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序章④

 目が覚めて一番に飛び込んできたのは、私の大好きなエメラルドだった。見たことないくらい大きく開かれた宝石みたいな瞳が、周囲の赤を反射して、キラキラキラキラと輝いている。


「あんじゅ、あんじゅ、おまえ、おきて、」

「…」


  なんだか、周囲がやけに熱い。寝起きだからだろうか、頭もうまく働かない。どうしてだかは分からないけれど、にいさまに触れなくてはならないような気がして、先ほどと同様に頬に触れる。さっきよりもずっとずっと熱い。ああ、よかった、冷えて風邪は引かなかったのか。安堵して微笑めば、ぽたりと空から雫が落ちた。


「まってろ、にいさまに任せとけ。すぐ助けてやるからな。」

「にい、さま、」

「大丈夫、大丈夫だから。俺でダメならユーゴもいる。あいつの魔法はすげえんだ。賢者の血なんてもん、あいつが全部持ってっちまったんじゃねえかってくらい。だから、だから、あんしんしろ。いたいよな、あついよな、でも、でもさ、おれが、」


 空に、星が瞬いていた。夥しい量の星が降る。瞬間、理解した。してしまった。ああ、これが。せっかく、知ることができたのに。にいさまの未来を、予測することができたのに。なのに、そうか、きょうが。


「せい、べつ、」

「…アンジュ、しって、」

「かみさまって、いじわるね。」


 頬をふにふにと揉みながら、わたしは精一杯微笑んだ。彼の傷になんて、なりたくなかったから。未来の彼を間近で見れないのは少し残念だけれど、それはそれだ。今は何より、彼に幸せになってもらいたかった。


「にいさま、」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだ。神様だって見てくれてる。お前は助かる。何に力を借りたって、助けるから。」

「にいさま、あのね。」

「お前が望むなら、何にだって祈ってやる。だから、」

「にいさま。」


 ふにぃ、と弱々しい力で彼の頬を摘んだ。歪んだエメラルドから、ひっきりなしに涙がこぼれ落ちる。場違いにもその美しさに見惚れてしまいそうになった。今はそれどころではないのだけれど。


「あのね、にいさま。」

「…あん、じゅ、」

「にいさま、いきて。しんじゃ、だめだよ。」

「…なに、いってんだ、おまえ、」

「わたしね、にいさまが、しあわせに、いきてくれたら、うれしいの。」

「…いや、だ、いやだ、いやだ、お前も一緒に生きるんだ、この村は無くなっちまうかもしれないけど、でも、でもさ、外にだっていくらでも。」

「にいさま、わたしね。」


 力が入らない。そこでふと、自分が焼けこげた毛布を丁寧に掛けていることに気がついた。ほらね、わたし、蹴飛ばさなくなったのよ。


「生まれ変わっても、あなたのことがだいすきよ。」


 実際、人生超えて大事に想っちゃっているのだから、間違っていないでしょう。


 最期の言葉は届いたのか不明瞭だった。ちょっと残念だなあ。そんなことを考えた自分の鼓膜を揺らしたのは、彼の絞るような声である。


「みとめない、おまえが、しんじまうなんて、みとめない。」

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