私メリー。最近、都市伝説女子の間で人気のダイエットは、階段昇降よ。
『私メリー。今、小学校の階段にいるの』
『私メリー。まだ、小学校の階段にいるの』
『私メリー。未だに…………階段……なの……』
『私メリー。二時間…………経過…………しているの……』
「貴様さては、数えると一段だけ増えてる階段を使ってるんだな!それと、多分連絡先間違えてんぞ!」
大体、どんな経路を選んだら、小学校の階段を使わなきゃいけなくなるんだよ。
草木も眠る丑三つ時。
僕の経験則なのだが、こんな時間にかかってくる電話は、仕事関連であっても、家族からであっても、嬉しいものであることはほとんど無い。
あーあ、着拒してえな、できねえよな。さんざん無視してたら、だんだん着信音が勝手に大きくなったんだよなあ。ホラー的存在って理不尽すぎない?
『私メリー。連絡先は間違えてないわよ。グループ通話だもの』
「勝手に見知らぬ他人への呪いに巻き込まないでもらえますー?」
知らんやつがメリーさんと仲良く会話してたら、呪われている相手もビックリするだろ。
「つーか、グループ通話にするメリットなんだよ」
『私メリー。人見知りだから、緩衝材が欲しかったの』
「僕は別に、就活のときに緩衝材アピールしてねえよ」
あと、メリーさんが人見知りって普通に致命傷じゃねえか。
『私メリー。決め台詞をいう時は、実は結構膝がガクガクぶるってるの』
「それなら、もう都市伝説やめろよ」
向いてねえよ。
『私メリー。それはできないわ。私たち──都市伝説──は、あなたたち人間がいる限り存在が消えることはないの。光があれば影が生まれるように、影がなければ光は健全な光ではなくなってしまうの』
うん、勝手に壮大な話にしてるけど、僕が言いたいのは個人の資質の話だからな。話そらすなや。
『私メリー。それで、本題なんだけれど』
「エレベーター使え。じゃあ、お休み」
『(私メリー。この時間に、エレベーターの電源が切られていないと、思っているの?)』
直接脳に話し掛けてくんな。
『私メリー。何か案がほしいの』
「思ったんだけど、ここで僕がなにも言わなかったら、このグループ通話のもう一人の人の命が助かるんじゃね?」
もう一人の名も存じ上げぬお方は、会話に混ざってくる気配がないけど。そりゃそうだわ。メリーさんと普通に会話できるやつは、頭おかしいよ。その代わり悲鳴とかはさっきからずっと聞こえてくるが。こっちの方が、本物の怪異より怖いってどうなってんだよ。
『私メリー。あなたの実家のフィギュアの位置、特定できてるのよね。まあ、他意は全く無いんだけれど、地面に叩きつけられたフィギュアって、大体破損するわよねえ』
シンプルな脅し止めれ。
『私メリー。ほれ、はよはよ』
「しばいたろか。…………階段使わずにジャンプしてみる、とか?」
しばらく、ドスンバスンバキッという音が聞こえてきた。
「壊れた?」
『私メリー。この程度で、メリーさんのボディを傷つけられると思わないことね。それで、悲しいお知らせなんだけど、まだ階段上よ』
「あーあ」
『私メリー。他の案ちょうだい』
他の案なあ。
「着地しない、とか?」
できるかは、知らんが。
『私メリー。今のメリーさんなら、余裕ね。ジュワッ!へアッ!いけたわ!』
「宇宙人系光の戦士だったのかよ!?」
あと、ピコーンピコーンって音してるけど大丈夫?
『私メリー。今、あなたが転売で稼いだお金で購入した家のドアの前に居るの』
『いやだぁぁぁぁぁ!死にたくないぃぃぃぃぃ!』
『私メリー。あなたの後ろに──』
ビックリしたわ。そういや、グループ通話中だったわ。急に声低くなるじゃん。
というか、今回の被害者(予定)転売ヤーだったのかよ。ちょっと同情してたけど、別にいいや。
それはともかく、グループから退会させてくれねえかな。明日も、というかあと数時間後には仕事なんだよなあ。
主人公 ブーメラン系奇人
メリーさん どじっ子