意識
茅は“奈緒”って、呼んだ。
いつもは“奈緒ちゃん”と優しく呼んでくれていたのに。
雅美が部屋を出て行った後、暗い部屋で奈緒は眠れずにぼーっと天井を見上げた。
お昼は熱でぼんやりしていたし、必死だったけど、思い出してしまった。
雅美に連絡しないでと必死ですがった腕とか、フラフラする奈緒を支えてくれた体とか。
熱を計るときに、冷却シートを貼るときに、そっと額に触れた手、とか。
細そうに見えていた茅もサークルでスポーツをしているだけあって見た目よりもしっかりしていて、ゴツゴツもしていた。
身長は雅美とそう変わらない筈なのに。
ーーー友達とはいえ、茅は男なんだからね
茅を女友達と同じように扱っていたわけじゃなかった。でも、奈緒に話しかける優しい口調に、柔和な笑みに、男の子として意識して接することはなかった。
だから気軽に話すことができたし、カフェでお茶するのも緊張しなかったし、茅の友達だと思ったから体格のいい和也とも話すことができた。
だがそれは男嫌いの克服とはイコールではなかったと気付いてしまった。
「どうしよう…」
ぽつりと、誰もいない部屋で思わず唇から零れた。
元々奈緒の男性への苦手意識は、男女の体格の違いという要素が大きい。
嫌だったわけではなかった。
嫌悪感や恐怖感とは、少し違う。
ただ、びっくりした。
メイドさんのカッコをしていたときは、女の子より可愛いんじゃないかなとまで思ったのに。
雅美や女友達とは、違うんだなと、意識してしまう。
次に顔を合わせたとき、どう接したらいいだろう。
きっと茅は奈緒のことを心配してくれるし、いつも通り接してくれるだろう。
でも。
いつもみたいに気軽に話せないかもしれない。
明日は水曜日だ。
熱は下がっても明日は休もう。
水曜日休んで、茅と顔を合わせなくて済むから、安心するなんて。