図書室
「奈緒ちゃん、そっちどう?」
静かな図書室で、茅がこそっと耳打ちをする。
例の授業のレポートのため、資料集めをしているのだ。
授業の後予定がないならと、一緒に図書室で資料探しをすることにしたのだ。
思ったより近い距離に驚きつつ、嫌ではなかったことにも少し驚いた。
「おれの方、これとかどうかなと思ったんだけど」
「うん、よさそうだね。わたしの方はこんな感じ」
お互い資料を交換して読み込む。
「これでまとめたら何とかなりそうだね」
「うん」
「奈緒ちゃんありがとう」
「こちらこそ」
◇◆◇
「家どの辺?暗くなったし送ってくよ」
校門を出たところでされた茅の申し出に、奈緒は固まる。
「え、や、雅美にも連絡してあるし」
「そうは言っても女の子でしょ。家教えたくないなら、近くまで一緒に行かせてくれない?帰れたか心配になるから」
そんな言い方をされてしまっては、頷くしかない。
「奈緒ちゃんは兄弟いるの?」
「兄弟?」
「あ、一人っ子っぽいかな」
「なんでわかったの?…そんなにワガママっぽいかな…?」
「ワガママっていう感じはしないけど、大切に育てられたんだろうなーって感じはする」
それも当たりだった。奈緒は両親と父方の祖父母と一緒に暮らしていて、礼儀こそ厳しかったが、とても可愛がられたという自覚はある。
「一人娘なのに、よく一人暮らし許してもらえたね」
「雅美と近くに住むならいいって言われたんだ」
「雅美の信頼すげー。しっかり者だとは思ってたけど」
「すごいよね。八島くんは?」
「うちは兄がいるよ。今何してるか知らないけど」
「そういうもの?」
「男兄弟なんてそんなもんでしょ」
「そうなんだ」
身近な兄弟といえば、雅美の兄弟だ。3人兄弟だが、とても仲良しなので不思議なものだ。
「じゃあ、もうそこだから、ここで大丈夫」
「そっか。じゃあレポートまたわからないことあったら聞くね」
「うん、わたしも」
こうやって、水曜日の科学史の授業の後は穏やかに進んでいく。