予定
告白されたのが夢だったかのように、茅との仲は相変わらずだった。
水曜の午後は一緒に授業を受けて、課題が出れば一緒にやって。
茅と話すのは楽しくて、向けられる視線にどぎまぎしながらも、心地よくもあった。
「おはよー、なおなおー。サークルでクリスマス会すんだけど来ない?」
教室の入り口で鉢合わせた和也は、急にそう切り出した。
「へっ」
「雅美も来るって言ってたし、サークル以外の人も結構来るって。」
「えええっと」
「予定あるー?」
「な、ないけど…」
素直に答えてしまってから、奈緒は断る理由がなくなったことに気づいた。
「ま、オレは行かないけどー」
「えええ」
「詳細は茅か雅美に聞いといて」
「そんなぁ、和也くんそんなの…」
「何か問題でも?」
「……ない、けど……」
「けど?」
笑顔で首をかしげる和也は、何を考えているか全くわからない。
和也がどこまで知っているかわからないから、茅と会うのが気まずいとも言いづらい。
「おはよう、奈緒ちゃん…と、和也。」
入り口で立ち止まっていると、後ろから茅が歩いてきた。
「はよー。茅、奈緒ちゃんがクリスマス会来たいってー」
「言ってな…」
「予定ないんでしょ?」
「ううう」
「ということだから、よろしくねー」
マイペースに席に向かう和也。
「ええっと…奈緒ちゃん。クリスマス会、一緒に行く?」
困ったように、茅が奈緒に問うた。
◇◆◇
会場はカラオケだった。
最初こそクリスマスソングを歌っていたが、クリスマスらしさは今や雅美や数人が着ているミニスカのサンタのコスプレくらいだ。
そこかしこで盛り上がる中、奈緒はすみっこでチミチミとオレンジジュースを飲む。
「本物の“なおちゃん”だ!」
「ちっさい!可愛い!身長何センチ?」
「ひゃ、ひゃくよんじゅうさん…」
「かわいー!!」
ひっそりタンバリンでも叩いて楽しむつもりが、なぜかスポーツサークルの女の子たちに囲まれている。
不思議なのは、みんな興味津々だが、好意的な空気なことで。
雅美がそんなに奈緒のことをサークルで話しているんだろうか。
「えええっと、はじめまして…ですよね…?」
「ちょっと、みんな奈緒ちゃんいじめないで」
女の子たちにそう言いながら、ドリンクバーから戻ってきた茅が奈緒の隣に座った。
トナカイの着ぐるみを着ている。似合う。
「ハイハイ。“茅のなおちゃん”だもんねー」
「メイド服かわいいって言われて凹んでたからどんな子なのかと思ってー」
「ちょ」
「ねー?友達って言われて凹んでたからさあ。」
「そうじゃなかったら今日もミニスカサンタ着せたんだけどね」
「ちょーっと気になっただけで」
「わーー!もうやめろよそういうのーー!!」
ガバっと立ち上がって驚いたのは奈緒だけで、みんな楽しそうに笑っている。
身に覚えのある奈緒は大変いたたまれない。
「えっと…ご、ごめんね…?」
「ーーーっ!」
「そろそろプレゼント交換するよー」
茅が何か言いかけたとこで、雅美が奈緒の両肩に手を置いた。
「いやぁ、まさか奈緒がほんとに来てくれるとは思わなかったわ。面白いもん見たわ」
「まさみ…」
「プレゼント出してー」
「う、うん」
雅美はマイクを手に持って、
「みんなー!プレゼント交換するよー!」
そう声をかけると定番のクリスマスソングが流れ始めた。