストレアとクラトスの表情を観察している。

 そんなテキトーな態度に嫌気がさしたのか、アストレアが続けて口を開いた。



 「クラトスさんを巻き込まないでください。

 クラトスさんは王家直属護衛軍に所属している軍人です。

 もしレガリア破壊に噛んでいると知られれば、どんな処罰を受けるか分かったもんじゃありません。」


 「それを決めるのは僕じゃない。」


 「フォグがそそのかしたんですよね?」


 「レガリアの事を教えたのはレイン。君だよ?」


 「そうするように仕向けたのにそんなこと言うんですか?」



 アストレアとユースティティアは口喧嘩を始めた。

 そんな会話を聞いて、クラトスの臨戦態勢の姿勢は徐々に崩れていく。それは二人は自分をそっちのけで会話しているからではなく、むしろクラトスのために喧嘩をし始めている二人がなぜか微笑ましく見えて思わず笑ってしまった。

 それを見たアストレアとユースティティアは喧嘩を止め、互いに溜息をついた。


 三人が落ち着いたところで話し合いを再開した。

 一番最初に口を開いたのはクラトスであった。



 「先に質問してもいいか?

 今回の依頼である杖の破壊というのは、ワイバーンの大群を呼び出した杖の持ち主である王族もしくは魔法七賢人の誰かを殺すということか?」



 その質問に対しアストレアが答えるが、それは回答ではなかった。



 「だから、クラトスさんはこの依頼を受けないでください。断ってください。

 この依頼を受ける前提で話を進めてますけど、これ以上クラトスさんにお伝えすることはありません。」


 「レインは硬いねー。僕はいいと思うけどな。

 それに内部で暗躍できる人間がいた方が動きやすいと思うけど?」


 「フォグの意見は聞いてません。

 そもそもレガリアの破壊は私とフォグの利害が一致してるから共闘しているだけです。

 クラトスさんにはなんのメリットも無い。

 熱感知魔法でレガリアの場所が分かるのは本当に素晴らしいことですが、それとこれとは別です。

 クラトスさん、今ならまだ間に合います。この依頼を断ってください。」



 メリットの有無を問われれば、即答できないクラトスであったが、ここまで聞いてしまったからには自分にも何かできないかと考えた。

 そんなクラトスの背中を押したのはフォグ・ユースティティアであった。

 ユースティティアの言葉にアストレアは怪訝な表情をしたが、そんなことよりもクラトスはユースティティアから衝撃的な内容に意識を奪われていた。



 「サン・クラトスにもメリットはあるよー。

 レインは肝心なことを話さないんだから...

 サン・クラトスはダンジョンに挑んだことはあるかい?」


 「ダンジョン...?

 治安維持のための魔物の討伐や、軍の訓練の一つで出向くことはあるぞ。」


 「サン・クラトスはダンジョンがどうやってできるか知っているかい?」


 「ダンジョンがどうやってできるか?」



 正直考えたこともなかった。

 ダンジョンがどうやってできるのかなんて。

 ダンジョンと言えば、自然発生されるものであり、自然生成される条件は魔物が一定数集まるということだけ知っている。

 魔物が一定数集まる?



 「わかったみたいだね?

 あのワイバーンの大群はダンジョンができる前兆のようなものだよー。」


 「つまり、ダンジョンにはレガリアがあると...?」


 「そーゆーことー!

 でも僕たちもね、ダンジョンにレガリアがあることは分かってるんだけど、ダンジョンのどこにレガリアがあるかは分からないんだ。

 そこでサン・クラトス。君の出番だ!」


 「俺の熱感知魔法でダンジョン内のどこにあるかもわからないレガリアを探せるってことか?」


 「そのとおりー。」



 ユースティティアは両手の人差し指をクラトスに向ける。

 本当にこの人は魔法七つの魔法の各系統において最も優れた使い手に与えられる称号の中でも、最強と名高い風の王と呼ばれる人なのだろうか?

 こんなに茶目っ気があるものなのだろうか?

 魔法七賢人とはもっと厳格な人の集まりだと思っていたが、ユースティティアを見ているとそんなこと無いのかもしれないとクラトスはそう思えていた。



 「それでメリットっていうのはね、ダンジョンに挑めるということだよ。

 ただ挑むだけじゃない。サン・クラトスの魔法を使ってダンジョン内のマップを作ることができるんだよねー。

 君も知っての通り、ダンジョンのマップを作成するのは現状不可能だ。その理由はダンジョンに住む魔物がそれを許さないからだねー。

 一階層しかないダンジョンならまだしも、二階三階と各ダンジョンによって階層は異なるし、潜んでいる魔物の種類も数も違うよね。

 でも、君の魔法ならそれが分かる。

 ダンジョンのマップを作るということはそれだけで国や冒険者にとっても有益な情報だ。それを作るってだけでも君にメリットがあると思うけど、どーかな?」



 ダンジョンのマップ。

 それは国がギルド経由で冒険者に作成を依頼するほど重要なモノであるが、複数あるダンジョンはすべてのダンジョンにおいて未だにマップが作られていないのが現状だ。

 ではなぜマップが作られていないのか。

 理由は大きく2つ。

 1つ目はユースティティアが言った通り、魔物がマップ作成を妨害するからである。

 ダンジョンはいわば魔物の住処である。人間同様住処を勝手に侵入され、挙句の果てには素材を剥ぎ取るために殺しにかかってくるのだ。魔物も黙ってはいない。ダンジョンに侵入した者を排除しようと戦闘になり、マップを作るどころの話ではない。

 2つ目はダンジョンには隠し通路と隠し部屋の数が異常といっていいほど蔓延っているためであった。これはユースティティアほどの風魔法の使い手であってもマップを作ることができない理由でもある。

 本来であれば、風魔法を用いた音の反響による空間把握を行えばマップ作成を行うことが可能なのだが、音が反響しない空間があるとすれば、その空間までは把握することはできないためであった。

 しかしクラトスの熱感知魔法を使えば隠し通路や隠し部屋など関係無しに網羅することができるだろうということだ。

 そんな現状作成が不可能なダンジョンマップが作れる可能性があるだけで、クラトスにもメリットがある。クラトスも仕事や任務としてダンジョンに挑むことがあるが、どれだけダンジョンマップがないことを恨んだことか。

 ダンジョンマップがあればどれだけ仕事を効率化することができ、どれだけ負傷者を減らすことができたか。

 クラトスにとってはこれ以上にないメリットであった。

 あったが...



 「すまない。ダンジョンマップを作るということはメリットではあるが、それは勝手に俺がダンジョンに潜って作ればいいだけはないのか?」


 「冒険者でないサン・クラトスがダンジョンに挑むのは仕事か依頼時でしかできないことでしょー。

 でも僕が依頼したってことにすればいつでもダンジョンに潜ることができるよー。

 それにレガリア破壊のときはだめだけど、事前調査ってことで部下を連れてダンジョンに潜ってもいいよー。」


 「...どうして俺にそんなにも俺に執着するんだ?」


 「言ったじゃーん。

 内部で暗躍できる人材がほしいからだよー。

 あとは、そうだね。君のあれを応援したいからかな。」


 「...質問だ。

 アストレアからは今のレガリアは固定だと聞いた。

 それならなぜ、ダンジョン発生の兆候である魔物の大量発生が起きたんだ?

 それにレガリアがダンジョン内にあるということは、ダンジョン内に王家か魔法七賢人の誰かがいるってことか?」



 ユースティティアの応援したいという言葉にどうも信用ができず、またそれをアストレアに聞かれたくない一心でクラトスは話を逸らすために、聞きたかったことを質問した。

 クラトスの質問は的を得ていた。

 その質問にはアストレアが答えてくれた。



 「レガリアは固定ですが、ダンジョン内に王族や魔法七賢人がいるというわけではありません。

 レガリアは移植されるというお話でしたよね?器官である以上、適合するかどうかは相性があります。

 しかし相性は血縁者であれば適合率はハネがあります。」


 「...つまり、現在のレガリアは王族や魔法七賢人の祖先...ということか?」


 「そうです。」


 「ちょっとまて!それが事実なら魔法七賢人っていうのは...」


 「...お察しのとおりです。

 それは魔法七賢人だけではありません。王族もです。

 奴らの祖先が杖無しだったからこその今の地位というわけです。」


 「なら、ユースティティア様も...」



 クラトスはユースティティアに視線を向ける。

 アストレアの話が本当だとすれば、今の王族があるのは祖先が杖無しだったからであるということだ。しかしそれは王族であればいささか問題ない話だろう。レガリアに適合するということは正当な血筋であり、王位継承権を得るということだ。

 しかし魔法七賢人であれば話は別だ。本来魔法七賢人とは、7つの系統の魔法の最も優れた使い手に与えられる称号である。それが血縁者から選ばれているとなれば大問題だ。



 「あぁ、僕は違うよー。

 むしろ一緒にされると嫌だなー。」


 「...フォグは正真正銘、実力だけで魔法七賢人になったんですよ。」


 「レインが僕をほめてくれるなんて珍しいねー。」


 「褒めてません。話を戻します。

 レガリアが固定であることは理解いただけたかと思いますが、問題はダンジョンを作ったレガリアは何なのかということです。

 ...それはマスターが現在確認されている杖無しから杖無しとなる器官を摘出し作成した現代のレガリアがダンジョンの発生源になります。」


 「...なぜレガリアを作る必要がある?」


 「国益のためですよ。

 ダンジョンがあれば冒険者や魔法戦士が集まり、それに伴いマイスターが集まります。

 マイスターがいれば素材屋は店を開き、続けて飲食店や宿屋、防具屋などが開店します。

 ダンジョンがあるだけで国の経済は回るんですよ。」



 つまり国益のためだけに、杖無し狩りが行われているということを示していた。

 そしてその犠牲にアストレアもなったと。

 クラトスにとっては信じられない事だ。



 「俺、依頼引き受けます。」


 「クラトスさん!

 私断ってくださいって言いましたよね?」


 「俺は自分の目で真実を確かめたい。

 アストレアの話が信じられないわけじゃない。でもあまりに信憑性が無さすぎる。

 そのためにもこの依頼を受けます。」


 「じゃ、決まりだねー。

 そうとなれば作戦会議をしよーか。」



 アストレアの制止も聞かず、クラトスは依頼を引き受けることとなった。


 それは真実を知るために。

 それはこの国を止めるために。

 それはアストレアの目を取り戻すために。


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