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Y機関 〜石橋酪舞は夜凪に舞う〜  作者: ス々月帶爲
二つの事件。鏡花の記憶。
1/3

0−1 観艦式にフリートウィーク

2049年10月11日土曜日。神奈川県横須賀市。横須賀地区吉倉岸壁。

 スマートフォンの画面には、「乗艦券 あさひ」の文字とQRコードがある。


「鏡花。こっちだ」


 スマートフォンを片手に持つ彼女を呼ぶのは、白い半袖の制服を着る男だ。彼は彼女の父親で、「あさひ」の砲雷長を務めている。

 今日は、所謂横須賀軍港に鏡花は来ている訳だが、軍艦の類に殆ど触れて来なかった彼女にとって横須賀を母港とする艦は勿論、他所から来た艦迄もが集結したこの状況下では父の乗る艦等分る筈もない。


「久し振りだね」


 のそのそと来た鏡花に対して、父は微笑んだ。

 父の手は、上がり掛けたが直ぐ引いたのを彼女は認識していた。私が以前露骨に嫌がったからだろうか、と彼女は父が帰省した時に頭を撫でられた事を思い出す。確かに頭を撫でられるのは高校生と云う身分が拒否するが、そんな事で父の愛情表現を潰すのは気が引ける鏡花であった。


「暑い」

「人もいっぱいいるからね」


 まるで居間で会話するかの様な、省略に省略を重ねた現代口語の会話を数箇月振りに会った親子がしている。ある意味、日本らしいものだ。


「『あさひ』砲雷長!」


 そんな親子水入らずの空間に、正しく水を指したのが「あさひ」砲術士だ。艦の名前を入れられては、群衆の中の他の砲雷長を呼んでいたと思った等と言い訳は出来ない。

 砲術士は、A6サイズ位の紙を右手に持っている。緊急の電文の類である事は、状況から推察出来た。


「あまり口に出したくないので、これを」


 その紙が、父に手渡された。

 紙に目を通した途端、死人の様な目に火が点った。


「出港準備だ。出港予定を早急に立ててくれ」


 砲雷長は、鏡花を置いてけぼりにして、話を進めた。砲術士は、苦い顔をする。


「然し、広報をしていますし、観艦式の予定は……」

「僕が高3の時、台風で観艦式は中止になった。式典なんかいつでも止めれるんだ。今は、命と艦を守る事に集中しろ」


 そう言われると、砲術士は、砲雷長を置いてそそくさと艦に戻った。


「鏡花。付いて来なさい」


 普段命令をしない父が、今迄見た事の無い鋭い目を鏡花に向ける。

 彼はもう父ではなく、砲雷長なのだ。




同日。護衛艦「あさひ」艦橋。

 砲雷長の鋭い目は、相変わらずだ。彼は一度(ひとたび)乗艦すると、普段見せる死人の様な目を忘れてしまう。今回は、いつも以上にその目は厳しかった。


「艦内の見学は中止させろ」

「了解しました」


 思い付いた良い事は、躊躇いなく実施していく。


「当直士官」


 砲雷長を呼んだのは、通信士だ。


護衛艦隊(EF)から新たな情報です」


 そう言うと、また、砲雷長に紙が渡された。砲雷長が読んでいる最中(さなか)にも、通信士は報告を続ける。


「報道でもかなり大大的にやってます。まあ、これだけの事ですからね……」

「12護隊司令は?」


 これに、通信士は首を振る。


「総監部は?」

「まだ何も」


 砲雷長は憂いた。日本の、緊急事態の対応力の無さを。


「来る出港に備え、半舷上陸を艦長に具申して来る。みんな、お菓子が無いと長い航海は飽きてしまうだろう?」


 そう言って砲雷長は、冷房の効いた艦橋を後にした。




2049年10月12日日曜日。0730。神奈川県横須賀市。横須賀地区吉倉岸壁。護衛艦「あさひ」艦橋。

「準備出来次第出港する。航海当番配置につけ」


 ブリーフィングが終った。砲術士が徹夜して作った出港の概要は、艦長が直ぐ認めて今に至る。突然の出港に、曹士は慌てて上甲板に出て来た。予め、一つの索道に2本通していたもやい索を、1本に変更しておき出港に備えていた。

 所で、「出港用意」と言う号令詞は、海上自衛隊が好きな人なら誰しも知り、海上自衛官は思わず嘔吐してしまうものだが、どのタイミングで喇叭が吹奏され号令が掛けられるか御存知だろうか。もやい索は入港時、艦を確りと固定する為にそれぞれを交差させて陸岸ビットに掛けている。出港時、それらを上から順に外して行くが、6本、8本と掛ったもやい索が全て離れたのが確認出来たら、「出港用意」を掛けるのだ。この時、もやい索が離れると云うのは、陸岸ビットからもやい索の(アイ)が外れた瞬間であり、もやい索が岸壁から落ちた時でも完全に揚収し切った時でもない。


「出港用意」


 そんなこんなで、最後のもやい索が離れた「あさひ」に、出港用意が掛けられた。

 この時、砲雷長は格納庫に居た。広報係士官でもある彼は、横須賀地方総監の命令に従い乗艦させる事になった隊員家族や友人等に説明をしていたのだ。これは、広報と云う名目で実現した事だから、彼が責任者となる。

 その説明も締めに入った時、副長を兼務する機関長が彼の元へ来た。機関長は、家族等に内容が聞こえない様、声を潜めて伝える。


「津波の予想が出た。40メーターだ」

「よん……?! 40メーターって、そんな……乗り越えられるのか? そもそも、それは本当なのか?」

「疑う気持ちは分る。だが、本当だ。オーストラリアでは、100メーターだとか噂が広まっている」

 他の作品ほっぽりさって書いたものです。三人称視点は苦手なので、練習がてら書いています。お見苦しいところがあるかと存じますがご容赦下さい。


 改善点や批判、質問等御座いましたら、お気軽にお聞き下さい。たまに長期行動で、返信出来かねますが早く返信できればそうします。

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