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義眼の杖  作者: 鳥居之イチ
第二章 『呪の杖 編』

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006

 「ニケのやつ、どんだけエール呑むんだよ...」



 昨夜から厚さの変わった財布を眺め、その薄さにため息を付きながらクラトスはアストレア工房に歩みを進める。



 「奢れって言ってきたのはニケだけどさ、限度があるだろ...」


 「あ、クラトスさん!おはようございます。」



 ニケに対する愚痴をこぼしていると、クラトスを見つけたアストレアが声をかけてきた。

 アストレアは普段と同じで烏羽色のローブを羽織っており、フードは顔が見えないくらい深く被っていた。



 「アストレア!偶然だな。」



 クラトスはそんなぎこちない挨拶を返す。

 そんな返しに嫌な態度を取ることなく、アストレアは会話を続ける。



 「何か落ち込んでいるように見えましたが、大丈夫ですか?

 お話だけでも良ければ聞きますけど。」



 天使かと思った。

 クラトスは想い人が自分の心配をしてくれるだけで、ニケのせいで薄くなった財布のことなど忘れ、むしろ彼女に心配をしてもらえるような状況を作ってくれたニケに感謝すら覚えるほどであった。



 「いや、大丈夫だ。むしろちょうどよかった。

 今日はアストレアに用があって足を運んだんだ。

 どこかお茶でもしながら、お話をできないだろうか?」



 そうクラトスが言い終わると、アストレアは固まってしまった。

 なぜ固まったのかわからず、自分の言い放った言葉を頭の中で再生する。



 (あれ?俺今デートに誘ったみたいになってないか?)



 自分の口から咄嗟に出た言葉がまさかデートに誘う男性のセリフになるとは思っていなかった。しかしここで変に誤魔化したり、訂正したりするのは少し違うような気がして、クラトスはただ彼女の返答を待つしかできないでいた。



 「...いいですよ。

 誰かに聞かれたらまずいお話ですか?」



 予想外の返答であった。

 明らかにデートのお誘いのようになってしまったのにもかかわらず、アストレアはそれを承諾したのである。

 これは脈アリなのではないかと密かに期待するクラトスであったが、今はそんなことよりユースティティアからの依頼内容を彼女に伝えることを優先し、今にも踊りだしそうなほどの高揚感を無理やり抑え込んだ。



 「...そうだな。できれば二人だけで会話がしたい。

 一応風の防音魔法に覚えがあるから、どこかのカフェとかでもいいぞ?」


 「本当ですか?

 行ってみたいカフェがあったんです。

 甘いものはお好きですか?」


 「嫌いではないぞ。」


 「決まりですね!」



 アストレアはそう言うと、「こっちです」とクラトスに声をかけクラトスと一緒にカフェに行くことになった。

 アストレアの行きたがっていたカフェというのは、街の食事処事情に詳しくないクラトスでも聞いたことのあるカフェであった。

 シエレトワールというそのカフェは味わい深いコーヒーや紅茶が有名で、セットにはシフォンケーキやチーズスフレ、ガトーショコラやショートケーキに加え季節のフルーツをふんだんに使ったケーキを選ぶことができ、女性を中心に人気のカフェであった。



 (アストレアは甘いものが好きなのか。

 かわいい...)



 「すみません、女性のお客さんしかいらっしゃらないですね。

 気まずかったら遠慮なく言ってくださいね。別のお店でも全然大丈夫です。」


 「まったく問題ない。

 俺はコーヒーにするが、食べられそうであれば俺のセットのケーキはアストレアが食べてもいいぞ?」


 「本当ですか?私ケーキが好きなんです!

 お言葉に甘えていただいちゃいますね!」



 (かわいい...

 デートと言っていいのかわからないが、初めて二人で出かける場所がカフェで良かったかもしれない。

 仕事だけど...)



 注文を済ませると、すぐにテーブルに頼んだ商品が運ばれてきた。

 クラトスはブラックのホットコーヒー。アストレアはミルクが多めの紅茶に生クリームがたくさん乗ったシフォンケーキに、クラトスのセットで注文したいちごの大きなショートケーキが目の前に並べられた。

 アストレアはフードを剥ぎ、その小さな口でどうしてそんなにも頬張れるのか理解できないほどの量を口に詰め込み、幸せそうに微笑んでいた。



 「本当に好きなんだな。」


 「ご、ごめんなさい!私だけ楽しんでいるみたいで。」


 「そんなことはないよ。

 俺も今十分に楽しい。」


 「それは良かったです。」


 「食べながらでいいから俺の話を聞いてくれないだろうか?」


 「そうですよね、本題はそちらですよね。」



 クラトスは小さく深呼吸をしてからアストレアに今回の依頼のことを伝える。



 「まずはアストレア。君にとって嫌な話になるかもしれない。

 話って言うのは、君を指名で依頼があり、俺と一緒にその依頼を受けてほしいという話だ。」


 「...依頼ですか?」


 「あぁ。昨日大量のワイバーンの群れがキダ王国の上空を覆ったのは知っているか?」


 「はい、実際に私自身も目にしておりました。」


 「今回はそのワイバーンの群れが発生した原因となるモノの破壊もしくは封印というのが依頼内容になる。」



 それを聞いたアストレアはケーキを食べる手を止め、少し大きめにため息をついたあと、呟くように「フォグですね」と囁いた。その表情は無表情に近いもので、先程まで幸せそうにケーキを食べていた人と同一人物には思えなかった。

 アストレアの呟く声は小さく、聞き取ることができなかったクラトスはそんな表情をするアストレアを気にしながらも「え?」と聞き返した。



 「...その依頼、フォグからのものですよね?」



 フォグ。

 それはユースティティアのファーストネームであり、そのことを知っている人は多いものの、魔法七賢人でありさらに風の王と呼ばれるほど魔法七賢人の中でも最強と謳われるユースティティアのことをファーストネームで呼ぶものなどいないはずであった。

 そんな状況からさらにアストレアとユースティティアとの関係性が気になるクラトスであったが、まずは聞かれた質問に答えることにした。



 「あぁ、ユースティティア様からの依頼だ。

 申し訳ないが、ここからは防音魔法をかけるぞ。」


 「構いませんよ。

 ...フォグいえ、ユースティティアからは直接依頼をすると私が断ると思われているのでしょうね。それでクラトスさんにお話が来たんですよね?

 すみません。巻き込んでしまったようで。」


 「とんでもない。むしろこんなお話ですまない。

 それでどうする?断るか?」



 アストレアは数秒の沈黙のあと「詳しいお話を聞いてもいいですか?」と回答をした。それに続けるように「場所を変えましょうか」と提案をし、アストレアとクラトスはアストレア工房の地下へと移動した。




 「ここなら、誰にも聞かれることなくお話ができると思います。

 クラトスさん、お手数ですが詳しいお話を聞かせていただけますか?」



 アストレアの問いかけに頷き、一拍置いてからクラトスは語りだした。

 先日浜辺での訓練中にワイバーンの大群に遭遇したこと。戦闘を試みたところにユースティティアが現れ、ワイバーンを一掃したこと。報告に訪れるとユースティティアから今回のワイバーンの大群はある杖が原因であり、その杖を破壊もしくは封印するように依頼されたこと。

 詳細を含め、事細かに説明を行った。

 それを聞いたアストレアからは、予想外の質問が返ってきた。



 「...フォグに何か褒められたりしましたか?」


 「ユースティティア様にか?

 そうだな...熱感知魔法についてなら少し言われたような気がする。」


 「熱感知魔法?」


 「あぁ、以前国王陛下謁見式の護衛任務の時、広場全体に熱感知ができるように魔法陣を展開してたんだ。

 熱感知魔法は魔法陣内の熱を帯びているモノの行動などをすべて把握できるもので、変な動きをしている奴の摘発だったり、そもそも参加人数以上の人数が来ていないかの確認をするための魔法だ。」


 「...待ってください。

 広場全体って、あの王宮の広場全体ですか?」


 「あぁそうだな。正確に言えば広場だけでは感知範囲が狭いから、王宮の敷地内全部とはいかねーけど、三分の一くらいは感知できるように魔法陣を展開してたよ。」



 その異常なまでの魔法に驚き、目は見開き、口は閉じられないでいた。

 小さく「そんなことが可能なんですか...」と呟くアストレアのクラトスを見る表情はとんでもない化け物でも見るかのような視線へと変わっていた。



 「そ、そんなに変か?」


 「ご、ごめんなさい。取り乱したようです。

 クラトスさんその熱感知魔法について、クラトスさんその魔法を仕えることをどのくらいの人がご存じですか?」


 「そうだな...軍の上層部は知っていると思うぞ。

 知っているからこそ、中佐という立場でも謁見式の護衛任務に呼んでもらえたくらいだからな。」



 アストレアは若干怪訝そうな表情に変わり、クラトスに対してくぎを刺すように言い放った。



 「クラトスさん、その魔法を使えるということはなるべく内緒にされた方がいいです。」


 「...なぜだ?」



 至極当然の疑問だろう。

 クラトスは自分自身が使った魔法をなぜ他人に知られない方がいいのか分からないでいた。



 「クラトスさん、その魔法はどこで覚えたんですか?」


 「俺の質問は無視かよ...

 まぁいい。この熱感知魔法は俺が開発した魔法だ。

 だから俺以外でこの魔法を使える人物はいるのかもしれないが、会ったことはない。」


 「魔法を開発...した?」



 衝撃の事実に驚きと困惑の表情へとまたしても表情を変えるアストレアに対し、今日は様々な表情が見れていい日だ。なんて思いながらもクラトスは魔法の開発したことをアストレアに説明した。



 「...その魔法は誰かに教えましたか?」


 「いいや、教えてねーな。

 ていうか、さっきからどうしたんだ?全然会話になってねーぞ?」



 アストレアの事をかわいいと思いながらも、一方的に質問されそれに答えるそれに若干の嫌気がさし、そのままアストレアに対し言い放ってしまった。

 それを受けアストレアは深々と謝罪をする。



 「申し訳ございません。

 その...クラトスさんにはこれから...その...知っておいてほしいことがあります。」



 急に歯切れが悪くなるアストレアにクラトスは心配になりながらも、深刻な表情で告げるアストレアの気持ちを無下にするわけにもいかず、話を聞くことにした。



 「クラトスさんは、王家や魔法七賢人に対してどのような印象を持たれていますか?」



 それはクラトスが思ってもいない質問であった。


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