風邪
「大丈夫?なんか元気ないけど」
「え?そうかな?そんなことないよ」
そう、とまだ疑うような視線を送る雅美に奈緒は笑顔を作って見せ、うどんを口に運んだ。
「ならいいんだけど…」
雅美も渋々サンドイッチを食べ始めた。
本当のところ、朝から少し調子が悪く、今も頭がぼんやりしている。
季節は冬にさしかかり、ずいぶん寒くなってきた。
学祭のために準備をしていたから、無事終わって気が抜けたのか。
いつもなら雅美に言って先に帰るのだが、今日はそうできない理由があった。
「雅美、待ち合わせ何時なの?」
「んー、2時だからこれ食べたら行くよ」
「そっか。何処行くの?」
「んー、あんまり決めてない」
雅美には好きな人がいる。サークルのOBらしく、たまにお茶をしたりといい感じのようだ。
茅にはわざわざこちらから言うこともないと思って言っていないが、同じサークルだし、知っているのかもしれない。
奈緒が具合悪いと言えば雅美は早々に切り上げて帰って来るか、キャンセルもしかねない。奈緒のためにそんなことをさせたくなかった。だったら平気なフリをして後から怒られた方がいい。
「夕飯は食べて来るよ。帰りはそんな遅くないと思うけど。明日も学校だし、あっちも仕事だし」
「そっかぁ」
「てか、奈緒まだ半分も食べてないじゃん」
「あ」
「もう、ぼーっとしすぎ」
「雅美行ったらゆっくり食べるから、食べ終わったら行っていいよ」
「そのつもりー」
雅美は最後の一口を食べると、立ち上がった。
「もう行くね。」
「うん、行ってらっしゃい。楽しんで来てね」
「ありがと」
ヒラヒラと手を振って食堂を出て行く雅美に手を振り、雅美が見えなくなって手を下ろすと一気に力が抜けた。
見下ろした器にはまだ半分以上うどんが残っているが、もう食べられそうにない。作ってくれたおばちゃんには申し訳ないが、残して家に帰って寝よう。そう思って立ち上がったら、たった今食堂に来たらしい茅が近づいてくる。
「奈緒ちゃん、珍しいね、一人なの?」
「あ、茅く…」
ぐらっと視界が歪み、
「奈緒!」
机にしがみつくようにしゃがみ込んだ。目を閉じても回っているような感覚で頭がガンガンする。
「どうした?具合悪い?」
「ん、だいじょぶ」
「じゃないだろ。」
椅子に座らせられ、茅の手が奈緒の額に触れる。
「熱あるじゃん。とりあえず雅美に連絡…」
「だめ!」
携帯を取り出した茅を何とか止めたくて、携帯を持った手を掴む。
大きな声を出して頭に響いたが、そんなこと気にしていられなかった。
「だめなの、雅美には、言わないで…」
「なんで」
「今日は、だめなの…わたしは大丈夫だから、だから、」
「…わかった」
手を握るように、縋るように言えば、 茅は少し考えてから奈緒の手を握って頷いてくれた。
「じゃあ代わりに看病させて」