わたしにとって、あなたは
日々の暮らしの中で、
ふと耳にする言葉がある。
「あの人って、こういう性格だよね。」
誰かを語るとき、私たちは無意識に
“その人の説明書”をつくろうとする。
でも私は、そんな言葉を聞くたびに、
少しだけ立ち止まってしまう。
本当に、“その人”はそういう人なのだろうか?
たとえば、ある人にとっては「優しい人」が、
別の人には「冷たい人」に見えることもある。
同じ笑顔が、「安心」にも「よそよそしさ」にも見えるように。
性格とは、ひとつの確かな輪郭を持ったものではなく、
誰と、どんな関係で、どんな距離で過ごしたかによって、
静かに、そして確かに形を変えていく。
つまり、“その人”の性格とは、
「私にとって、こう見えた人」——
そんな関係性の中で浮かび上がる輪郭にすぎないのかもしれない。
だけど、だからこそ。
私たちは、人を一方向からだけで見てはいけないのだと思う。
その人の“今”だけでなく、
過去や、知らなかった一面や、
誰かといるときにしか出ない表情まで、
そっと想像してみること。
もしも、そういう視点があったなら、
「この人はこういう人」と決めつけていた世界が、
ほんの少しだけ、やわらかくほどけていく気がする。
「わたしにとって、あなたは」
そう問いかけるたびに、
“他者”という存在は、ひとつではないことを思い出す。
そしてきっと、自分自身も同じだ。
誰かにとっての私は、
やさしいかもしれないし、頑固かもしれないし、
話しかけにくいと思われる日もあるだろう。
だからこそ、
「この人って、どんな人?」という問いには、
少しだけ時間をかけて、
いくつもの見方を手に取りながら、
ゆっくり、静かに向き合ってみたいと思う。
わたしにとって、あなたは——
まだ知らない表情を持つ、何通りもの“あなた”なのだと、
そんなふうに思えたら、
きっと世界は、もう少しだけ優しくなる。