誤解
「そういえば、奈緒ちゃん、この前サークルに雅美探しに来たみたいだったけど」
水曜の午後恒例、一緒に帰る途中で茅がそう切り出した。
「そうだ!この前の隼人くんはね、雅美の弟だよ」
「…そうなんだ」
「うちの大学志望校で、見学に来たって」
「…ふぅん。奈緒ちゃんも仲良いんだ?」
「うん、幼稚園に入る前から一緒に遊んでたよ」
ちょっと、面白くなさそうな茅。
思ってた反応と少し違って奈緒は戸惑う。
ほっとすると思ってたのに。
「だからその、雅美との仲は心配ないというか…」
茅が、ピタリと足を止めた。
「…まさかとは思うけど、奈緒ちゃん、おれが雅美を好きだと思ってる…?」
焦ったような声で問う。
奈緒もつられて、立ち止まった。
「なんとなく…そう、なのかなって…」
違った、だろうか。
それとも、雅美と仲の良い奈緒にはそのことを知られたくなかった、とか。
女友達として踏み込んではいけないところだったのかもしれない。さじ加減が難しい。
奈緒は居心地が悪くなって視線を逸らした。
「余計なお世話、だったならごめん…」
はぁ、と大きな溜め息を落とされて、謝罪の言葉を口にして逃げるように止めていた足を動かした。
「待って、奈緒ちゃん。おれ」
問い返す間もなく左手を掴まれ、振り返りざまに目が、合う。
「や…っ、なに」
反射的に手を引こうとするが、ビクともしない。
奈緒を映す瞳はどこか哀しそうで。
いつになく真剣な表情で見つめられると、心臓がどきりと震えた。
目が、離せない。
「おれが好きなのは、奈緒ちゃんだよ」
ーーーおれが好きなのは?
しばらく、茅の言葉が理解できなかった。
え、だってそんな、まさか。
奈緒は目を見開く。
「1年のときに一目惚れしてからずっと」
驚いて何も言えないでいる奈緒を見て、茅は少し悲しそうに目を逸らした。
「……だから、他の誰かを好きだなんて誤解してほしくない」
それだけ、と、茅は奈緒の手を解放した。
放された手は、自由になったのに何処か寂しくて。
茅が去っていく足音を聞きながら、奈緒はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
ドキドキと脈打つ心臓にどうしていいかわからなくて、胸の奥から熱いものがこみ上げる。
「…って…茅くん、友達だって…」
言ってくれたのに、と、自分の膝を抱きしめるようにして、何の涙か自分でもわからないそれを、必死で押し殺した。