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初詣

「奈緒ちゃん!」

「茅くん。あけましておめでとうございます。」

「あけましておめでと!今年もよろしくね」

「こちらこそ」


大きい神社の近くの駅は、人でごった返していた。


なんとなく、茅の顔がみられなかった。

告白されているし、奈緒が返事をしていない状態であることを忘れている訳ではないつもりだったけれど。


「あけおめー」

「おめー!」


挨拶もそこそこに、ワイワイ話し始める面々。


「…で、なんで雅美弟がいるの」

「はじめましてー。弟の隼人です!カウントダウンライブ行って雅美に泊めてもらいました。ねー、奈緒?」

「う?うん。」


奈緒の肩に手を置いて、隼人はウインクをした。


「いつもは一緒にカウントダウンするんだけどね」

「…隼人くん…?」


ニコニコする隼人。茅の視線が痛い。


「隼人くんって、この前サークルに雅美お迎えにきてたよね?」

「そうです!雅美がお世話になってます」

「しっかりしてる!!」

「隼人くん、入学したらうちのサークル入んなよ」

「えー入りますー」


隼人を中心に盛り上がる4人の後ろを歩いていると、茅が隣に並んだ。


「隼人くん、春からうちの大学なんだって。」

「へぇ」


空気が冷たいのは気のせいではないはずだ。


「えええっと、茅くんは実家に帰るの?」

「いや、帰らないよ」


会話終了である。

あっという間に奈緒たちの順番が来たが、空気が重くて、逃げ出したくてたまらないまま手を合わせた。


「奈緒ー!リンゴ飴あるよ」


渡りに船なのか、そうでないのか、声をかけてきたのは隼人だ。満面の笑み。


「ちょ、隼人くん!」


ひょいっと手首を握って、手を引く隼人。


「奈緒、好きでしょ」

「…好きだけど…」

「食べようよー」


子どものようにむくれる隼人を見て、奈緒はクスクス笑った。


「みんないろいろ買ってるよ」


そう隼人に言われて振り返れば、屋台の焼きそばやら焼き鳥やらを物色する面々。

そして、楽しそうに話す茅と…隣にいる紺野。茅が何か言ったのか、おかしそうに紺野は茅の腕に触れた。


ズンと胸の奥の方が重たくなった。


「…そうだね。食べようかな、リンゴ飴」

「僕も」


リンゴ飴を2つ買って、1つを奈緒にくれた。


「で?奈緒はなんでそんな凹んでるの?」

「凹んでなんか…」


ない、とも言い切れなかった。

気分が沈んでいたから。


「あの人でしょ、奈緒のオトコトモダチってやつ」

「…うん。」

「僕が無理やり引き離したから怒ってる?」


リンゴ飴をシャクリと食べて、隼人が首を傾げた。


怒ってる?そうじゃない。

逃げ出したかったはず。


「奈緒はさ、こんなふうに手握っても意識してもくれないもんね」


隼人が、奈緒の手を取ってぎゅっと握る。

きょとんとして隼人を見上げれば、困ったように首を傾げる。


奈緒の手を包み込む手は大きい。

でも、他の男の人みたいに、怖くない。


「そりゃ…隼人くんは」

「弟だからって言うんだ。ハイハイどうせ。わかってるよー」


弟だからではなく、隼人は、奈緒のことを傷付けないと、信頼しているからで。


離れた隼人の手をなんとなく目で追いながら。


「奈緒は僕があんな風に女の子と仲良くしてても、そんな顔しないと思うんだよね」

「どんな顔よ」


あんな風に、と隼人が言うのは茅のことだろうか。

あまり、茅の方は見たくないなと思いながら隼人を見上げた。


「あ、でも」

「なに?」

「彼女が悪女っぽい人だったら心配かも」

「プッ!あはは!何悪女って!」


噴き出して肩を振るわせる隼人。


「わ、笑いすぎだよぅ…」

「悪女って、奈緒みたいな?」

「えええ」


隼人に奈緒なそんな風に見えているのか。心外である。


「じょーだん」

「わわわ、やめてよー」


奈緒の頭をわしゃわしゃかき混ぜて、隣で楽しそうに笑っている隼人は、いつの間にか大きくなった。

奈緒の後ろを泣きながらついてきた小さい隼人はいないのかと思うと少し寂しくなった。





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