薔薇
「茅とどうなの?」
「どう…って?」
年の瀬、お菓子やお惣菜を買い込んで、まったりと雅美の部屋で過ごしていると、雅美はそんなことを訊いた。
「クリスマスもいい感じだったしさ」
「…ただ帰る方向が一緒だから、送ってくれた、だけでしょ」
そう、それだけだ。
茅も2次会に行かない組として一緒に帰っただけだ。
「もらったプレゼント大事に飾って?」
「か、かわいいでしょ。ピンクのバラのせっけん。もったいなくて使えないよ」
茅からもらったバラのせっけんは、奈緒の部屋の勉強机に飾ってある。
薄いピンクで可愛いから、たまに眺めている。それだけで。
「一輪のバラなんて、気障よねぇ」
「んんん?」
「真っ赤なバラじゃないだけマシかぁ」
「え、な、どういう?」
「さあ、茅に聞いてみたらー?」
他人事だと思って。
雅美はニヤニヤ楽しそうだ。
雅美がまた何か言いかけたところで、遊びにきていた隼人が風呂場から出てきた。
「あああ、隼人くん、お風呂上がったの?」
「うん、お先にー」
スウェット姿で髪を拭く隼人は、奈緒の向かい側に座った。
いつの間にか大人っぽくなって、きっとモテるんだろうなぁとぼんやり思いながら見上げる。
「隼人くん、何時に家出るの?」
「もうそろそろ」
いつもは地元に帰って年を越すのだが、今年は隼人がカウントダウンライブに行って帰りに泊めてと言い出したため、年を越してから実家に帰ることになった。
春からは雅美とルームシェアになるそうで、その準備で荷物もいくらか持ってきている。
「夜中に帰ってくるなら、勝手に入ってきてね。多分寝てるから」
「ハイハイ」
「あと明日は奈緒と初詣行くから、起きたらいないと思うよ」
「えー初詣?僕も一緒に行きたいな」
「いいけど、アンタ起きられんの?」」
「初詣って昼間でしょ?帰ってきて一眠りすれば行けるって。起こしてね」
「アンタね。」
とても仲良しである。
奈緒は、この姉弟のテンポのいいやりとりがやはり楽しくて好きだ。
「姉貴に言ってないって。奈緒、僕のこと起こして?」
「はーい」
「奈緒は隼人に甘すぎ!」
まだ楽しい会話を続けている2人を見守る。
いつもの構図だ。
ふと、雅美が言ったことが気になって、調べてみた。
ピンクの一輪のバラの、意味を。
「ひゃ」
手からすり抜けたスマホはゴトリと音を立てて床に落ちた。
「ちょっと、何やってんの奈緒」
雅美がスマホを拾ってくれる。
「なーおーー?だめだこりゃ」
が、何も反応できなかった。
1本の薔薇 あなたしかいない。