EPISODE1 〝出会い〟
*登場人物
綾瀬楓斗・・・ 大学3年生 / 芸術学部・映像専攻
小野夏海・・・ 大学3年生 / 教育学部・保育専攻
カメラのファインダー越しに
見える彼女は透き通るほどに綺麗で笑っていた。
本当は泣きたいほど辛いはずなのに。
楓斗side
大学3年、映像専攻。
小さい頃から人付き合いが苦手で
家に引き篭ってばかりいた俺の趣味は
ドラマや映画を見ることだった。
誰かに夢や希望を与えられるような
そんな作品を作りたい。
いつしか俺に初めての夢が出来ていた。
親も初めて俺が夢を語ったからだろうか
反対はしてこなかった。
だから俺は迷わず映像専攻のある
大学に進学し専門知識を学んだ。
そんな俺もあと1年で卒業を迎えようとしている。
ほとんどの生徒はチーム制作を選んだが
俺は個人で卒業制作をすることに決めた。
脚本も演出も全部。
理由は自分だけで作り上げた作品を
評価してもらいたかったから、ただそれだけ。
キャスティングも終わり脚本もある程度出来上がり
あとは企画書を教授に
提出するだけだという時の事に問題は起きた。
主演を引き受けてくれていた友人に断られたのだ。
直前になってキャストが白紙に戻り
正直俺は絶望に暮れていた。
そんな時だった。
ふらっと立ち寄った本屋さんで彼女を見かけた。
名前は小野夏海。
確か…教育学部だった気がする。
保育士を目指していると夢を語っていたのを
たまたま見かけたことがあった。
でもここ数ヶ月、ほとんど姿を見ていなかった。
気づけば俺は彼女が本を読んでいる
その横顔を "カット1" として脳内に保存した。
理由は分からない。
でも俺は『この子を撮りたい』と思った。
それは直感で、必然で、そして今思えば…
間違いなく運命だった ______。
俺は思わず声をかけていた。
楓斗「小野…さん??」
彼女がゆっくりと振り返る。
少し驚いた顔をしていたが
淡い微笑みがそこにはあった。
楓斗「ごめん驚かせて。…覚えてるかな??
2年の頃に一緒の授業受けたことがあるんだけど。」
夏海「綾瀬くん…??」
楓斗「あっ…そうです、綾瀬です」
夏海「…どうかした??」
楓斗「いや…最近見かけてなかったなって思って」
夏海「うん…最近はあまり大学行けてなくて」
その『行けてなくて』の後に
彼女は何かを飲み込んだのが分かった。
俺はそれ以上、何も聞かなかった。
でもその時に確信したんだ。
この子の中にはちゃんと夢がある。
誰にも見せなくても、まだ消えていない何かがある。
楓斗「…映画撮っててさ。卒業制作。
それで今キャスト探してるんだけど……」
そこで一瞬、彼女の眉がぴくりと動いた。
驚きでも、警戒でもなく
ほんの一瞬だけの "揺らぎ"
楓斗「…良かったら主演、頼めないかなって」
沈黙。
けどそれを破ったのは意外にも彼女の方だった。
夏海「私…演技とか出来ないよ??」
その声はまるで泣き笑いみたいで。
俺はちょっとだけ笑った。
楓斗「知ってる笑
けど演技の上手さとかじゃなくてさ…
"本当に夢を語れる人" の方が俺は撮りたいんだ」
彼女は目を見開いたまま、言葉を失っていた。