手
24話少し加筆しています。
「え、だって…そんなわけ…」
奈緒の目を隠していた茅の手を取って、両手で握る。
奈緒より大きくて、ゴツゴツしている温かい手。
「な、なお、ちゃん…」
初詣のときも、きっとほんとはこんなふうに、触れたかった。
弱りきった声でされるがままの茅を見て、奈緒は満足感に浸る。
「心配しなくても、ちゃんと友達でいるから…」
困った顔の茅。
「…上げといて落とすの、やめてよ…」
奈緒に手を握られたまま、目を伏せる茅。
長いまつ毛が、目にかかる。
気づかないうちに、そんなに傷つけていたということだろう。
一目惚れしたという、大学に入った頃からずっと、奈緒のことで舞い上がったり、落ち込んだり。
「落とさないよ。好き。」
だから、はっきり伝えた。
目を見て、手をきゅっと握って。
茅は困り顔で目を泳がせて、口を開いた。
「…アイツ、は?」
「アイツって?」
「“はやとくん”」
「隼人くん?」
「うん。」
手を握られて、目を逸らしたまま、悔しそうな顔の茅。
奈緒はきょとんとして首を傾げる。
「そりゃ…仲はいいけど、隼人くんはわたしにとっても弟みたいなもので…」
「ふぅん」
そんなに、親しく見えただろうか。
いくつになっても、奈緒の身長を優に超えても、奈緒にとって隼人は小さくて泣きそうになりながら奈緒の後ろをついてきた、幼稚園の隼人のままなのに。
「さっきも電話で、茅くんとのこと応援してくれたし…」
頑張れ、って、背中押してくれたのだ。
「………そう。」
考え込むような表情を見せる茅。
「…奈緒ちゃんはアイツが好きなのかと思った」
「えええ。なんで?」
「アイツには平気で手も握らせるし頭も撫でさせるじゃん」
両手で握っていた茅の手が、奈緒の手を握り返した。
「…おれだと、嫌がるのに…」
ちょっと拗ねたような表情。
こうやって、思ったことが表情に出るタイプなのか。
奈緒から近づかなければ、見られなかったかもしれない。
「ふふふ」
「なに笑ってるの」
「可愛い」
思ったことをそのまま口に出せば、茅は大袈裟なくらいため息を吐いた。