表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

義理

「んんん!?」


チョコが口の中にあって、奈緒は口を押さえた。

味わえもせずに、お茶でチョコを飲み込む。


「ちょ、大丈夫?」


駆け寄って背中を撫でてくれる茅に、奈緒はコクコクと頷いた。


「奈緒ちゃん。どうしたの、こんなところで」

「……茅くんこそ」

「おれはサークル終わりで。…誰か待ち?」


ストンと隣に座った。


「いや…」


待っているといえば待っているが、茅にあげるつもりだったチョコはラッピングも開けて、2つ食べてしまった。残り1つ。

あと3分早ければ!と思ったところで、覆水盆に返らずだ。


「えええっと。…チョコ、食べる?」


苦肉の策で口から出たのはそれだった。


「いいの!?」

「あっ」

「いただきます」


茅はヒョイと最後の1つをつまんで、チョコを口に放り込んだ。

ゆっくり噛んで飲み込むまで、ヒヤヒヤしながら茅の横顔を見つめた。


「美味しい」


にこりと、満面の笑みを向けてくれて、ほっと胸を撫で下ろした。


「これ、手作り?」

「う、うん」

「奈緒ちゃんが作ったの?」

「うん」

「ありがとう、めちゃくちゃ美味しい」


この、とろけるような優しい顔を見たのは、すごく久しぶりかもしれない。

その笑顔がを見るだけで、胸の辺りが温かくなる。


伝えたいなと、思った。

茅が、奈緒をどう思っていても。


「あの、これ…」


のに。


「あはは、義理だって言うんでしょ。ずっと友達でいて欲しいんでしょ。わかってるよー」


からっと笑って、茅は立ち上がって、奈緒を見下ろした。


「帰ろっか」


どうでも、いいんだろうか。


そんなふうに笑って、義理でしょって言えるくらい。


「…奈緒ちゃん?」


不思議そうに屈んで、奈緒の顔を覗き込む茅。


嫌だった。

もう、何となくよそよそしいのも、茅が誰かといるのを見てヤキモキするのも。


「茅くん」


茅のコートの袖を、きゅっと握った。


「え」


ビクリと震えて、でも、拒否はされなかった。


ゆっくり息を吸って。


「チョコ、ほんめい、だから」

「………へ?」


奈緒が絞り出すように言うと、間の抜けた声が落ちてきた。

顔を上げると、呆然と奈緒を見る瞳と目が合った。


「ぎ、ギリ、じゃなくて…あの」

「………は!?」


ぱっと奈緒が袖を掴んでいた方の手を引いて、顔を真っ赤にした茅は奈緒に背を向けてしゃがみ込んだ。


「…え?待って!は?…なんて?夢?」


顔を両手で覆って、ブツブツ言っている。耳まで赤い。


こんなこと、前にもあったなと、奈緒な茅の後ろ姿を見て思った。

前は、メイドさんのカッコだったっけ。


「ゆ、夢だったら困る」


奈緒は、茅の前に回ってしゃがむ。


見上げた茅は、真っ赤な顔を少し上げて、困ったような顔をした。


「茅くんが好きだよ」


奈緒がそう言うと、


「え?だって、待って…え?」


うるっと瞳が少し潤んだ。


「茅くん、あの…」

「み、みないで…カッコわる…」


茅は右手で奈緒の目を隠す。

それがおかしくて、奈緒は思わずふふふと笑ってしまった。


そういうところも、愛おしい。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ