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第1話 プロローグ




「深く。もっと深く!」


それがその時代の人々の合言葉であった。


今から約半世紀前、世界を揺るがす大地震と共に突如として誕生した謎の入り口。

後に人々がダンジョンと呼称するようになるその地下迷宮は、人類がかつて経験したことのない新世界への扉だった。


そしてその入り口と共に産声をあげた謎の力を持つ人間――異能力者。

魔法ともよばれる新たな力を手にした人間たちは、ダンジョンの内部に眠る金銀財宝や未知のマジックアイテム、そしてモンスターが落とす魔石や素材の数々――そしてレベルアップによるステータス上昇を求めて、昼夜を問わずダンジョンへと潜った。

だがその一方で異能力者、いわゆる冒険者たちの未帰還者数は攻略速度と比例するかのように増加していった。


その影響を重く見た各国の首脳は、会議に次ぐ会議を重ね――ついに国連主導の新たな国際機関である『世界冒険者連合(WAC)』の設立を宣言する。


WACの管理下に置かれた各国の冒険者たちは、ダンジョン踏破階層、モンスター討伐個体数、ステータス、そしてWACへの貢献度。この4つの項目からなる評価ポイントによってGからSまでランク付けが行われると同時に、各階層の難易度やダンジョンマップ、モンスターの出現傾向などの攻略情報の共有がなされた。


WACによる徹底した情報管理と冒険者のサポート体制を整えたことで、未帰還者――死者数の増加に歯止めがかかり、今では高等学校以上に設置される冒険科、もしくはWACの認定を受けた教育機関で一定の研修を受けた者であれば、誰でも冒険者になることが可能になった。


無論、先天的な異能を持たない人間にとっては厳しい環境に変わりはない。それでもレベルアップによるステータス上昇や、ダンジョンに眠る宝物の数々は、人々を新天地へと駆り立てるには十分な魔力を持っていた。




――そうして今日もまた、未踏の階層を目指す若き冒険者たちがこの地へと降り立った。










「はぁ……」


東京行きの列車の中で、流れる車窓を眺めながら静かに息を吐く。


四人がけのボックスシートに座るのは僕一人で、反対側では幼馴染みたちが和気藹々と雑談に興じていた。

どうやら前回のダンジョン攻略で見つけた宝物の話のようだ。


「この前19階層で見つけた『敏捷のアミュレット』だけど、オークションに出したら200万で落札されたんだ」

「マジか!? そりゃやべえな!」

「えー、アレ売っちゃったんだ。あたし、あのデザインちょっと気に入ってたのになぁ……」

「…………」


このパーティのリーダーである直也(なおや)がすまし顔で報告すると、お金に目が無い剛司(つよし)がそれに食いついて、芹香(せりか)が残念そうに肩を落とす。そして彩愛(あやめ)は無言でスマホを弄っていた。


僕の幼馴染みである彼らは、こちらの存在をまったく気にしてる様子はない。


天気は快晴。窓を開ければ心地よい風が車内を通り抜けるであろう絶好のレジャー日和だというのに、僕の周りだけはどんよりと陰鬱な空気が漂っている。まるで自分の存在が周囲に迷惑をかけてでもいるような。


まあ仕方がない。幼馴染みといっても、僕と彼らとの間に壁があるのは、紛れもない事実なんだから。


そして彼らの話は報酬の配分へと移ったようだ。


「じゃ、今回もみんなで山分けってことでいいかな?」

「おう! 俺はそれで文句ねえよ」

「あたしも! ちょうど新しいアクセ買おうと思ってたら助かるなぁ」

「…………」


最後に彩愛が小さく首肯したのを確認した直也は、名の知れた高級ブランドの長財布から1万円札の束をふたつ取り出し、それを四等分にすると、幼馴染みたちに配っていく。……ちなみに見ての通り、5人パーティだ。

しかもそれ、僕が偶然拾ったやつなのにな……。


いつものこととはいえ、まるで最初から僕など居ないかのように振舞う彼らの姿に、僕はこれ以上ないくらい惨めな気分になる。


(……僕は、いったい何のためにここにいるんだろう)


車窓を眺めながらいっそう気を遠くしていると、列車は終着地である東京駅に着いた。


「お、やっと着いたな。おい奏太(かなた)、俺らの荷物忘れんなよ?」

「あ、ああ……うん」


この列車に乗り込んで約1時間と30分。剛司の口によって初めて自分の名前が呼ばれた。……荷物持ちとして。

こういう理由がないと彼らと会話なんて成立しないのが、僕のいまの立ち位置だった。


僕は直也、剛司、芹香の順に荷物を降ろし、そして最後に彩愛のバッグを肩に掛けようと網棚に手を伸ばすと、


「私のはいいから」


そういって彩愛は自分でバッグを降ろし、さっさと乗降口へ向かった。


「あっ……」


彩愛とすれ違った瞬間、お尻に違和感がしてポケットの中を確かめると、半分に折りたたまれた1万円札の束が出てきた。

たぶんだけど25万円くらい。


昔から無表情で口数の少ない彩愛とは特別に仲がよかったというわけではないけれど、こういう気遣いのできる優しい子であることは、よく知っている。


僕はありがたく彼女の厚意を自分の財布へと移し、急いで降車した。


そして4人の少し後ろに続いてコンコースを抜け、赤レンガのドーム屋根が印象的な丸の内口に出ると、正面には東京駅よりもさらに巨大な施設が僕たちを待ち構えていた。


東京大江戸ダンジョン――通称『エドダン』。


いまから約半世紀前、世界的な大地震と共に誕生したエドダンは、日本全国に13箇所あるダンジョンの中で最大級であり、現在まで34階層までは踏破が確認がされている。


当然僕がまだ生まれる前のことで写真や映像でしか見たことがないけれど、この地には当時日本の象徴である天皇陛下がお住まいになられたという皇居があったらしい。

いまはダンジョンの入り口として全体を巨大な建物に覆われていて、その面影はほとんどない。


そのエドダンを囲む正方形の建物の上層階には上級冒険者・各国要人のための高級ホテル、武器や防具などの装備品、各種ポーションを取り扱うショップ群が軒を連ね、さらには温浴施設や有名な飲食店もテナントとして入っているため、近年ではダンジョンよりも建物の充実さが話題となり、冒険者人口の増加も相まって年々その規模を拡大し続けている。


駅から歩いて数分、僕たち冒険者はまず、地上階の受付で冒険者カードを提示して、希望するスタート階層を伝えることから始まる。


冒険者はランクごとに受付窓口が異なり、GからEまでは基本的に長蛇の列に並ぶ必要があるため、出発までとにかく時間が掛かり不便を強いられる。けれどDランク以降はその階級に応じた専用窓口となり、ほぼ並ばずに受付を済ませることができるので快適だ。

だから、多くの冒険者はひとまずDランク昇格を目指して日々ダンジョン攻略やレベルアップに励むのである。


ちなみに僕個人のランクはEだけど、他の4人はみんなAランクで、パーティ全体としてもCランクに格付けされているので、僕も優先窓口に並ぶことが許されている。


「…………」

「……ちっ」


そしてGからEランクの受付前……長蛇の列に並ぶ強面の方々から、なんであんなヨワソーなヤツが優先窓口に並ぶんだという怨嗟の籠もった視線や舌打ちが僕個人へと向けられた。


毎度のこととはいえ、胃がキリキリと痛む。

ええ、そうですとも。自分でも分不相応だと思ってますって……。


悪意の視線に晒されて、僕だけダンゴムシのように畏縮していると、あっという間に受付の順番が来た。


「お待たせして申し訳ありません。規則により、まずはみなさまの冒険者カードをお預かりさせていただきます」

「はい」

「おうよ」

「はーい!」

「…………」

「……はい」


僕は4人に続いて冒険者カードを受付嬢に手渡した。


「5人パーティですね。それではお一人さまずつ確認させていただきます」


受付のお姉さんが最初に剛司の冒険者カードを専用のリーダーにタッチすると、カウンター横のモニターにステータスが表示された。


――――――――――――――――――――――――――――

大熊剛司(おおくまつよし) 16歳 男 レベル:43 冒険者ランク:『A』

天職:拳闘士

攻撃力:1021

防御力:983

魔法攻撃力:225

魔法防御力:823

俊敏力:498

魔力:124

称号:なし

――――――――――――――――――――――――――――


「「「おおー!」」」


剛司のステータスが表示されると、周囲がにわかに騒がしくなる。

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