第2話 一応、幼馴染み
続けて芹香、彩愛のステータスも表示されると、さらに多くの歓声や感嘆の声が上がった。
ちなみに冒険者カードに表示されている天職とは、異能力者が持つ生来の資質のようなもので、ステータスの追加上昇や新しい魔法・スキルの獲得など、職に応じて様々な恩恵を受けることができる。
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黒木芹香 16歳 女 レベル:44 冒険者ランク:『A』
天職:聖女
攻撃力:214
防御力:325
魔法攻撃力:867
魔法防御力:758
俊敏力:370
魔力:1687
称号:なし
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上条彩愛 16歳 女 レベル:47 冒険者ランク:『A』
天職:賢者
攻撃力:243
防御力:287
魔法攻撃力:1658
魔法防御力:763
俊敏力:531
魔力:2463
称号:なし
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木村直也 16歳 男 レベル:55 冒険者ランク:『A』
天職:勇者
攻撃力:2015
防御力:1974
魔法攻撃力:1573
魔法防御力:1692
俊敏力:1323
魔力:1963
称号:なし
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「お、おい、見たかよ。あのガキ……いや、あの青年、『勇者』持ちだぜ……」
「あ、ああ……各国に一人か二人しかいないんだろ……俺も初めて見た……」
そして最後にパーティリーダーである直也のステータスが表示されると、衆人環視はもとより受付嬢までも目を丸くして驚いていた。
「ま、まさか勇者様だったとは……はっ!? し、失礼いたしました! 私、今月からこちらに配属されたばかりで……」
「いえ、大丈夫ですよ」
直也が平然とした態度で返すと、受付嬢は改めて居住まいを正した。
「それにしても何故『C』のカウンターに並ばれたのですか? みなさま『A』ランクの様ですが……」
「ああ。それなら最後のカードを見て貰えれば解ると思いますよ」
「あっ、そういえばまだ確認がお済みでない方がいらっしゃいましたね」
そういって受付嬢は僕の冒険者カードをリーダーにかざした。
周囲の視線がいっそう僕に集まるのを感じる。そして僕は思った。
ああ、結局またこのパターンになるのか、と。
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新山奏太 16歳 男 レベル:1 冒険者ランク:『E』
天職:なし
攻撃力:100
防御力:100
魔法攻撃力:100
魔法防御力:100
俊敏力:100
魔力:***
称号:魔の子
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「なんだ、コイツだけ無職のゴミじゃん」
「期待して損したわ」
「しかも称号が『魔の子』ってなんか気味悪いし」
さっきまでの反応とは真逆。無遠慮な罵声が、容赦なく周囲から浴びせられる。
……そもそもキミたちはいったい僕に何を期待してたんだ。
これでも成人男性の平均はあるんだぞ、という負け惜しみは言葉にせず飲み込んだ。
「れ、レベル1に『E』ランクですか……失礼ですが、本当にこのパーティ構成で受理してもよろしいのでしょうか……?」
「はい。確かにこの男は無能ですが、荷物持ちに加えて一応<魔力譲渡>が使えるので」
「な、なるほど。ポーターに<魔力譲渡>ですか。それなら、まあ……」
受付嬢が値踏みするような視線を僕に向け、言った。
こういう扱いには慣れているとはいえ、やはり辛いものは辛い。
幼馴染みの中で、一人だけ無職。しかも、いくら経験値を貰っても一向にレベルが上がる気配がないし、僕がパーティにいるせいでパーティランクは『C』のまま。
挙げ句の果てには『魔の子』という取得条件もその効果も不明な称号。前に悪が付いてないことがせめてもの救いか。
もし僕に天職があったなら、きっとここまで惨めな思いはしていなかったのだろう。
だから、僕と彼らに途方もない彼我の間があるのはもう理解しているし、受け入れてもいる。
僕を無能と言い切った直也にしたって、なんだかんだでパーティに入れてくれているのだから、むしろ僕は感謝すべきなのだ。
彼らは世間が多大な期待を寄せる新鋭の冒険者。そして僕は――ただの忌み子なんだから。
「ではカードをお返しします。本日はどの階層からスタートされますか?」
「20階層でお願いします」
「承知いたしました。規定により『C』ランクパーティは20階層より下へ降りることは固く禁じられておりますので、その点はご注意ください」
「…………わかっています」
受付嬢の警告に、直也は少し間を置いて応えた。
本来なら『A』ランクパーティとして30階層まで潜れることに一瞬思うところがあったのだろう。
付き合いが長いだけに、それがなんとなく感じ取れた。
「では搭乗券を発行します。次の20階層行き昇降機の出発は10時30分になりますので、15分前には必ずゲート前にお集まりください」
「了解しました」
「以上ですべての手続きを完了いたします。お気を付けていってらっしゃいませ」
僕らは受付嬢の慇懃な一礼に見送られ、その場を後にする。
現在の時刻は9時ちょうど。昇降機の出発にはまだ時間があるので、芹香の提案で一度パーティは解散して、20分前にゲート前で再集合することに決めた。
僕は直也が一人になったのを見計らって声を掛ける。
「直也」
「……なんだ?」
明らかに僕と話すのを嫌そうにしているけど、それでも応じてくれる辺り、まだマシなのかもしれない。
「ごめん。みんな本当はもっと奥まで潜りたいのに、僕のせいで」
「……一応は幼馴染みだからな」
「それでも、ごめん」
「もういいよ。それよりも、時間に遅れるなよ」
そういって直也は飲食街の方へと去って行った。
「一応、ね……」
いつかその前置きが取れる日がやって来るのだろうか。
僕の心の中に、その言葉が重く沈殿していった。