第二話③
結論から言うと、このアンジュ・ミレーヤという人物は、戦闘の才に恵まれていたらしい。
「聞いてない…三日たたずに子供向け教室追い出されるなんて…。」
「いいじゃない。さくっと武闘大会初級に入り込めたんだから。」
本当に、怒涛の三日間であった。
そもそも私は、剣も握ったことのない、病み上がりの少女である。当然だけれど大剣なんて握れないし、弓矢だって撃ち方がわからない。子供に混ざって色々な武具を見るだけで1日目は終わった。動きがあったのは二日目だ。何の気無しに握ったナイフが、びっくりするほど腕に馴染んだ。それからは言わずもがなというやつだ。気が付けば子供たちを打ちまかすことができた。その日のうちに教官役の大人からの太鼓判をもらい、よくいえば卒業、正確に言えば出禁を食らったのである。
かつて、村が消え去ってしまったあの日、唐突に木に登ることができたのは、火事場の馬鹿力というものもあったろうが、もとより持っていた俊敏性の問題だったらしい。また、眠ってばかりいたせいか身体が小さいのもアドバンテージだったのだろう。ちょこまかと動き回って誰かの背後に回ることは得意だった。…もしかしなくても、兄様とのかくれんぼに負けたのが悔しくて練習をしていた幼少期の経験も活きているのかもしれない。
初級参加者用に支給されたナイフを眺めながらユーゴに声をかける。三日間で見慣れた温泉宿の一室で、彼は小さくなっていた。どうやら本心から私が強くなることを望んでいなかったらしい。見てわかるくらいに萎れている。ころんころんと丸くなりながら、小さな声が静寂に落ちた。
「入り込めたって言うけどさあ…これからどうするの。武闘大会出るの。」
「出るわよ。出れちゃうんだもん。」
「大怪我しても知らないんだからね。」
「そう言いながら治してくれるんでしょ。」
「…そりゃ、僕は、君の経過観察を任されているからね…。」
しかし、順調すぎて怖いぐらいだ。ステータスの見方はわからないけれど、それなりに戦闘のチュートリアルはできている。子供教室からのし上がったからバグを利用するまでもなく武闘大会にも参加ができる。あとは兄様に出会えさえすればこちらのものだ。…それが難しいのだけれど。
「正直に答えて欲しいのだけれど。」
「うん。」
「王都からここまで、もし兄様が歩いていたとしたらもう到着しているのかしら。」
ユーゴは少し考える動作をした後に、指折り数えて答える。
「たぶん、途中途中の村とかで時間を潰してると思うんだよね。」
「途中に村なんてあるの。」
「あるよ。龍車だとわからないけどね。…まあ、勇者の末裔たちがどこまで来ているかわからないから、兄さんも龍車に乗るわけにはいかないし。歩いて、歩いて、ねえ…。」
沈黙。
「僕らが龍車で追い越してしまっていることも踏まえると、そろそろ着く頃なんじゃない。」
「王都出発から大体十日前後よ?ついてたりはしないの。」
「疑り深いなあ。兄さんが村に入ってすぐ出てを繰り返すわけないでしょ…って言っても、アンジュは今の兄さんのことしらないからなあ。」
宿の畳も、この三日で慣れてしまったのだろう。特に何かに引っかかることもなく彼が引き戸に手をかけた。
「そんなに不安なら、今日は一日探索としようか。」
「観光じゃなくて?」
「観光ってテイで。観光しながら兄さんを見つけられたらラッキー、見つけられなかったとしても、普段見慣れない街の様子が見られてラッキー。どっちに転んだって楽しいんだからさ。」




