感情
さっき奈緒の隣に座っていた女の子のプレゼントが当たった。
カラフルな顔くらい大きい渦巻きのキャンディ。可愛い。
カラオケを出て、雅美が2次会組とワイワイと盛り上がるのを遠目で見ながら、奈緒はのんびり帰ろうかなと思っていた。
「…あの」
「ええっと…?」
「茅さんと同じサークルの後輩です」
声をかけてきたのは、話したことのない女の子。
「どういうつもり、なんですか」
「どう…って…?」
奈緒を神妙に見下ろす、猫のような双眸。
きっと、この子は。
「だって、茅さん…」
「ねぇねぇ年始初詣一緒行かないー?」
割って入ってきたのはのんきな茅の声だった。
目の前の女の子は笑顔を作って茅の方を振り返った。
「紺野も。雅美とか何人かで行こうって話してて」
「行きます!」
「オッケー、紺野参加ね。あ、2次会組あっちだって」
「…はい。茅さんも行きますよね?」
紺野と呼ばれたその子は、茅の腕に手を絡めた。
笑顔を返す茅。
ーーーやだ。
奈緒は口から出そうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
「どうしよっかなー」
「茅さんのミニスカサンタ楽しみしてたのにぃ」
「着ないよ」
「去年はミニスカサンタで踊ったんですよね?」
「誰から聞いたのそれ」
その頭上でポンポン交わされるやり取りは、とても親しげに見えて。
チラッとこちらを見た紺野。気を遣ってこの場を去れということなんだろうけど、それは素直に聞きたくなかった。
紺野を2次会に行くメンバーの方へ促して、茅はようやく奈緒の方を向いた。
「奈緒ちゃんは?」
その穏やかな声に、安堵する。
「一緒に初詣、行こうよ」
寒さで少し赤くなっている頬と鼻。
トナカイのツノをつけていた名残りか、髪がふわっと寝癖みたいになっている。
「うん」
可愛いな。
「…トナカイ、脱いじゃったの」
「流石にあれ着て帰るわけにいかないって」
「かわ…似合ってたのに」
「…そういうこと言う。結構凹んでるんだからねー?」
いつもより少し饒舌な茅。
ふにゃっと柔らかく笑うのは、お酒が入っているから?
「奈緒ちゃんは2次会行く?」
「わたしは…帰ろうかな。クリスマス満喫できたよ」
「それならよかったけど」
「茅くんは2次会行くんでしょ?」
じゃあ、と奈緒が帰ろうとすると、茅が引き止める。
「奈緒ちゃん、これ」
ゴソゴソと、茅はリュックから紙袋を取り出した。
「クリスマスプレゼント」
「えええ!う、受け取れないよ!何も用意してないし!」
「今日無理に誘っちゃったし」
「そ…れは…和也くんが…」
「そうだけど。来てくれて嬉しかった」
たぶん、このままじゃ、いけないのに。
「…あけて、いい?」
「もちろん」
奈緒がおずおずと聞くと、茅は満面の笑み。
赤い袋に、白のリボンがかけてある。
白いリボンを、スルスルと解いていく。
「ハンドクリーム?」
「うん」
「あと、せっけん?」
「奈緒ちゃんっぽいなーと思って」
ハンドクリームはピーチティーの香りでパッケージがピンクの花柄、ピンクのバラを模した石鹸。
「わたしってこういうイメージ?」
「おれの中ではね」
「ふふふ、嬉しい。」
大切に袋の中に戻して、茅を見上げる。
「よかった」
喜ぶ奈緒を見て、ほっとした表情の茅。
「ありがとう」
風は冷たいのに、頬は熱くなって、茅を見ていられなくて、目を逸らす。
奈緒は、胸のあたりに宿る感情を持て余した。
温かいような、くすぐったいような、切ないような。
「送る」
「え、でも」
「おれも帰るし」
ね?と、押し切られて、奈緒は促されるまま、茅と並んで歩き始めた。
なんてことない話をしながら、帰りがけに通ったイルミネーションが、やけにきれいだった。