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第一話③

 納得のいかない情報があったので一度言葉を止める。ユーゴ自身はきょとんとしているけれど、自分の言っていることに疑問はないのだろうか。



「どこか変なところあった?」

「いや、大アリよ。何なの、兄妹って。私たち、ただの友達だったでしょう。」

「…ああ、そういえばそうだった。あまりに長い時間経ってたから、疑問にすら思わなかったや。」


 これは、年月を恨むのが正しいのかしら。それともユーゴが天然ボケを繰り広げているだけなのかしら。


「いや、あの事故で村が失くなってしまったでしょう。君の身体をなんとか回収したはいいんだけれど、そのまま引き取るには色々手続きが大変でね。」

「…そうでしょうね。」

「まあ、うまく目を盗んで手続きを割愛するって方法も考えたのだけれど、【賢者の末裔】の名前フル活用して、国の中枢の情報書き換える方が楽だったんだよね。」

「絶対嘘。」

「本当だって。兄さんがそう言ってたもん。」

「嘘よ絶対それ。面倒だからでできることじゃあないわよ!」


 年月を恨むより前に、ユーゴの天然ボケをなんとかする必要がありそうだ。兄様売り込み計画の中に、弟の育成も入れておきましょう。あまりにも弟が抜けていては、マイナス要素になりかねない。可愛げがあるくらいまでもっていかなければ。


「とにかく。君が眠っている間に、兄さんが手続きをワーってして、なんだかよくわからないまま君は僕らの家族になったわけ。」

「そのワーの部分がとても重要なの、お分かり?」

「仕方ないでしょ、僕だって子供だったんだもん。頼れるのは兄さんだけだったし、そもそもそれどころじゃなかったし…。」


 確かに、あの事件のせいで家がなくなってしまったのは私だけじゃない。彼らだって突然外の世界に放り込まれてしまったことに変わりはないのだ。言い方がキツくなってしまったことを少し反省する。だからといって納得できるわけじゃあないけれど。


「賢者の末裔ってだけで悪目立ちするから、あの地味で小さい村にお世話になってたっていうのにさ。」

「地味で小さくて悪かったわね。」


 少なくとも村の人が食べていけるだけの食料はあったわよ!観光資源だとか特産品だとか目立つものはなかったけれど!


「貶してるわけじゃないよ。僕だって、あの村のことは好きだったし。だからこそ、こうして魔法の研鑽を積んで、勇者の末裔御一行についていくところまで漕ぎつけたんだから。」

「そうだ、その話、」


 聞かせて、というより前に、彼はひどく得意げに微笑んだ。なるほど、聞いてほしいのね。


「君が眠りについてからすぐ、僕と兄さんは一旦王都まで出てみたんだ。」

「おうと。」

「そう!なんせ君、兄さんが連れてきた時点で、全身やけどと擦り傷だらけ、おまけに意識も戻らないんだもの。僕と兄さんの蘇生魔法でなんとか心臓は動かし続けられたけれど、そこまでだったんだ。どうにかして意識を戻そうと思って、人が多い王都にお医者様を探しにきたんだよ。」


 ずいぶんとまあ、高待遇なことで。彼らとは仲良くしていたつもりではあったけれど、そこまでしてもらう理由がなくて困ってしまう。差し出せるものなんて何もないし、そもそも、自分は彼らにとってただの幼馴染のはずだった。だというのに、わざわざ遠方で、かつ人の多い王都まで戻ってわたしの蘇生を試みるなんて。徐々に視線が床へと落ちる。古い木の板でできた床。この世界では、中流家庭のお家だ。ゲーム内の彼らより、少しばかり質素な生活をしているらしい。腐っても偉人の末裔であった彼らは、本編ではとても大きなお屋敷に、二人きりで暮らしていた。

 だというのに。現在、ひどく質素な一般家屋に居を構えている。すでに、私のために国王陛下に見つかるまでの歴史がズレてしまっているのだ。その重大さに背筋が凍りつく。もしかして、自分が生き残ってしまっているのは、とんでもなく大きな間違いなのではないだろうか。それこそ、物語が破綻してしまうくらい。自分一人生き残った程度、と軽く考えていたことは否めない。けれど、王都へ行く時期、理由、そして何よりこの家が、自分を強く責め立てた。かたかた、と指先が震える。カップの中の紅茶がゆらゆらと揺れた。


「それだけ、あの村での生活が兄さんや僕にとって楽しかったってことだよ。」

「…なら、よかったわ。」

「だからそんな顔しないで。僕がいじめているみたいじゃない。」


 どんな顔だ、と顔をあげれば言葉と裏腹に心配そうな彼の顔があった。ゲームをしていた頃、彼の顔のグラフィックをそこまでしっかりと見たことがなかったから、気が付かなかった。彼は本当に、リュカ兄様に似ている。


「ユーゴは、本当に、リュカ兄様の弟なのね。」

「そりゃあそうでしょ。今更違うって言われても困っちゃうよ。」


 やれやれ、と肩をすくめる。その一連の動きも、画面の向こうの彼そのものだった。


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