表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

最終話―デビュー曲

「あやめ あやめ あやめ あやめ あやめ あやめ

あやめ あやめ あやめ あやめ あやめ あやめ

あやめ あやめ あやめ あやめ あやめ あやめ」


シュプレヒコールが流れる。


ここは世界武道館 3万人入る コンサート会場だ 会場は満席。立ち見席も出ている

今日のあやめの デビュー曲「はつらつらんまん Love everybody」の 発売記念イベント兼コンサート。

会場は 熱気に盛り上がっている 観客同士の 会話ももちろんながら あやめが来ることを察知したのか 1階席 2階席 のお客さんの 拍手が始まる と同時にあやめが ステージに入ってきて 場内での盛り上がりは ピークを迎えた 怒号とも怒涛の叫び とも聞こえる 激しい ざわめきが 場内を支配した

彼女は 舞台に立つと集まってくれたお客さんに向かって マイクパフォーマンスをする。


「あやめ」

「あやめちゃん」

「あやめ」

「あややん」

「あやポン」

「あやっぺ」


いろんな愛称やニックネームや声援が飛び交うけれど 最後はやっぱり、


「あやめ」

「あやめちゃん」

「あやめ」


声と一緒に、あやめの立っているステージに向かっていろんなリボンが観客から飛ぶ 赤、黄色、ピンク、オレンジ、青、白、肌色 様々な色のリボンが あやめに向かって放たれ それはまるで 七色の虹のようになった

マネージャー アシスタントたちがリボンを回収しながらあやめの周りの スペースを作る。


「皆さんこんにちは 今日は私のために こうやって会場に足を運んでくれて今日もありがとう 私ははじめ 引きこもりでニートだったの」


「えー」

「おー」

「あぅー」



といった観客からの 驚きや 悲鳴が聞こえる。「そんなー」、といった声 すらある

それらの声を かききるように あやめは喋りだす。


「そうなの そんな私だったけど こうやってみんなのおかげで みんなの応援もあって 今1人のアイドルとして 舞台に立つことができた ダンジョン配信っていう ちょっと不思議なことから始まった 私だけど 今の私があるのは今ここにいる、ここで応援してくれるみんなのおかげ 本当にありがとう。私のことを応援してくれて本当にありがとう そんなありがとうの感謝の気持ちを込めて 今日は 歌いたいと思います 聞いてください

今日はみんなのために 精いっぱい 歌うね レッツゴー ダンシング&シンキング」


「あやめ」

「あやめちゃん」

「あやめ」

「あややん」

「あやポン」

「あやっぺ」

「がんばって」

「大好き」

「愛してる」

「すきすき」



そんな声援の中、盛大な ドラムロールが流れた ギターのパンチのある音色が響く そこにベースが淡々と リズムを取ってくる キーボードが、この曲調に 滑らかな アクセントを加える。8カウントの伴奏が 3回繰り返されて 終わったところで、あやめの歌が始まった。


歌とともに あやめはダンスも踊りだす。



♪ダンジョン ダンジョン 初めて会ったあの日から私の人生変わったの

ダンジョン ダンジョン イッツ ア ダンジョン

ダンジョンなんて最初はよくわからなかったけど 気づいたらそこで生活してた

でも今は違う 抜け出したの オープン ユア アイズ アナザー ワールド 大好きみんなと会えて

これから始まる私のマイストーリー


だってはつらつらんまん Love everybody

それもはつらつらんまん Love everybody

これがはつらつらんまん Love everybody


そうなの これこそ私の ネバーエンディングストーリー♪


作詞 あやめ 作曲 一文字いちもんじ 雷生らいせい

 



一番のフレーズが終わり 間奏が始まった あやめは激しいダンスで観客を魅了する ダンスが上手いのも彼女のこれまでの努力の賜物だ 彼女は決して運動神経がいいほうではない 毎日の練習が、ダンスのうまい今の彼女を引き出しているのだ。



舞台袖で見ている雷生は考えに浸る。


ステージの上で今にも ジャンプしそうなぐらい 元気はつらつな彼女の立ち居振る舞いを見ていると こちらまで元気になる。 片手にマイクを持ち 観客に向かってまっすぐなまなざして自分の存在をアピールする彼女。片手を広げ 踊りながら 一方の足を折り曲げ、背中に羽が生えた天使のように見える。その姿は 今にも飛び出し 今にも飛び立ちそうな天使。飛び立ったら もう手の届かない存在になってしまうんじゃないだろうか そんなことすら思わせてしまう。 カチューシャと 彼女の今着ている衣装の 白を基調としたワンピース。そのワンピースの スカートのひらひらの部分と ワンピースの胸の辺りにリボン。それらの色は それぞれ 青だからいいワンポイント。

飛び立て天使。アイドルの頂点に向かって。もう君は大丈夫。誰しもが知るスーパー国民的アイドルになったのだから。


あやめがコンサート会場で歌っている姿を舞台 横で眺めながら雷生は思う。


「もう彼女は大丈夫だ」


プロデューサーとしての俺の役目もこれで終わり。 彼女はこれから一人で羽ばたいていけるだろう。誰の手も借りずに彼女自身の力で。


彼女はもう鬱じゃない 引きこもりでもニートでもない もう二度とあんなダンジョンの部屋で生活するなんていうことは言い出さないだろう 俺の彼女をアイドルにするというプロデューサーの仕事もこれで一つの形をなした。



今 こうやって舞台上で明るく楽しく元気に歌う彼女を見ていたら、なんだか俺、顔がほんのりしてくる。それはきっと会場にいるお客さんたちも一緒の気持ちなんだろう。 ダンジョンという ある種 密閉されたあの場所から俺は あやめという最高のひまわりを地上に出した。 種子から光合成して養分を一身に受け、高くて天まで届きそうなくらいまっすぐ伸びた。健やかに神々しく、その大きな大輪 美しい。ひまわりとして今 開花した。



―初めて会ったあの日 彼女との たくさんの思い出 20✕✕年 夏 俺のビター スイート メモリー このときめきを忘れない―


(fin.)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ