第二話②
さて。まずするべきは何か。もちろん兄様を探すことも必要である。だがこの場で闇雲に探しても相当な時間がかかるだろう。
「だからといってどうするの。僕ら、この街で知り合いなんていないじゃない。」
宿の床に寝転がりながら、ユーゴが尋ねる。私たちは彼の持参したお金でそれなりの良い宿に転がり込むことができた。どうやら彼としても目をつけていた宿があったらしい。迷わず一直線、療養に良いと評判の温泉へと向かい、スマートに空き部屋を確保してくれた。随分と社交的な少年になったこと。私と一緒に深窓のなんとやらであった時代では考えられない進歩である。先ほどまでのんびりと湯に浸かり、挙句マッサージまで受けていた彼の体はだらけきっていた。
「策はあるわ。」
「策って?」
「私たちが兄様を見つけるのは多分無理。だから、兄様に見つけてもらうのよ。」
「?」
「この街の、武闘大会に出るわ。」
「…は?」
まず、ここでこの街で起こるイベントについて説明しようと思う。
この街にたどり着いた勇者と魔法使いは、一度は街の宿屋で休息をとる。その翌日、街の中心部で女性に囲まれている軽薄な男性に出会うのだ。観光地に目を奪われていた魔法使いが、彼の取り巻きにぶつかってしまうところからこのイベントは始まる。
【ああ、こんなところにも。麗しいレディ、お名前を伺っても?】
【失礼な人ね。名乗るなら自分から名乗ったらどうなの。】
【これは失礼。俺はリュカ。リュカ・ミレーユだ。お見知り置きを。】
こうして出会った三人は、お互いの素性を把握しあったのちに「勇者とリュカどちらが魔法使いの相手に相応しいか」について武闘大会で決着をつけることになる。ちなみにこれはイベント戦闘なので、実際に武闘大会にプレイヤーが参加することはできない。正直とても歯がゆい。武闘大会のルール説明、そしてHP運営などをなんとなく把握するためだけのイベントだ。チュートリアル後に闘技場へ赴いたとしても、「すでにエントリーは終わっている」と受付嬢にぴしゃりと門前払いを食らう。そのあとしばらくすると、またリュカ兄様のイベントで闘技場にお世話になるのだけれど、それはまた別のお話。とにかく、現状の勇者たちではイベント外で武闘大会に出場することはできないのだ。
まあ、それは普通にプレイした場合にのみの話。
とある方法を利用すれば…要するにバグらせれば…この時点からも参加ができると、有志のプレイヤーが発見した。それからはまあ、やり込み勢と呼ばれるプレイヤーのお祭り騒ぎだ。なんせ、この闘技場の経験値は、馬鹿にできないほど美味しい。たった5回の戦闘で、おそらくエンカウント10回分程度の経験値を得ることができる。さらには他のゲームと違って武闘大会への参加費は無料である。無料で、しかもレベル別に、ありえないくらいの経験値を得ることができる。ここは序盤のレベリングポイント(ただしバグ)なのだ。
「武闘大会って、アンジュ、別に武闘の心得とかないよね?」
「ないわよ。」
「…もしかして、アンジュって、馬鹿?」
「なんとでもおっしゃい。確かここの武闘大会は、子供向けの武闘教室があったはずよ。」
これは、この世界のアンジュの記憶だ。昔、国についての本で読んだことがある。温泉街の武闘教室。ここ出身の冒険者も少なくなかったはずだ。
「そりゃあそうだけど、アンジュ、絶対浮くよ。賭けてもいい。」
「わかってるわよ。…でも、先のことを考えるとここで実力をつけておくに越したことはないわ。」
「…このさき、ねえ。」
とりあえず、街中でユーゴに買ってもらったポーチにユーゴ作のポーションと応急処置セットを放り込んだ。悲しきかな、現在の私はヒモである。
「武闘大会で買った分の金額で、細々と返させていただくわね。」
「気にしなくていいよ、可愛い妹だもの。」
「…同い年でしょ。弟よ。」
「誕生日は僕の方が早い。」
軽口を叩きながら扉に手をかけると、後ろからユーゴがついてくる。
「なに。」
「一人で行かせるわけないでしょう。僕も行く。」
「いいわよ、休んでて。」
「監督責任問われたらたまったもんじゃない。…そもそも、病み上がりを一人で彷徨かせるわけないでしょ。僕一応治癒術師だよ?」
ぐうの音も出ない。そもそも、こんなぶっ飛んでしまっている案を否定せずに聞いてくれただけ、彼の度量の広さに感謝をするべきなのだ。
「…止めたりしない?」
「それで止まるなら止めてる。」
「そうよね。」
二人で笑って、宿から外へ出た。どろりとした、温泉街特有の匂いがする。
「安心してボコボコにされておいでよ。いくらでも治してあげる。」
「…善処します…。」




