帰路
「おれ歩くの早い?」
「う、ううん、大丈夫…」
何故、隣を茅が歩いているのか。
授業開始のベルを待っている奈緒にここ座っていいかと聞いてきた茅と共に授業を受け、そのまま一緒に帰ることになった。
恐怖感が薄いとはいえ、苦手じゃないわけではない。
だからといって隣を歩くのは何だか気が引けて少し後ろを歩いていると茅にそう声をかけられてしまい、慌てて首を振って隣に並んだ。
「だいぶ寒くなってきたねー」
「そうだねえ。上着着るか毎日悩むね」
「朝寒いのに昼間暑いから困る」
と、思っていたが、話してみるとあまり気にせずに話せた。
「へぇ、奈緒ちゃん管弦楽サークルなんだ」
「う、うん」
「何やってるの?」
「ビオラだよ」
「ビオラってあの…バイオリンみたいなやつ?」
「うん、そう。一回り大きいバイオリン、だと思ってもらえれば」
ビオラは大きさだけではなく音程もバイオリンと違、低い。ソロがあることはあまりないが周りの音を裏で支えるようなような深みのある音で、それがないと物足りなさを感じてしまう。それがビオラ。
「弾くの難しくない?おれ高校のとき音楽でバイオリンやらされたけど、まともな音出せなかったよ」
「最初は難しいかも。わたし小さい頃バイオリン習ってたから」
「あー似合いそう」
奈緒は小学生の頃バイオリンを習い始め、高校でビオラに転向した。高校の管弦楽部ではバイオリンの人数が多くて体や手が小さくても弾けるチェロも希望者も多かったため、体格的にはやや無理はあったがビオラにしたのだ。大変ではあるが、耳に心地よい落ち着く音がとても気に入っている。
「大学祭とかでも発表する?」
「うん、あと、定期演奏会やったりもするよ」
「そうなんだ。今度やるとき呼んでよ」
「う、うん」
「やった!絶対行く。」
グッと小さくガッツポーズをする茅。
「ふふふ、大袈裟だよ」
家に帰る途中、分かれ道まで、和やかにそんな会話をした。
思ったより、楽しいかもしれない。