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訪問

「ごめん、奈緒。うちの姉が。いつも迷惑かけてるでしょ」

「ううん、わたしがお世話になってばっかりだから、これくらいは…」

「いやー、姉貴がお世話される側だろー」


隣を歩くのは雅美の弟の隼人だ。


「弟が明日受験だから泊めてもらおうって約束してんのに忘れる姉だよ?」

「あはは、ほんとだね。困ったね。」


泊めてもらう約束をしていたのに雅美は忘れてサークルに行ってしまったらしく連絡がつかず、奈緒を訪ねて来たのだ。


「体育館にいるといいんだけど…」

「いなかったら連絡つくまで奈緒んとこにいていい?」

「もちろん」


雅美と幼い頃から一緒だった奈緒とは隼人も顔見知りで、兄弟のいない奈緒は弟のように可愛がっていたし、隼人も奈緒に懐いていた。


体育館の中を覗いてみると、雅美と話しているのを見たことのあるメンバーとバスケをやっているようだった。

奈緒が入口から覗いて雅美を探そうとしている間に、隼人は中に入って行き近くにいた女の子たちに雅美はいないか聞いていた。


「雅美ーお客さんだよー」

「あああーっ!ごめん忘れてた!急いで着替えてくる!」


隣にいた子に何か言い残して、雅美は全力で更衣室に走って行った。


「雅美の彼氏ー?」

「あはは、違いますよ。弟です」

「弟いるって聞いたことあるー」

「言われてみれば雰囲気似てる…?」


隼人は体育館の壁に背を預けて雅美を呼んでくれた女の子たちと会話をしている。社交的なところは雅美とよく似ていて奈緒は羨みながらも隼人の隣まで行って会話が終わるのを待つ。

出番になった女の子たちがコートに入って行くまで途切れることなく会話をする隼人。その社交性を分けてほしいものだ。


「初対面であんなに喋れるなんて、すごいね」

「うん?奈緒人見知りだもんね」

「昔よりはだいぶマシになったと思うんだけど…」

「そうかな。でも未だに男は苦手なんでしょ」

「う…」

「ところでさぁ」


男友達はできたもんと心の中で言い訳する奈緒に、隼人はちょいちょいと手招きして奈緒の耳元でこそっと囁く。


「奈緒にオトコできたって聞いたけど今いる?どいつ?」


思いがけない問いに奈緒は隼人から赤面して離れ、訂正を入れる。


「おとこっ!?友達だよ!!」

「っはー、どっちでもいいよ。」

「…なんで、隼人くんが知ってるの?」

「姉貴が」

「ま…雅美ぃ…」

「で?どれ?そのオトコトモダチとやらは?」


頬が赤い自覚はあってもそれはどうしようもなくて、奈緒は隼人に促されて仕方なく答えた。


「…奥でバスケやってる、黒いシャツの子だよ」

「ふーん」

「も、いいでしょ?外で待ってよう?」


奈緒は隼人の袖を引っ張るが、隼人は腕を組んで品定めするように奥のコートを見たまま動こうとしない。

仕方なく奈緒も試合の様子を見るとはなしに見る。すると、茅がちょうどボールを奪ったところだった。ゴール下までドリブルをして行って、無駄なくシュートを決めた。

同じチームの子とハイタッチして、別の人には肩を叩かれて、また走り出すのが見えた。


「ごっめーん!」

「遅いよ、姉貴」

「本気で忘れてた」

「家行ってもいないし電話も出ないし。奈緒に聞いたらサークル行ったって言うし」

「ごーめーんー。夕飯奢るから」

「当たり前」


平謝りする雅美に、大袈裟なくらいにため息をつく隼人。


「奈緒も行くでしょ?」

「えっ?あ、うん。」

「奈緒も迷惑料として姉貴に奢ってもらえよー」

「わわわ、やめてよ」


犬でも撫でるようにわしゃわしゃと頭を撫でる隼人。


なんとなく視線を感じて振り返ると、一瞬、茅と目が合った、気がした。



◇◆◇



「明日受験なのに、こんなのんびりご飯食べてていいの?」

「うん」


ファミレスで夕飯を食べ始めたところで、奈緒は首をかしげる。

隼人は優雅にハンバーグドリアなど食べている。

まだ他にスパゲティも頼んでいて、細いイメージなのに、男の子だなぁ。


「推薦だし、形だけの面接だって。」

「そっかぁ、推薦なんて隼人くんも優秀だねぇ」


垂れ目で、雅美とは真逆のタイプだなぁと久しぶりに会った奈緒はしみじみと思った。

雅美と隼人の兄は、隼人とそっくりで垂れ目で穏やかな雰囲気だ。

羨ましいことに、みんな背は高いけれど。


「春からまた同じ学校だね。そしたら雅美とルームシェア?」

「げ、それは考えてなかった」

「あたしもそれは願い下げ!」


ドリンクバーから戻ってきた雅美が、隼人の隣に座りながら、眉を寄せた。


「あーでも母さんがどっちも一人暮らしは許してくれないだろうな」

「奈緒と私がルームシェアして、隼人が一人暮らししたらいいのよ」

「したら夕飯ご馳走になりに行こ」

「別に暮らす意味ないじゃない!」


しばらく聞いていなかったテンポの良い会話を聞いて、奈緒は思わず笑った。


「隼人くんがこっち来てくれたら賑やかになっていいなぁ。お父さんとお母さんは寂しがるだろうけど」


奈緒はふと、茅のことを思い出した。


そうだ、彼は雅美のことが好きなのだった。

奈緒と目が合ったのではなく、雅美と隼人を見ていたのだとすれば合点がいく。

次に話すとき、水曜の授業のときにでも弟だと訂正しておこうと決めた。

友達としてそれくらいの情報提供はしておくべきだろう。




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