飴
「奈緒ちゃん」
水曜日の5限目。当然のように茅が隣に座る。
「体調はもういいの?」
「うん、すっかり。いろいろありがとうございました。」
「いえいえ。回復したならよかった」
隣で頬杖をつく茅の、首元まで目線を上げて、目は見れずに視線を手元に落とした。
あれ、いつもこんなに近かったっけ。
隣にいる茅との距離に、胸がドキドキした。
茅はいつも通り。
それはそうだ。
意識しているのは、苦手を再認識した、奈緒だけで。
そんなことより、今日はちゃんとお礼を言わなきゃいけないのだ。
「あああ、あの!」
「うん?」
「こっ、この前お世話になった、お礼」
はい、と、可愛らしく黄緑と黄色のリボンでラッピングされたカラフルなキャンディを差し出した。
お菓子なら困らないだろうとたくさん考えて選んだキャンディで、リボンの色は茅のイメージで選んだ。
なのに、緊張のあまり、どもるし声が裏返るし。
泣きそうになりながら反応を待つのに、茅の反応はなく、奈緒は恐る恐る顔を上げる。
「え、え、えっ!?」
と、頬を赤くして、ガバッと立ち上がる茅。
「え?」
「えっ、ま、…おれに?」
「う、うん。」
想像していなかった反応に、緊張していたことも忘れて、茅の顔を見つめた。
「ほ、ほんとに?もらっていいの??」
「もちろん」
「う、嬉しい!大事にする!」
ストンと座って目線が近くなった茅と目が合う。
「食べて?」
「大事に食う!!」
キャンディを大切そうに受け取る茅に、奈緒は思わずクスクス笑っていた。
「茅くんって」
「うん?」
「面白いね」
「そ、そう?」
「だから友達多いんだね」
一緒にいて楽しいから。
クラスでもサークルでも、遠巻きに見ていてもわかるくらい、輪の中心にいる盛り上げ役で。
そういう人の、たくさんいる友達のうちの1人が奈緒なわけだ。
「わたし、茅くんと友達になれてよかったな」
奈緒は、少し気にしすぎていたかもしれない。
「ぇあ?う、うん」
きっと、茅は男とか女とか気にせず、奈緒にも接してくれているのだ。
それなら、1人の友達として、茅が楽しく居られるようにしよう。
「ずっと友達でいてほしいな」
「ーーーっ!!!」
言葉にすると、ちょっと心が軽くなった。
ちょうどよく、教授が入ってきて前を向いた奈緒は気付かなかった。
いつもより少しドキドキしながら授業を受けていた隣で、茅が頭を抱えて落ち込んでいたことに。