くれくれ君
その怪異は自殺しようとしているところに現れる。
そして、にっこりと笑って尋ねてくるのだ。
「その命、いらないのですか?」
自殺を間際に問われた言葉。
大抵の者が興味も持たずに頷いてしまう。
「あぁ、やっぱり! なら、もしよろしければ私に譲っていただけないでしょうか?」
すると大抵の者が問い返す。
「何に使うんですか」
「いえ、別に。ただ集めているんです。命というやつを」
要領の得ない言葉。
しかし、もう命を捨てる直前なのだ。
だから、特に気にもせずに言ってしまうのだ。
「好きにしてください」
「あぁ、ありがとうございます!」
そう言って、怪異は大層喜び命を奪う。
奪った命をどうするのかは分からない。
そして、怪談話であるが故にこの先は語られることはない。
だからこそ。
「その命、いらないのですか?」
屋上に立ち、飛び降りようとしている私の前にそれが現れた時、小さな動揺が起きた。
「く……くれくれ君?」
私の問いかけに怪異は微笑んだ。
「ははは……実に恥ずかしいですが、そう呼ばれております」
怪異は丈が全く合っていないスーツを着た小男だった。
「しかし、私の名を知っているならば話は早い。その命、譲っていただけないでしょうか?」
私は思わず唾を飲みこんでいた。
「なっ、何に使うんですか?」
「ははは。ご存知でしょう? ただ集めているだけです。コレクターという奴でしょうか?」
身体が震えていた。
恐怖を感じていた。
それはきっと、生きていたいという実感なのだろうと私は思った。
「すみません。あげたくありません」
そう言って私は。
「じゃあ、早く死ねよ」
突き飛ばされた。
落ちていく。
自分が。
死にたくない。
死にたくない!
死にたくない!!
死にた