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義眼の杖  作者: 鳥居之イチ
第二章 『呪の杖 編』

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005

 「...以上が報告となります。」


 「ワイバーンの群れはこちらでも確認できていたよ。

 それにしてもユースティティア様が近くにいて良かったな。

 いくらあの有名なクラトス中尉であっても、あの数のワイバーンを相手にするのは不可能だろう?」


 「ゆ、有名?

 まぁそうですね。ワイバーンと戦ったことがないわけではないのですが、当時はワイバーン1体に対して、こちらは30人以上で隊を組んで戦ってやっとのことで勝てたほどです。

 私一人ではどうすることもできないでしょう。」


 「またまたご謙遜を。」



 クラトスはワイバーンのユースティティアの一件を報告するために、自身が所属する王家直属護衛軍の本部がある王宮を訪れていた。

 王家直属護衛軍の最高司令官であるアルシャンは報告に来たクラトスとニケを歓迎しているようで、本来であれば上司は座り部下は立ったまま報告をする姿を想像するだろうが、実際にはソファに二人を座らせ、紅茶を注ぎながら笑顔で会話をしている。

 アルシャンは最高司令官という肩書に負けないほどの体格で、現役のクラトスほどではないが、鍛えられた胸筋のせいでシャツの胸元がパツパツになっており、短めに切り揃えられた髪は白髪に近い銀髪で、同じ色の顎髭と終始不機嫌のようにも見えるジト目のせいで、報告を聞く以外では部下と会話することは滅多にないようで、こうして部下が報告しに来ると上機嫌で歓迎してくれるようだ。



 「クラトス中尉が本気を出せばワイバーンの1体や2体問題なく討伐できるんじゃないのかい?」


 「...そんなことないですよ。アルシャン司令官は冗談がお上手ですね。」


 「いやいや、冗談じゃないよ。

 そうそう、今の報告と付随してになるのかな。一つ頼みたいことがあってね。」



 若干クラトスの話をそらしたようにも思えなくもないが、アルシャンはそんなことはお構い無しに、ちょうどしたノック音に応えるように「どうぞ」と声を上げる。

 応答を確認した後に部屋に入ってきたのはユースティティアであった。



 「ユースティティア様、ここまでお越しいただきありがとうございます。

 ささ、こちらにお座りくださいませ。」


 「全然だよー、アルシャン司令官。

 や、さっきぶりだね。サン・クラトス。」



 さすがの最高司令官であるアルシャンも魔法七賢人には下手に出るしかないのだろう。しかしそんな態度にも動じずユースティティアはアルシャン相手に軽く流し、早々に見つけたクラトスに対して親しい中であるかのように声をかけた。

 一緒に報告に来ていたニケは自分だけが会話に参加できていない気がして少し不機嫌気味になっていたが、それに気が付いたユースティティアはニケにも声をかける。



 「そういえば君はさっきも居たね。

 サン・クラトスの同僚...いや、部下かな?」


 「...はじめまして。王家直属護衛軍 第一中隊所属のニケと申します。

 クラトス中尉の元で働いております。

 本日は二度も魔法七賢人 風の王であるフォグ・ユースティティア様にお会いできて光栄です。」



 ニケの口調は棒読みも棒読みであり、ユースティティアの会話に一線を引いているようであった。クラトスもその口調に若干の違和感を覚え、ニケに注意するもその態度が改善されることは無かった。



 「大丈夫ですよ。僕は気にていませんサン・クラトス。

 それにしても丁度良かったんですよ。僕はサン・クラトスに用があったんだよ。」


 「俺にですか?」



 それを聞いていたアルシャンはそうだったと言わんばかりに、話に割り込んできた。



 「そうなんだよ。

 クラトス中尉に頼みたいことって言うのはユースティティア様からのご依頼なんだよ。」


 「どういうことですか?」



 クラトスの問いかけに対してさも当然のようにユースティティアがそれに答える。



 「依頼したいことは、先ほど大量発生したワイバーンに関係することなんだ。

 僕がこの国に来たのは偶然じゃないんだよねー。まぁワイバーンの遭遇は偶然なんだけどね。

 依頼内容は簡単に説明すると、ワイバーン大量発生の原因になっているモノの破壊もしくは封印をお願いしたいんだよねー。」


 「...ワイバーン大量発生の原因になっているモノ?

 と、いうかなんで俺に依頼なんですか?

 俺は王家直属護衛軍に所属しているいわば軍人です。その手の依頼であればギルド経由でギルドカード保有者に依頼された方が良いと思うのですが...」


 「いや、今回の件はサン・クラトス。君に依頼したいんだよねー。

 理由は今サン・クラトスが使っているその杖にあるんだよねー。」


 「杖?レイン・アストレアと何か関係があるんですか?」


 「関係があるわけじゃないよー。ただこの件はそのレイン・アストレアに依頼をしたいんだよねー。

 でも僕が依頼を出したとなれば彼女は受けてくれないんだよ。」


 「そういえばお知り合いと言ってましたよね。

 アストレア工房を名指しでギルド経由で依頼を出せば、断らないんじゃないですか?」


 「いや、彼女は断るよ。

 でもサン・クラトスに僕が依頼をして、その協力者として君がレイン・アストレアを選んでもらえれば、彼女は断らないと思うんだよねー。」


 「...俺は彼女を呼び出すための道具ってことですか?」


 「そういい方はしてなでしょー。

 サン・クラトスに依頼をしたいっていうのは本心だよ。

 君の熱感知魔法は炎の王にも匹敵する精度だし、君の魔法は護衛軍に籍を置いておくだけでは勿体ない実力だよ。」



 その時テーブルを叩きつけた勢いで立ち上がり、ニケはクラトスの腕を掴み強く言い放った。



 「中尉、こんな依頼受ける必要無いですよ。

 行きましょ。司令官への報告は完了しているので用は済んでいるはずです。」


 「おいニケ!失礼だぞ!」


 「失礼なのはユースティティア様でしょ?

 中佐を女性を呼び出すための道具のような扱いして、俺だって黙ってませんよ。

 ...このまま失礼します。」



 ニケはクラトスの腕を掴んだまま引っ張り、部屋を飛び出した。

 ズカズカと歩くニケの後ろを手を引かれる形で追いかけることしかできないクラトスは自分のことを気にかけてくれたことが嬉しくて笑っていた。



 「ニケ、ニケ!」



 荒い歩きがゆっくりとなり、そして歩みを止めた。

 徐々に冷静さを取り戻したニケは口を開いた。



 「...すみませんでした。

 俺のせいで中佐が罰を受けることはありませんか?」


 「いいや、ないよ。

 ニケ、ありがとうね。俺はうれしいよ。」


 「お礼を言われるようなことはしてません。

 でも、ユースティティア様...正直怪しいですよ。

 あの依頼のお話を受けるかどうかは中佐が判断されることなので、俺がどうこう言うつもりはないですけど、義眼の魔女に本当は依頼したいのに、直接依頼すると断られるからって言う理由で中佐を使うのはおかしいですよ。

 それに...」


 「どうした?」


 「いえ、これは考えすぎかもしれないんですけど...

 義眼の魔女ってマイスターなわけじゃないですか?

 魔法七賢人であるユースティティア様がマスターでない杖職人の事を知っているでしょうか?」


 「でも、義眼の魔女って有名だろ?

 あまり詳しいわけじゃないが、俺でも聞いたことくらいあったぞ?」


 「そうではありません。

 有名なのは”義眼の魔女”であって、”レイン・アストレア”ではありません。

 義眼の魔女 = レイン・アストレアであることを知っている人はほとんどいないでしょう。実際にあの工房を紹介した俺も義眼の魔女であることは知っていましたが、彼女の名前がレイン・アストレアという名前であることは知りませんでした。

 でもユースティティア様はレイン・アストレアという名前を聞いてそれが義眼の魔女であると言い当てました。

 つまり、義眼の魔女 = レイン・アストレアであることを知っていたんですよ。」


 「ニケにしては頭がさえてるな...」


 「中佐?どういう意味ですか?

 ま、いいですけど、俺はこの後飯おごってもらう予定なんでね。

 話を戻しますけど、ユースティティア様が義眼の魔女に直接依頼をしても断られると言ったことから、ユースティティア様が一方的に義眼の魔女の事を知っているわけではなく、互いに互いのことを知っている関係性であることが分かります。

 それでいて義眼の魔女が魔法七賢人からの依頼を断ると言うのは、仲が良くないのだと思います。」



 いつもはバカみたいに騒いでいるニケが数回の会話から読み取れる情報を最大限に活かして考察をしているところを見てクラトスは感動すら覚えていた。

 普段はバカを装っているだけで、本当は頭の良いんだとクラトスの中でのニケに対するイメージが変わった瞬間でもあった。



 「確かに怪しいな...」


 「でも、こんなこと言っておいてなんですが...

 中尉が想いを寄せている義眼の魔女と一緒に何かをできるチャンスでもあるので...今さらですが、ユースティティア様から詳しい依頼内容を聞いてから決めても良かったですかね?」


 『それはよかったー。

 一度話だけでも聞いてくれるってことー?』



 突如として聞こえてきたその声はユースティティアのモノであった。

 二人は驚きあたりを見渡すが、どこにもユースティティアの姿は無かった。



 『あ、魔法だよー。

 風魔法で空気の振動を遠くまで届けてるんだよー。

 僕は近くにはいないからね。』



 風魔法にそんな使い方があることを知らなかった二人はまたしても驚いた。

 空気の振動を遠くまで届けることができると言うことはその逆も可能だと言うことだ。つまり先ほどのニケの考察も聞かれていた可能性が高いということだ。

 ニケは恐る恐る無に向かって、質問を投げかける。



 「...もしかして俺の話って聞こえてました?」


 『勝手に話を聞いちゃっていたみたいで申し訳ないね。

 ま、確かに怪しいよねー。

 依頼を受けるかどうかは、話を聞いてからでも嬉しいかなー。

 にしても、サン・クラトスはあの義眼の魔女のことが好きなの?いいねー。』


 「なっ!」


 『まあいいんじゃない?彼女はいい人だよ。

 僕と彼女との関係が気になるのであれば、直接彼女に聞いてみるといいよ。

 仲がいいってわけじゃないけど、嫌いあってるわけじゃない。きっと彼女もそう思っているはずだよ。』


 「...いったんそちらに戻ります。」



■ ■ ■ ■ ■



 ユースティティアから聞いた話はとてもじゃないが聞いたことも無く、そして信じられない話であった。

 それはワイバーンが大量発生した原因は”ある杖”が関係しているとの内容であった。



 「その杖を破壊もしくは封印するというのが依頼内容と言うことですか?」


 「話が早くて助かるよー。サン・クラトスは頭の良い人だねー。

 それで引き受けてくれるかい?」


 「...この国そして王家を守るのが俺の使命です。

 それに当てはまるモノであれば俺は...この依頼を引き受けたいと思います。」


 「よかったー」


 「ただ、なんで俺なんですか?

 ユースティティア様のお話では、本来はレイン・アストレアに今回の件は依頼したいんですよね?

 彼女をおびき出すためであれば、俺以外にも適任はいたんじゃないですか?」


 「...その理由を聞くのが、依頼を受ける条件ってことかい?」


 「そうです。」



 場の空気が変わった。

 本来であれば、魔法七賢人は雲の上の存在であり、話をするどころか、視界に入れることすら憚られるような存在である。いわば殿上人だ。

 王家と同等もしくはそれ以上の権力を要すると言われるほど高貴な存在であり、そんな者からの依頼に条件付きで受ける受けないの判断をすることは通常であれば考えられないことであった。

 しかし、クラトスにもプライドはある。

 クラトス自身を買ってくれていることに対して嬉しく思う反面、買ってくれている理由が気になるのは至極当然のことであった。


 そんな条件をユースティティアは受けた。



 「...僕がサン・クラトスに依頼をする理由は二つ。

 一つ目は、レイン・アストレアが君を気に入っているということ。

 もう一つは ”君ならその杖を探すことができるから” だよ。」


 「俺なら杖を見つけられる?

 どういうことですか?」


 「僕が言えるのはここまでだよー。

 あとはレイン・アストレアに直接聞くといいよー。

 彼女ならその理由が分かるはずだからねー。」


 「どういうk...」


 「じゃ、僕は条件を呑んだよ。

 次は君が僕の依頼に応える番だ。

 では頑張ってね。それからレイン・アストレアによろしく。」



 そう言い残すとユースティティアは魔法でその場から姿を消した。

 一気に疲れを感じたクラトスはソファにもたれかかる。

 それを心配するようにアルシャンもニケも声をかけるが、「大丈夫」と簡素な回答をした。



 (とりあえず、明日にでもアストレア工房に行ってみるか...)


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