第7話 『S』ランク冒険者
3話分を一気に更新します。
更新が遅くなって申し訳ありませんでした。
「奏太くん、ちょっとこれ使ってみてくれない?」
そういって芹香から手渡されたのは『瞬間転移のオーブ』。
使用者の適正レベルよりも上階に移動できるマジックアイテムだ。
「別に構わないけど、僕が使ってもたぶん1階層しか行けないよ?」
「だからお前に頼んでるんだよ」
ニヤニヤと笑いながら剛司が僕を小突く。
そこでなんとなく事情を察した。
「……なるほどね。このまま来た道を5時間掛けて戻るより、僕を使って1階層からすぐに帰ろうって訳だ」
「ほう、役立たずにしては鋭いじゃないか」
さっきまで落ち込んでいた直也がそう返すと、剛司と芹香はゲラゲラと笑い出す。
やれやれ。いったい何が面白いんだか。
排泄物に関連するこの上なく不名誉なあだ名を彩愛から付けられてて、ちょっとは同情してたのに。
「じゃあ使うよ。みんな僕に近づいて」
さっさと地上に戻りたいという気持ちは僕も彼らと同じだったので、3人を急かすように言った。
「待った」
僕がオーブに魔力を込めようとすると、隣から稟とした声が響いた。
「どうしたの、彩愛ちゃん?」
芹香が怪訝そうに尋ねる。
「私は反対。来た道に引き返すことを提案する」
「なんで? 楽でいいじゃん」
「1階層に戻れる保証がない」
「だって奏太くんだよ?」
その一言で納得できてしまう現実がちょっと切ない。
「ゴ……木村。赤オーブはあるの?」
「い、一応用意はしてある……」
彩愛、いま直也のことをゴルジ体って言いかけたな。
しかしゴキムラとも聞こえるし、はたして言い直す意味はあったんだろうか。
直也の顔も引き攣ってるし。
「解った。転移先でもし奏太に危険があったら迷わず赤オーブを使う。これが条件。呑めないなら私と奏太はここで離脱する」
「えぇ……」
僕の意志を無視した彩愛の提案に唖然とした。
正直、いまの彩愛と2人きりになるのは避けたい。
僕は幼馴染みとしての関係を前に進めたいと思ったけど、彼女のベクトルは明らかに僕と違う方向を向いている。
「……わかったよ。約束する」
直也は苦虫を噛み潰したような顔で了承する。
その言葉に僕はほっと胸を撫で下ろした。
「ほらほら、あたし早いとこお風呂入りたいんだからさっさとしてよー」
足踏みしながら芹香が僕を急かしてくる。
そういえば、地上3階には温浴施設があったんだっけ。なら僕も熱い湯に浸かりながら、今後のことをじっくり考えよう。
そんなことを考えていると、隣の幼馴染みのことがふと気にかかった。
「………………」
端から見れば無表情なんだろうけど、僕にはなんとなく険しい顔のように見える。
この短時間で彩愛の機微を読み取れるようになったのは重畳だけど、なにがそんなに心配なんだろう。
たしかに今まで転移系のオーブは使ったことがない、というか使う必要がなかった。何故ならこのパーティが危機に陥ったことなんて過去に一度もなかったから。だから、これが僕らの初転移になるわけで緊張する気持ちは解る。けれど、このオーブの効果は先人たちによって明確に実証されている。
そして僕のレベルは1。使用者の適正階層より下には行けないわけだから、ランダムなんて文言を気にする必要もない。
というわけで。
「じゃあ今度こそ行くよ」
気を取り直して僕はオーブに魔力を――
「ちょっと待ってくれ~!」
その声に振り返る一同。
「悪いが話は聞かせてもらった! 俺もついでに乗せてってくれないか?」
またしても僕は水を差された。
しかも今度は無精髭を生やした四十がらみの、なんとなく胡散臭さを感じるおじさん。
僕らを代表して直也が前に出る。
「申し訳ないですが見ず知らずの人を――って、あ、あなたは!?」
「ああ、俺か? 俺は澤村っていうんだが……」
澤村。その名には聞き覚えがあった。
それにこの場末道場の師範代みたいな、ちょっと頼りなさそうな雰囲気の顔も。
「だぁれ、このおじさん」
サムライ風の彼に胡乱な眼差しを向ける芹香が言った。
「ば、ばかっ! 澤村連司さんだ! 知らないのか!?」
「うーん…………」
どうにも芹香はピンときてないようだ。
この稼業に乗り気でない僕ですら顔も名前も知っているというのに。
直也は芹香の代わりに必死に頭を下げている。
「はっはっは! いいねお嬢ちゃん。俺も堅苦しいのが苦手だ。だから兄ちゃんも頭を上げてくれ」
器の大きな人だ。ちょっと胡散臭いとか思ったけど。
澤村連司。
日本に4人しかいない『S』ランク冒険者。
その頼りない風貌とは裏腹に天職は『剣聖』。勇者にも劣らない最上級職である。
日本の冒険者人口は趣味やライト層を含めて約200万人程度といわれている。
その内の9割以上が僕と同じ『E』ランク以下の冒険者で、『A』ランク冒険者は1000人といない。で、その中から4人しか選ばれないのだから、『S』ランクが持つ意味の大きさが分かるだろう。
彼は現在まで踏破が確認された最深部である34階層を初めて攻略した人だ。
しかもパーティではなく、単独で。
この国の『A』ランク冒険者1000人が一番強いのは誰かと問われれば、ほぼ全員が澤村連司の名を上げるだろうといわれている。
……芹香のような教養低所得者は除いて、だけど。
しかしそんな人が、どうして20階層に……。
「いやぁ、マンティコアの宝箱からはよく『レベルアップの種』が出るって噂だから、もし誰かが拾ったら使っちまう前に高値で買い取らせて貰おうと思ってこの辺をウロウロしてたんだわ」
疑問に思ってると、本人があっさりと話してくれた。
レベルアップの種は文字通り、使用者のレベルを強制的に1アップさせることができる。
レベルが上がると次のレベルに必要な経験値も当然増えるわけで、『S』ランク冒険者ともなると、レベルを1上げるだけで膨大な時間と労力が割かれる。だから、彼にとっては喉から手が出るほど欲しいアイテムというわけだ。
けれど、ここで一つの疑問が浮かび上がる。
「何故、ご自身でマンティコアを倒さなかったのですか?」
代弁して直也が言った。
意見や思考が彼と一致すると僕は何故か不安になる。
「この立場になると色々としがらみが多くてねぇ、後身の育成も考えなきゃならんのよ。で、場違いな俺があっさりと20階層のボスを倒しちまったら他の冒険者はどう思うか。頭の良さそうな兄ちゃんのことだから解るだろう?」
階層主を倒して得られる経験値は通常の魔物とは桁違いだ。
けれど、一度倒すと12時間経つまでは復活しない。だから、彼は他の冒険者に気を遣って倒さずにいたわけか。
「な、なるほど」
直也も得心したように頷いた。
「1週間くらいこの辺りで野営して待ってたんだが、10連敗の挙げ句にそろそろ食料も尽きてな。君らの報酬が不発だったら俺もテント畳んでさっさと退散しようと思ってたところだったわけよ」
そこへ楽に地上に戻れる手段があると聞いて、飛び出してきたってことか。
なかなか抜け目のない人だ。
「わ、解りました。では仮ではありますが、澤村さんもパーティに加わって戴ける、ということでよろしいのですね?」
「ああ、よろしく頼むわ。それと俺のことは気軽に連司と呼んでくれ」
彼――連司さんは、砕けた感じにそういって直也に自分の冒険者カードを手渡した。
腕輪型の端末にカードをタッチして加入ボタンを押せば、一時的なパーティメンバーとして認証される。
――――――――――――――――――――――――――――
澤村連司 43歳 男 レベル:97 冒険者ランク:『S』
天職:剣聖
攻撃力:9373
防御力:8701
魔法攻撃力:2873
魔法防御力:6782
俊敏力:7531
魔力:5783
称号:剣の申し子・踏破者
――――――――――――――――――――――――――――
僕らの端末にもパーティメンバーとして連司さんの情報が開示された。
いや、ていうかエグすぎるでしょ。なにこの化け物じみたステータスは……。
「あわわわわ……」
「ひぇぇ……」
「――――――」
自分が粗相した相手をようやく理解した芹香は、顔面蒼白になって震え上がった。
いつもイケイケな剛司ですら明らかに腰が引けている。
直也に至っては放心状態だ。
しかしそれも束の間、立場やステータスを感じさせないフランクな口調で、連司さんはあっという間に3人と打ち解け、和気藹々と雑談を交わしている。
「君らは……おーおー、『C』ランクのパーティとは思えないような、おっそろしいリザルトだなあ(笑)。それに個々のステータスも。うん、うん――」
連司さんは自身の端末で僕らのリザルトやステータスを1人1人確認しているようだ。その表情は一見すると、甥や姪っ子の成長を喜ぶ親戚のおじさんのような生暖かいものだった。けれど――
「で、最後が――」
その顔が一変する。
それはほんの僅かのことだったけど、僕は見逃さなかった。
「……………………ほほう」
顔から一瞬笑みが消え、画面上の相手を値踏みするような真剣な面差しに切り替える。そして端末から視線を外した連司さんがこちらを向き、僕と目が合うと、また気のいいおじさんの顔に戻った。
「悪ぃな、ちょっと向こうにも声掛けてくるわ」
「えー……あたしもっと連司さんの話聞きたいなぁ……」
連司さんの腕を馴れ馴れしそうに掴む芹香。
すでに媚びを売るべき相手としっかり認識を変えたようだ。
頭を掻きながら芹香を適当にいなすと、彼は手を上げながらこっちに近づいてくる。
僕は当然身構えた。
「よう、奏太くん! それから……彩愛ちゃん!」
胡散臭さに拍車が掛かってる。
彩愛をオマケみたいな扱いをしているところをみても、彼の目的が僕ひとりに絞られていることが解った。
「…………初めまして、新山奏太です。かの有名な澤村連司さんにお会いできて光栄に思います」
「…………」
僕はあえて彼の望まない形で慇懃に挨拶を返したけど、彩愛の方は無言で不穏なオーラを漂わせている。警戒心はすでにマックス状態だ。
「お、俺なんかしたか……? そんなに身構えられるとおじさんちょっと悲しいぞ……」
そういって、よよよ、と泣き真似をしてみせる。
その白々しい演技の裏でこの人はいったい何を考えているのだろうか。
「いえ。僕らはただ、すごい人に会ってちょっと緊張しているだけです」
「んー、そうは見えないけどなぁ」
「そうでしょうか」
「ああ」
「では、そうなのかもしれませんね」
客観的にみれば、僕の態度は失礼千万に値するのだろう。
友好を示してきた相手に対し、暗に拒絶する姿勢を示してるのだから。
けれど、僕としては明らかに素顔を隠してますという相手に、親しくなれる気がしなかった。
「……………………」
「……………………」
そこからしばらく無言の対峙が続いた。
できればこのまま何事もなく直也たちの元へ戻ってくれると有り難いんだけど、と思っていると。
「……俺の負けだ。お互い腹の探り合いはやめよう」
そういって彼は気のいいおじさんを演じる仮面を外した。
「君の目は初めから俺のことを疑っていたな。さぞ胡散臭い男に見えたろう?」
「確証はなかったんですが、なんとなくは……」
「それでいい。何事にも疑いの目を持つ心は大切だ。長生きしたければな」
何事にも疑いの目を持つ心――含蓄のある言葉だと思った。
ひとまず僕は連司さんに対する警戒を少しだけ緩めた。彩愛の方は知らないけれど。
「奏太くんのステータスとリザルトを見させて貰った。俺が気になった点は主に3つ。まず一つは、それなりの経験値を得ながらレベルが1止まりであること。二つ、『魔の子』という称号。そして三つ目、君のステータスは何故か魔力だけが非表示になっていることだ」
土足で家に上がり込むような無遠慮さで、連司さんは僕の抱える問題点はずばずばと指摘してきた。
けれど僕を馬鹿にする感じではなく、あくまで冷静に事実だけを述べている。
「一つ目に関しては、レベルアップに必要な経験値は天職や個人差で全く変わってくるから、ありえないことではない。二つ目の称号も、元々謎の多い存在だけに置いておくとして、問題は三つ目のステータスだ。俺は今まで一箇所でも数値が表示されない人間を見たことも聞いたこともない。君は一度でも自分の魔力を測ったことはあるか?」
「ええ、あります」
「結果は?」
「血液検査では測定不能、と言われました。たぶん血中の魔力濃度が低すぎて検出できなかったんだと思います」
この時代の魔力測定方法は二つあって、一つがこの腕輪型端末によるリアルタイム判定。
そしてもう一つが、精密機器を用いた血液検査だ。
先進的なのは後発である腕輪型端末の方だけど、僕は初めから非表示状態だったので、念のため血液検査も受けたというわけである。
「……なるほどな。たしかにレベル1の人間なら、そういうこともあり得るのかもしれない。だがその場合、普通は0という数字をもって判定されるはずなんだが……まあいい。それで君は何か魔法やスキルは使えるのか?」
「僕が使えるのは『魔力譲渡』だけです」
「ドネイト、か……」
「効果は雀の涙、みたいなものですけどね、きっと。はは……」
「……………………」
自虐的に言ってみたのだけど、連司さんの反応は薄かった。
リザルト画面を見ながら何か考え込んでいるようだ。
「君は彼ら以外の誰かに、ドネイトを使ったことはあるか?」
「いえ、一度もありませんね」
「魔力の枯渇や倦怠感を感じたことは?」
「それもありません」
なんだろう、この問診みたいなやり取りは。
「わかった。すまないが、ちょっとここで待っていてくれ」
そう言って連司さんは直也たちのいる方へと向かっていった。
ていうか連司さんの顔と口調、最初と変わりすぎだろう。と思いながらその横顔を眺めていたら、あちらの3人と話し込むその姿はかなりフランクな様子。時折剛司たちと一緒になってゲラゲラと笑っている。
そのたびに芹香がチラとこっちを見てくるので、たぶん僕の話題で盛り上がってるんだろうな。
もちろん悪い意味で。
しばらくすると、連司さんが戻ってきた。
「悪いが色々と探りを入れさせてもらった。……大変だな、君は」
最後の一言で、僕はだいたいのことを察した。
「……受け入れてますよ」
「君が無能の役立たずで、パーティの足を引っ張っている、という話か?」
「……はい」
僕は小さく首肯した。
だってそれが事実なんだからしょうがない。
「……まあ君の立ち位置については置いておこう。俺にとっていま重要なのは、彼らがいかなる魔法やスキルを習得し、どの程度の頻度で行使しているのか、そして魔力ポーションの使用回数についてだ。君たちはまだ若いから、他の冒険者が戦っている場面をあまり見たことはないだろう?」
「……確かにそうですね」
基本的に僕たちはエリアボスまでの最短ルートをブルドーザーのごとく魔物を蹴散らして突き進む、いわゆるごり押し戦法だから、何か特別な理由がない限り、立ち止まって周囲を眺める、なんてことはほとんどない。
「普通は10階層を過ぎた頃になると、冒険者は魔力消費のことを常に念頭に置きながら戦わなくてはならない。魔力ポーションは短い頻度で使うと効果が薄れていくという欠点があるからな。だが君たちのパーティは一度も魔力ポーションを使ったことがないというのだから驚きだ」
「超級の天職持ちは魔力の自然回復量が段違いに多いとよく聞きますが?」
「魔力の自然回復量は体調や年齢、天職のほか、あらゆる事由によって異なる。その中でも天職が重要なファクターを占めているのは君の言う通り。だが、彼らは休むどころか、そもそも魔力が減っていく感覚すらないと自慢げに話していた。俺はこの世に出てきた大半の魔法やスキルについての知識は持っている。だから、彼らの戦闘スタイルが魔力の自然回復量で支えられる範疇でないことも知っている」
「……結局なにが言いたいんでしょうか」
「つまりだ、彼らには魔力消費を無視できる別の供給源があるのではないか、と俺は考えている」
「……それが僕の<魔力譲渡>ってわけですか?」
「それはまだ分からない。君のレベルは現に1だし、ステータス上の魔力も未知数だ。だが、可能性として一番高いと俺はみている」
「…………」
自分が唯一使える魔法がとんでもない可能性を秘めてるなんて、考えたこともなかった。
連司さんは真剣な表情を崩さずに続ける。
「奏太くん、君さえよければ後日改めて俺とパーティを組まないか?」
「…………え、ええっ!?」
「奏太、声が大きい」
「ご、ごめん……」
横にいる彩愛から3回目の注意を受けた。でも『S』ランクの冒険者、しかも日本最強との呼び声が高い人から急にパーティを誘われたら誰だってこんな声出るでしょ……。
「えっと、確認なんですが、本当に僕ですか? もしそうなら僕よりも直也たちの方が……」
「直也? ああ、あの頭の悪い少年たちのことか。悪いが俺の腹芸に気づくこともなく、訊かれもしないことを自分からペラペラと話すような薄っぺらい人間に毛ほどの興味もない」
「で、でも一応超級の天職持ちですし……」
「俺には彼らの背負う天職が随分と重たそうに見えるな。膝が先か、尻が先か。身の危険が迫ったとき、前に転ぶ人間と後ろに転ぶ人間がいる。得てして後者は長生きしない」
遠回しな言い方ではあるけれど、連司さんの中で直也・剛司・芹香の3人は長生きしないタイプの冒険者に分類されてるらしい。
ダンジョンは生きている。絶対はない。今日もどこかで誰かが死んでいる。
冒険者全員が善人ということはありえない。強奪や事故を装った殺人も決して珍しくもない。
冒険者になりたての頃、僕はそのことを危惧して散々直也たちに注意を促した。
危険なルートは避けよう、とか、見ず知らずの冒険者を簡単に信用するな、などと。
最初は渋々ながらも聞き入れてくれてたけど、僕のレベルは一向に上がる気配はなく、彼らとのレベル差と平行して心の距離も徐々に離れていった。
そうしていつしか僕の言葉に耳を貸さなくなり、いまでは『気楽に行こう』とか『大丈夫だろう』などと、冒険者にあるまじき呪いの言葉を平気で口にするようになった。
いまの彼らは天職とレベルを笠に着て慢心している。その自信が裏切られたとき、たしかに尻餅をつかないとも限らない。
それが生死を分ける致命的な隙になることも……。
「…………」
「思い当たる節があるようだな」
「…………否定はしませんが、あれでも僕の幼馴染みです。簡単に死んでもらっては困ります」
「俺とて前途ある若者の早死を望んでいるわけではない」
「分かってます。ちなみに僕を誘ったのは、<魔力譲渡>の検証をしたいからなんですよね?」
「その通りだ。で、どうだろうか? 仮に俺の予想が間違っていたとしても、俺は最後まで君の面倒を見ると約束しよう」
「…………」
僕は返答に窮してしまう。
いままでの僕は自分自身に見切りを付けていて、能動的に動くことはなかった。
あくまで受動的に。求められれば。
この先もずっとそのスタンスは変わらないのだろうと思っていた。
「奏太くん。居心地の良い場所に留まるのも一つの生き方だ。俺はそれを否定しない。だが、君には大いなる可能性がある。その芽を自分から摘み取ってしまうのは実に不幸なことだとは思わないか?」
「…………!」
「人生とは終わりの見えない三叉路の連続だ。選択肢はあっても、得てして選べるほどの自由があるとも限らない。だが、こうして君と俺が、本来混じり合うことのない道で交差してしまった以上、君は君の最善と思う道を征くがいい」
連司さんのその言葉に、僕は大きく心を動かされていた。
この人についていけば、僕がいままで目を背け続けてきた現実に向き合えるような気がした。
僕が知らない僕自身のこと。疎遠になった幼馴染みのこと。
僕は少しでも4人の役に立ちたかった。
昔のように僕が小言をいって、なんだかんだ文句を言いながら受け入れてくれる、そんな関係に戻りたかった。
「わかりました。僕は連司さんについていきます」
僕は右手を差し出した。
彩愛と僕を繋いでいたその手は、すんなりと離れる。
彼女もこの人なら大丈夫と、認めてくれたのかもしれない。
「ああ、よろしく頼むよ。2人とも」
そういって連司さんはニカっと笑い、僕と固い握手を交わす。……けれど僕はすぐにその違和感に気づいた。
「ふ、2人ともって……まさか彩愛もこのパーティに含まれているんですか……?」
「はっはっは! 俺は愛し合う男女を切り離すような無粋な男ではないからな、安心したまえ!」
まったくの節穴だった。
「ちょ、連司さんっ、僕と彩愛は――」
「よし! そうと決まれば善は急げだ。さっさと地上に戻って補給を済ませたら再出発するぞ。俺は先に向こうに行ってるからな!」
連司さんは僕の反論に耳を貸すことなく、高笑いしながら直也たちの方へ去っていく。
結局、最初のキャラに戻ってるけど胡散臭さは感じられないし、いったいどっちが本物なのか分からなくなってしまった。
僕は本当にこの人に付いていって大丈夫なんだろうか……。
「奏太、あの人は間違いなくいい人」
いつの間にか僕の左手を握っていた彩愛が、そんなことを言ってきた。
「……そうですか」
やはり彼女の人を判断する基準はそこなのか、と思ったけど、まともに相手にする気力が湧かなかった。