挨拶
「おはよー」
「はよー」
頭上で飛び交う、でも自分に向けられたわけではない挨拶に、出しゃばらずに無視せずに、奈緒は軽く頭を下げる。
「なぁ昨日のドラマ見た?」
「見る前に寝ちゃったんだよね」
「お前、絶対好きだから見ろっつったじゃんー!」
「ごめんごめん!来週は見るから!」
隣にいる雅美というすらっとした美人は、声をかけてきたクラスメイトやサークル仲間に挨拶を返しつつ雑談も忘れず、朝から楽しそうだ。
男女問わず友達の多い雅美は、奈緒の幼馴染で憧れでもある。
「おはよ」
「はよー茅」
「おはよう、奈緒ちゃん」
「…お、おは、よう」
突然名前を呼ばれた奈緒は戸惑いながらも挨拶を返す。そうすると、茅はふんわりと笑ってくれた。
「あれ、髪切った?」
「…よくわかるね?ちょっと揃えただけだったのに」
「雰囲気違う気がして」
挨拶ついでにそんな会話をするのは同じクラスの八島 茅。出席番号は山本 奈緒の1つ前、だ。
「雅美、今日バレーやるって聞いた?」
「聞いた。テニスやる気満々だったんだけどなー」
「あはは、俺も。体育館用シューズ忘れるところだった」
「あ!」
「バーカ」
茅は雅美と同じスポーツサークルに所属していて、最近は雅美と話すついでに奈緒にも声をかけてくれるようになった。
じゃなきゃ、いつも輪の中心にいる、盛り上げ役という感じの茅とは、接点なんてないだろう。
友達、というのはおこがましいが、挨拶を交わすくらいの仲である。