意地悪
「奈緒ちゃんは意地悪だ」
はぁ、と、立ち上がって、元座っていたベンチに座り直した。
手は、しっかりと握ったまま。
「おれが、奈緒ちゃんのことどうやっても嫌いになれないって、わかっててそんなこと言うんでしょ」
拗ねたように唇を尖らせる茅。
「凹んだんだからね、あれ」
あれ、というのは、初詣の日の茅の手を解いてしまったときのことだろう。
「だって」
「だって、なに」
奈緒は、茅の隣には座らずに、茅の前に立った。
「わたしも、茅くんに触れたいなって思ってたから」
「…え?」
驚いて、奈緒を見上げる茅。
奈緒が茅を少しだけ見下ろしている。新鮮な感覚だ。
「紺野さんは、簡単に触ってるから、いいなって思って見てたんだよ」
「なっ、」
顔を真っ赤にして、口をパクパクと動かすが、言葉にはならないようで。
「だから、びっくりしたの。」
「そんなの…」
「ほんとは、嬉しかった」
一度、想いを口にしたら、スルスルと言葉が出てきた。
茅はグッと言葉に詰まっている。
「呆れた?もうわたしのことはどうでもよくなった?」
「ま、まさか!」
奈緒の問いには勢いよく否定してくれるくせに。
「一生片想いする覚悟したとこだったから…ここから落とされると…ちょっと…立ち直れないかな…」
目線を落として、逃げ腰だ。
ーーーもうっ。
奈緒は両手で茅の頬に触れて、顔を上げさせる。
「いっぱい傷つけてごめんね」
「…そんなこと、は…」
「ずっと想ってくれててありがとう」
「…ん。」
ゆっくり視線を上げた茅と目が合う。
目がの奥に不安の色を見せる。
いつも穏やかに笑っていた茅が、今日はずっと困り顔だ。
「いつの間にか茅くんのこと好きになってたの」
頬に当てていた手に、茅の手が重なる。
「わたしと付き合ってくださ…きゃっ」
グッと腕を引かれて奈緒はつんのめり、茅に抱き止められる。
「奈緒ちゃんが大好き」
背中に回された腕は見た目より力強い。
大切に、壊れないように優しく、でも離さないと言わんばかりに。
「後から嘘だって言っても聞かないから」
奈緒も、抱きしめ返しながら、頷いた。